第66話 嘘を繕う力
「騎士団にいたソイツを締め上げたら白状したよ、エリオット殿下に頼まれたって。」
「そ……そんな奴は知らない!」
「第二王子付きの部隊だし、命令すれば簡単だっただろうな。まさか金で雇われただけだと思われていた奴を、覚えている奴がいるなんて思わず、直接頼んだのが敗因だな。」
「……あなたにも前世の記憶があるのですね、エリオット殿下。」
「何の話だかさっきから……。」
エリオット王子は変な汗をかいている。
「だから最初の人生で聖女ではなかったアイリーンが、突然聖女として名乗りを上げることになったんだ。ミリアムの力を奪って、与える為に。ずっと……。」
ランディー王子がギュッと拳を握りしめる。
「ずっと僕たちを苦しめて来たのはあなただったのか。ミリアムの遺体をこの城にぶら下げたのも、遺体を回収しに来た僕を殺したのも。ずっと僕らの命を狙っていたのも!」
「ミリぽむ今だッピ!糸を引き抜くッピ!」
「そのほころび、見逃しません!」
ミリアムは、エリオット王子の嘘のほころびの糸を引き抜いた。
エリオット王子は、床にくずおれて膝をついた。
「いつも……なんでか成功直前で、時間が巻き戻るんだ。お前たちを殺すことには成功するのに、いつも……。」
「ルーパート王国と、アンバスター王国の王位を狙って、ランディー王子とミリアム嬢の命を狙ったことを認めるんだな。」
ユリウス王子が告げる。
「どうせまた巻き戻る!失敗した僕の為に、神が時間を巻き戻してくれているんだ!殺せばいいさ。次こそは失敗しない!」
大声で笑いながらそう言うエリオット王子。
「神があなたの為に、時間を巻き戻した、ですって?」
ミリアムが冷たい声でそう言った。
「女神アテナは、あなたの為になんて動いてくれないわ。だって、あなたは女神アテナから見放されているもの。」
「なんとでも言え。私は諦めない。何度でも……。」
「いいえ、無理だわ。加護縫いの聖女の力は、加護縫いをしたり、嘘のほころびを見抜くだけじゃない。」
ミリアムの背後に、嘘のほころびの糸がゆらめく。
「嘘のほころびを繕えば、嘘を本当に出来るのよ。エリオット王子とディック王子は、女神アテナから見放される!」
ミリアムは、自身の嘘のほころびを繕った。縫製の妖精たちが、ワッセ、ワッセとそれを手伝ってくれる。
縫製の妖精たちが、嘘のほころびを繕い終えた瞬間、エリオット王子に、室内にも関わらず、巨大な雷が直撃した。
一瞬気絶したエリオット王子は、すぐに起き上がり、困惑したように周囲を見回した。
「あれは……伝承にある、神罰……!?」
「神が見放した者に与えるという、怒りの雷鎚では……?」
「では、エリオット王子は、中央聖教会を破門ということに?」
この世界において、教会を破門されるということは、特に王侯貴族にとって死を意味する。
出生時の祝福も、成人の際の祝福も、葬式も。──王位継承時の立ち会いと認定も、中央聖教会が行うことになるのだ。
つまり教会に破門されると、たとえ王位継承者第一位だろうと、王太子だろうと、中央聖教会が認めてくれない為、王位を継げないということになるのだ。
「う……嘘だ嘘だ嘘だ!女神アテナよ!今度こそ目的を達成してみせる!お願いだ、今すぐ時間を巻き戻してくれ!私はあなたに選ばれた人間の筈だ!」
エリオット王子が天を仰ぐように両手を天井に向け、女神アテナの名を繰り返し呼んだが、何もかえってくることはなかった。
その後、証拠をもとにエリオット王子とディック王子が逮捕され、アイリーンと共に、聖女の殺人未遂と、王太子の殺害計画の罪で、投獄された。
王族専用の牢獄となる塔に、生涯幽閉されることが決定したそうだ。未遂でなければ死刑だったが、未遂の中ではかなり重い罪なのだと両親から教えてもらった。
