第58話 怪しい恩人
「エミリアさんです。私を殺した。」
「ミリアム、君、自分を殺した犯人を覚えているのかい?」
「毎回の分はわかりませんけど……夢の中で最初の人生の時に、エミリアさんからもらったものを口にして死んだんです。」
「それは間違いないのかい?今まで過去に巻き戻った時には、君はいつも何も覚えていなかった。だから僕はなんのヒントも得られなかったんだ。」
「そうなんですか?」
「君と2回目の人生では、ほぼ関わらなかったけど、3回目の人生で留学した時、君に確認したけれど、何も覚えていなかったよ。」
「──自分に嘘をついたのヨ。きっと、信用していた相手だったんじゃないかシラ。ショックで記憶の底に封印したのヨ。」
「夢の中ですけど、嘘のほころびの糸を引き抜いたから、多分間違いないと思います。多分それが、封印されていた私の記憶なんだと思います。」
「女神アテナ様ガ、あなたに嘘のほころびを見抜く能力を与えたのハ、それが目的だったのかも知れないワネ。きっと封印された記憶をあばく為だったんだワ。あなたの魂についた嘘を、あなた自身に見抜かせる為ニ。」
「確かに……。ルーパート王国で頼れる相手がいなかったから、マダム・アビゲイルをのぞいては、私にとって一番信用していた相手でしたね。エミリアさんは。」
「どこのどんな人なんだい?そのエミリアさんて人は。」
ランディー王子はじれたように尋ねる。
「私が刺繍を売っていた、小物屋の店長さんですよ。最初の人生からずっと会ってましたね。私の刺繍を市場価格の10倍で買ってくれたんです。……今思えばおかしな話だなとわかりますけど。」
「確かに、刺繍の腕が引き継がれた、何度目かの人生の君からならわかるけど、最初の人生から10倍で買うのはおかしい話だな。ちょっとこちらで調べさせよう。」
ミリアムは、自分でも調べてみようと考えた。あんなに信用していたエミリアさんが、自分を殺したのは何故なのか。その嘘を暴いてやろう、と。
ランディー王子との通信が終わり、ミリアムは勝手知ったる、ルーパート王国の繁華街へと足を運んだ。ランディー王子がつけてくれた護衛が一緒だ。
そしてそこに、懐かしいエミリアさんの店があった。入口に花の鉢植えがたくさん置かれ、平民向けだがそれなりに値段のする商品も扱っていた店だ。
キイ、と音をさせて、ミリアムは店の中に入った。護衛には外で待っていて貰うことにした。いらっしゃい、と振り返った年配の女性は、間違いなくエミリアさんだった。
ミリアムは思わずキュッと胸が締め付けられる。この優しい笑顔が、最初の人生で自分に毒を盛ったのだ。ミリアムはギュッと胸の前にで拳を握って、ドキドキする心臓を抑えながら、店の中を見て回った。
ミリアムが刺繍をおろしていないからか、店の中には他にお客の姿がなかった。こんなものだったかしら?とミリアムは思う。
自分がいた時はもっと流行っていたのだ。その時、ディスプレイされている商品に違和感を感じた。木の台の上のハンカチを手に取ってみる。すると背筋がゾクッとした。
──日焼けしている。ハンカチの形に、木の台が。それはつまり、このハンカチはまるで売れずに、ずっとここに置かれていたということにほかならない。
他にも次々と賞品を手にとってみる。するとホコリこそたまっていないものの、どれも商品の形に木の台が日焼けしていた。
つまりこの店の商品は、こんなあとがつくほどの期間、まったく売れていないということだ。そんなことで商売が成り立つとは思えない。
もちろん店頭のものはディスプレイ用だとして、注文を受けて商売をしている可能性だってある。実際ミリアムは前世でたくさんの商品をおさめてきた。
それが店に並んでいるところを、見たことはなかったけれど……。
記憶を消されていたから気付かなかったが、ミリアムはルーパート王国に来た時点で加護縫いの聖女だったのだ。
つまり、今ほど力が強くないにしても、加護縫いが出来たのだ。加護縫いの聖女でなくても、加護縫いが出来る人は、この国にたくさんいる。
それこそ他の国と違い、一般市民向けにも加護縫いの刺繍は売り買いされているのだ。
加護縫いの刺繍は普通の刺繍と比べて高い。
その刺繍が加護縫いかどうかは、国が認めることで、加護縫いの刺繍として売ることが出来る。それは前世で得た知識だ。
ミリアムは前世では生まれ故郷から国外追放刑を受けた犯罪者だった。
他の国の犯罪者を、ルーパート王国は加護縫いの使い手として認めることはない。だから加護縫いを売ることは出来なかった。
それでも加護縫いの聖女の力は、普通の刺繍に対してもあふれてしまう。ミリアムの刺繍を、加護縫いだと知っていて、10倍の値段をつけていたのだとしたら?
それとも、ミリアムを取り込む為に、信用させる為にお金を払って、味方のふりをしていたのだとしたら?
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