第62話 王家の影の総元締め
ランディー王子に言われて、老魔術師がミリアムの部屋へとやって来た。エミリアさんと、ブレスレットの両方がないと、辿れないとのことで、ミリアムは老魔術師にエミリアさんのブレスレットを渡した。
ブレスレットと烙印の解析を依頼された老魔術師は、魔力の残滓を調べ始めた。数時間後、彼はミリアムに報告した。
「居場所が判明しました。全員というわけにはいきませんでしたが……地図をご用意いただきましたのでご覧下さい。」
老魔術師は地図を広げ、魔力の共鳴があった場所を地図上に示した。
ミリアムはそれらの場所で、王家の影を捕縛するよう、ランディー王子の護衛騎士だちに依頼した。
まず繁華街の路地裏に、小さな工房があった。表向きは革細工の店だが、商品の陳列が不自然に古く、埃が溜まっていないのに日焼け跡がある──エミリアさんの店と同じパターン。
次に、港湾区。船便を監視するのに適した場所だ。痕跡は、魚市場の倉庫に繋がっていた。倉庫番の女性が、烙印持ちだった。
そして王宮近く。地図の点は、王宮の使用人区画を示している。烙印の魔力に反応したのは、庭師の老人だった。
とらえてみると烙印は剣の模様──暗殺者だった。一番抵抗したが、すでに包囲網がしかれていた為、逃げ切れなかった。
3人を王宮の地下牢に閉じ込めると、老魔術師は魔力残滓をたどって、王家の影の総元締めにたどり着いた。
──アンナソフィアは、ランディー王子が用意した建物の中で、とらえられた人物を尋問していた。
「まさかあなたが、王家の影の総元締めだとはね──オスマン伯爵夫人。」
オスマン伯爵夫人はとらえられているにもかかわらず、堂々とした態度だった。
「刺繍大会の優勝者として、王妃に堂々と近付ける立場。王宮に出入りしてもなんら不思議ではない。あれはあなたの作品ではなかったのだね。ようやく調べがついたよ。」
アンバスター王国の王家の影として、大勢の人々を取り込んだ結果、刺繍大国としてすぐれた人々を多く抱えるルーパート王国の人間たちに、手分けして刺繍作品を作らせていたのだ。
「ルーパート王国の人間が総出でかかれば、あれだけのものを毎年作れるのも納得だ。1人で作るにしては、あなたの作品は突出し過ぎていた。」
オスマン伯爵夫人は何も答えない。
「だがあなたに嫉妬した人間が調べても、誰にも依頼した痕跡がなかった。王家の影がやった仕事なら、調べられなくて当然だ。」
「私は何も答えません。」
オスマン伯爵夫人が初めて声を発した。
「影の烙印は、秘密保持を魔法陣によって結ばれているのだったな。簡単に話してもらえるとはこちらも思っていないよ。」
アンナソフィアは乗馬用の鞭を手に取り、反対側の手のひらにピシャッと叩きつける。
「夜は長い。じっくりと行こうじゃないか。私が拷問をしないと思ったら大間違いだ。」
オスマン伯爵夫人は、それを見つめながら、じっとりと汗をかいた。
アレクシスは、第一王子ユリウスと共に、管轄祭司長を調べていた。教会は不可侵領域とは言え、王族直々の調査を断ることは出来ない。
ましてや、管轄祭司長の独断で下したアイリーンの聖女判定に間違いがある可能性があるとなれば、むしろ王族相手に嘘をついたことになる管轄祭司長を差し出さなければ、この国そのものを敵に回すことになる。
ユリウスは中央聖教会から、別の管轄祭司長を呼び寄せ、既にアイリーンの聖女判定を済ませていた。結果はクロ。
アイリーンは聖女でもなんでもなかった。アイリーンが学園卒業後から聖女として従事する話になったもの、過去のアンバスター王国の聖女が、18歳にならなければ能力を開花しなかったことを例に出されたからだ。
だが他国の聖女たちは、皆聖女判定された時点で能力を開花しており、能力がないのに聖女判定を受ける場合は、神からの啓示で聖女であると示された場合のみ。
中央聖教会に今回その啓示はなされていない。能力が開花した状態での聖女判定は管轄祭司長に一任されていた為、中央聖教会ではこれを疑っていなかった。
アイリーンのクロが確定した状態で、アンバスター王国担当の管轄祭司長が嘘をついていることは明白なのである。
アイリーンは聖女を騙った罪で、管轄祭司長と共に、中央聖教会支部の牢獄に投獄されることとなった。
「聖女を騙るとは、ずいぶんと大胆な真似をしたものだな。」
ユリウス王子とアレクシスは、牢屋の鉄格子ごしにアイリーンに声をかけた。
アイリーンは牢獄の中で親指の爪を噛みながら、ギリギリと奥歯を鳴らして、アレクシスを睨んだ。
「まだよ……まだチャンスはあるわ……。待ってなさい、今に思い知らせてあげるわ!あんたたちは誰も許さないんだから!」
その確信めいた物言いに、アレクシスは嫌な予感がするのだった。
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