アイリーンは更に聖女を騙った罪で、中央聖教会に魔女裁判にかけられるらしい。魔女裁判がなんだかを、ランディー王子は詳しく教えてくれなかった。
ミリアムの力を移すことに失敗し、自身が裁かれることになった現実が受け入れられずに、嘘よ!と何度も叫んでいたらしい。
フィリップ王子は殺意がなかったことで、王位継承権剥奪ののち、伯爵位を受け継ぐこととなった。他の国の王族との婚約も叶わず、ひっそりと生涯を終える予定だ。
「これでもう、巻き戻りはなくなりましたよね。ようやくって感じです。」
「やったッピね!ミリぽむが頑張ったおかげだッピ!」
ミリアムとランディーは、新婚旅行で大型客船の上にいた。学園に通うことはせず、そのままルーパート王国に移住することになった形だ。
「私もランディーを守れて良かったワ。ランディーとの記憶がないアナタが気に食わなくて、色々イジワル言ったけど、アナタが加護縫いの聖女で良かったと、今は思ってるワ。」
ツンデレ風にパイドラーが言う。
「……改めてごめんなサイ。私ともこれからは仲良くしてくれるかシラ?」
「それはパイドラー次第かなあ。イジワルされて、私もちょっと面白くなかったもの。」
「そうヨネ……。」
落ち込んだそぶりを見せるパイドラー。
「なんてね。私がパイドラーの立場だったら、やっぱり気に食わなかったかも。」
「アナタ……。」
「それだけランディーを大事に思ってくれてたってことでしょ?」
「ミリぽむ優しいッピ!」
「記憶がないのは私のせいじゃないから、そこは理不尽だと思うけど……。忘れられた挙句、大事な人だけが苦しんでたら、私だってモヤッとしちゃうと思うもの。だからこれで終わり。仲良くしましょ、パイドラー。」
「エエ。もちろんだワ。私もミリアムって呼んでもいいかシラ?」
「もちろん。」
「ありがとう、ミリアム。パイドラーを許してくれて。」
「待つッピ!僕の方がもっと、もーっとミリぽむと仲がいいッピよね!?」
アリアドネが慌てたように、ミリアムの首にかじりつくように腕を回す。
「パイドラーとばっかり、仲良くしないで欲しいッピ!嫉妬しちゃうから、あんまり僕の前で仲良くしないで欲しいッピ!」
嫉妬を隠しきれずに、小さい子が地面の上に寝転がって、駄々をこねているかのように、空中でジタバタするアリアドネ。
「もちろん、一番の仲良しはアリアドネよ。当たり前じゃない。」
「ミリぽむ、嬉しいッピ!」
そんな様子を愛おしげに目を細めて微笑みながら見ているランディー。
「……そうだね、僕が死なない限りは、巻き戻りはないと思うよ。……これでようやく終わった。長かったよ、本当に。」
「私の記憶って、このまま取り戻せないんですかね?」
「……思い出したい?」
「だって、前世とは言え、私の人生にまったくランディーがいないことになってるんですよ?ランディーだけがそれを覚えてるのって、なんだか寂しいじゃないですか。」
「……まあ、それはそうだけど、辛い思い出まで一緒に思い出すことになるよ。僕はこの先の思い出を一緒に君と作れれば、それでじゅうぶんさ。それよりもさ。」
「なんです?」
「僕は君に告白したのに、まだ、君からの返事が聞けていないことのほうが気になるな。前世では確かに何度も恋人同士だったけど、今の君は、僕を愛してくれているの?」
「まあ、アナタ、まだランディーに返事をしていなかったノ?さっさと告白しちゃいなさいヨ。じれったいわネ。」
「ミリぽむ、どうなんだッピ?」
ランディーがミリアムの目をじっと覗き込むように見つめる。ミリアムは照れたように目線をそらして、口をとがらせた。
「それは、まあ……嫌いじゃないですよ。」
ミリアムの背後で、嘘のほころびの糸が、ランディーを指さして踊っていた。
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