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ゴカイ無双―五つの戒めは、世界を自由にする―  作者: フラグメント水沢
第13章 何度でも、朝へ

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第129話 負けなきゃいい

 ここはレイアノーティア。


 勝てるかどうかと、


 歩くかどうかは、


 同じ問いではない。



 砂漠へ続く街道。


 空は高く、


 風は乾いていた。


 どこまでも続く地平線は、


 今日も静かだった。


 静かすぎる。


 まるで、


 世界だけがこの先を知っているように。



 先頭を歩くのは、


 トンヌラ。


 その少し後ろに、


 ガルド。


 コムギ。


 フィー。


 ミラ。


 クラウス。


 ぽめは、


 フィーに抱かれたまま眠っている。


 深く。


 静かに。


 ぴくりとも動かない。



「団長」


 ガルドが口を開いた。


「団長ではない」


 反射のような返事だった。


 ガルドは、


 少しだけ笑う。


「……そうでした」



 しばらく歩いてから、


 もう一度口を開く。


「本当に、行くんですね」


「言っただろ。文句を言いに行く」


 トンヌラは、


 前を向いたまま答えた。



 コムギが歩幅を早める。


「団長。文句だけですよね?」


「他に何がある」


「……ですよね」


 コムギは笑った。


 けれど、


 その声には少しだけ緊張が混じっていた。



 ミラが空を見上げる。


 眼帯越しではない、


 片目だけの空。


「ねえ」


「なんだ」


「勝てるの?」



 トンヌラは、


 振り返らなかった。


「勝てるわけない」


 即答だった。



 全員が、


 少しだけ笑った。


 あまりにも、


 トンヌラらしい答えだった。



「じゃあ、どうするんですか」


 フィーが静かに尋ねる。



 トンヌラは、


 少しだけ考えた。


 それから、


 当たり前のことのように言った。


「負けなきゃいい」



 風が吹いた。


 その言葉を聞いた瞬間、


 ガルドだけが目を見開いた。



 思い出す。


 初めてギルドの外へ出た日。


 自宅警備員だった自分は、


 討伐へ向かうことさえ怖かった。


 あの時も。


 トンヌラは、


 笑って言った。


 勝たない。


 負けなきゃいい。



 ガルドが、


 小さく笑った。


「……あの時と同じですね」


 トンヌラは苦笑する。


「変わってないだけだ。死ななきゃいい。折れなきゃいい。選ぶのをやめなきゃいい」



 コムギが静かに息を吐いた。


「それなら、できます」


 柔らかく笑う。



 ミラが、


 ギターケースを軽く叩いた。


「音も同じ。鳴らし続けてるうちは、負けじゃない」



 ガルドが頷く。


「守り続ける限り、俺もまだ負けていません」



 フィーが、


 ぽめを抱き直した。


「重い……」


「また太ったか?」


 トンヌラが振り返る。


 ぽめは眠っている。


 ぴくりともしない。


「寝てるだけなのに」


「謎だな」



 歩き続ける。


 やがて、


 砂の色が変わった。


 空気が重くなる。


 乾いているはずなのに、


 息だけが浅くなった。



 前方。


 地平線が、


 灰色に歪んでいる。


 グレイフィールド。


 以前より静かだった。


 以前より、


 不気味だった。



「ここ……やっぱり嫌です」


 コムギが呟いた。



 ミラが弦を軽く弾く。


 音は、


 砂の中へ少しだけ吸われた。


「まだ生きてる。ここ」



 クラウスは目を閉じる。


 因果を見る。


 乱れてはいない。


 むしろ、


 整いすぎている。


「調整が強すぎます」



 トンヌラが、


 一歩踏み込んだ。


 砂が沈む。


 柔らかい。


 まるで世界そのものが、


 呼吸を止めているようだった。



「なあ」


 誰に向けるでもなく、


 トンヌラが言った。


「俺たち、無理だったよな」



 ガルドが答える。


「はい」



 コムギも頷く。


「無理でした」



 フィーは、


 眠るぽめを抱いたまま言う。


「でも、選びました」



 ミラが続ける。


「だから、今ここにいる」



 クラウスが静かに締めた。


「それで十分です」



 トンヌラは、


 小さく笑った。


「じゃあ、今回も同じだ」



 その時だった。


 灰色の空が、


 ゆっくりと裂けた。


 巨大な影。


 漆黒の翼。


 砂漠の中心に、


 統戒の魔王ドミニオンが立っている。


 その背後には、


 白い衣をまとったエヴァン。


 静かに、


 こちらを見つめていた。



 ミラが小さく息を吸う。


「……いた」



 ガルドが盾へ手を添える。


 コムギが荷物を握る。


 フィーがぽめを抱き直す。


 クラウスが目を細める。



 トンヌラだけが、


 肩を回した。


「よし」


 少しだけ笑う。


「文句、言いに行くか」



 ここはレイアノーティア。


 勝つためではない。


 負けないために、


 ここまで来た。


 第129話 了

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