第129話 負けなきゃいい
ここはレイアノーティア。
勝てるかどうかと、
歩くかどうかは、
同じ問いではない。
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砂漠へ続く街道。
空は高く、
風は乾いていた。
どこまでも続く地平線は、
今日も静かだった。
静かすぎる。
まるで、
世界だけがこの先を知っているように。
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先頭を歩くのは、
トンヌラ。
その少し後ろに、
ガルド。
コムギ。
フィー。
ミラ。
クラウス。
ぽめは、
フィーに抱かれたまま眠っている。
深く。
静かに。
ぴくりとも動かない。
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「団長」
ガルドが口を開いた。
「団長ではない」
反射のような返事だった。
ガルドは、
少しだけ笑う。
「……そうでした」
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しばらく歩いてから、
もう一度口を開く。
「本当に、行くんですね」
「言っただろ。文句を言いに行く」
トンヌラは、
前を向いたまま答えた。
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コムギが歩幅を早める。
「団長。文句だけですよね?」
「他に何がある」
「……ですよね」
コムギは笑った。
けれど、
その声には少しだけ緊張が混じっていた。
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ミラが空を見上げる。
眼帯越しではない、
片目だけの空。
「ねえ」
「なんだ」
「勝てるの?」
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トンヌラは、
振り返らなかった。
「勝てるわけない」
即答だった。
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全員が、
少しだけ笑った。
あまりにも、
トンヌラらしい答えだった。
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「じゃあ、どうするんですか」
フィーが静かに尋ねる。
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トンヌラは、
少しだけ考えた。
それから、
当たり前のことのように言った。
「負けなきゃいい」
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風が吹いた。
その言葉を聞いた瞬間、
ガルドだけが目を見開いた。
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思い出す。
初めてギルドの外へ出た日。
自宅警備員だった自分は、
討伐へ向かうことさえ怖かった。
あの時も。
トンヌラは、
笑って言った。
勝たない。
負けなきゃいい。
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ガルドが、
小さく笑った。
「……あの時と同じですね」
トンヌラは苦笑する。
「変わってないだけだ。死ななきゃいい。折れなきゃいい。選ぶのをやめなきゃいい」
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コムギが静かに息を吐いた。
「それなら、できます」
柔らかく笑う。
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ミラが、
ギターケースを軽く叩いた。
「音も同じ。鳴らし続けてるうちは、負けじゃない」
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ガルドが頷く。
「守り続ける限り、俺もまだ負けていません」
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フィーが、
ぽめを抱き直した。
「重い……」
「また太ったか?」
トンヌラが振り返る。
ぽめは眠っている。
ぴくりともしない。
「寝てるだけなのに」
「謎だな」
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歩き続ける。
やがて、
砂の色が変わった。
空気が重くなる。
乾いているはずなのに、
息だけが浅くなった。
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前方。
地平線が、
灰色に歪んでいる。
グレイフィールド。
以前より静かだった。
以前より、
不気味だった。
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「ここ……やっぱり嫌です」
コムギが呟いた。
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ミラが弦を軽く弾く。
音は、
砂の中へ少しだけ吸われた。
「まだ生きてる。ここ」
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クラウスは目を閉じる。
因果を見る。
乱れてはいない。
むしろ、
整いすぎている。
「調整が強すぎます」
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トンヌラが、
一歩踏み込んだ。
砂が沈む。
柔らかい。
まるで世界そのものが、
呼吸を止めているようだった。
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「なあ」
誰に向けるでもなく、
トンヌラが言った。
「俺たち、無理だったよな」
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ガルドが答える。
「はい」
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コムギも頷く。
「無理でした」
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フィーは、
眠るぽめを抱いたまま言う。
「でも、選びました」
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ミラが続ける。
「だから、今ここにいる」
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クラウスが静かに締めた。
「それで十分です」
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トンヌラは、
小さく笑った。
「じゃあ、今回も同じだ」
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その時だった。
灰色の空が、
ゆっくりと裂けた。
巨大な影。
漆黒の翼。
砂漠の中心に、
統戒の魔王ドミニオンが立っている。
その背後には、
白い衣をまとったエヴァン。
静かに、
こちらを見つめていた。
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ミラが小さく息を吸う。
「……いた」
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ガルドが盾へ手を添える。
コムギが荷物を握る。
フィーがぽめを抱き直す。
クラウスが目を細める。
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トンヌラだけが、
肩を回した。
「よし」
少しだけ笑う。
「文句、言いに行くか」
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ここはレイアノーティア。
勝つためではない。
負けないために、
ここまで来た。
第129話 了




