第55話 ランディー王子の告白
「……ごめん、僕はずっと、君に嘘をついていた。」
「嘘?」
「君の記憶は、僕が女神アテナさまにお願いして、塗り替えてもらったものだ。」
「どういうこと……?」
「君は過去に巻き戻る前、毎回殺されているんだ。僕の目の前で死んだこともあった。」
「あの夢……正夢だったのね……。」
ミリアムはポツリと呟く。
「君に辛い記憶を思い出させたくなかったんだ。巻き戻るたびに殺されるなんて。苦しんで死ぬ記憶なんて残したくなかった。」
だけど、と呟いたランディー王子は、ポロリと涙をこぼした。
「ちょ、ちょっとどうしたの!?」
それを見たミリアムは慌てだす。
「と、とりあえず店を出ましょう!ね!?」
そう言って、広場の噴水の前にランディー王子を連れ出した。
水しぶきが風に飛ばされて少し肌寒いからか、噴水の周囲にはあまり人がいなかった。
噴水の前のベンチに腰掛けてハンカチを手渡す。ランディー王子はまだ泣いていた。
「ごめん……ありがとう。」
「どうしちゃったのよ?急に。」
「わかったんだ。」
「なにが?」
「僕の運命につきあわせて、何度も巻き戻らせて。君がそのたびに殺されたのは、僕のせいだ。僕が、君を愛したから。君を加護縫いの聖女にしてしまったから。」
「ランディー……。」
パイドラーが心配そうにランディー王子に寄り添う。
「君の名誉と命を取り戻してあげたかった。だけどそもそも、僕が好きにならなければ、始まらない物語だったんだ。」
ランディー王子は苦笑したように言う。
「記憶を消すべきなのは僕だった。僕が君を忘れられなかったから。僕さえ君を愛していなければ、君は加護縫いの聖女の力の為に、殺されるなんてことはなかった。今それがはっきりとわかったんだ。」
「ランディー王子……ううん、ランディー。それはあなたのせいじゃないわ。」
ミリアムはそっとランディー王子の手に、手を重ねて見つめた。
「加護縫いの聖女の力を奪おうとした人たちが悪いのよ。それにそのおかげで、私は私を陥れようとしていた人たちから、自分を取り戻せたんだもの。」
「ミリアム……。」
「私があなたと出会う前から、私は色んな人たちに濡れ衣を着せられてきたの。だけどこの力を手にれたおかげで、それをはらすことが出来た。夢だった店も持つことが出来たわ。私はそのことに感謝してるのよ。」
「おかげで僕もミリぽむと会えたッピ!」
「そうね、おかげでアリアドネとも会えたわ。」
ミリアムはクスリと微笑む。
「ずっと1人で悩んできたのね。私の分まで苦しみを背負ってくれてたのね。ごめんなさい、ランディー。ずっとその事に気付けなくて。」
ミリアムは深呼吸をしてから、囁くように尋ねる。
「ねえランディー。今も私のこと……好き?何度生まれ変わっても変わらないくらい、好き?──本当のことを、言って?」
「それは……僕は……その……君のことは……。」
ランディーの頭に、新たな嘘のほころびの糸が揺れている。ミリアムはそれをそっと引き抜いた。
「ごめん、ミリアム。好きだ。ずっと忘れられない。好きだ。……だめだ、どうして、止まらない……。……ごめん。こんな風に気持ちを伝える筈じゃなかった。」
「私への気持ちに嘘をつくからよ。私はどんな嘘だって見抜いちゃうんだからね?」
「ふふっ。そうだね……。」
ランディー王子は涙を浮かべながら笑った。そしてミリアムをそっと抱きしめた。
「ラ、ランディー!?ここ、人前……。」
「僕は今度こそ君を守る。絶対にだ。2人で生き残ろう、約束だ。」
涙でかすれる声でそう、耳元で囁くランディー王子。ミリアムはそっとランディー王子の背中に腕を回し、ええ、と言った。
後日ランディー王子は、ミリアムを情報ギルドへと連れて行った。もうすべてを隠さずに、ミリアムと共有する為だ。
情報ギルドに個室を用意してもらって、そこで話の続きをすることにした。情報ギルドの個室は、ある意味王宮よりも情報が漏れにくい場所だからである。
「アイリーン嬢を聖女認定した教会には、情報ギルドに行ってもらって、その時の状況を調べてもらったよ。やはりアイリーンの奇跡を目撃した人はいなかった。アイリーンは聖女じゃない。これは間違いないと思う。」
「どうしてそれで聖女認定されたのかしら?おかしな話ね。」
「教会の管轄祭司長が認めたかららしい。」
「管轄祭司長?偉い人ってことね。管轄祭司ともなると、教会の中でかなりトップに近い位置にいる人のはずだわ。その中で長ともなると……。」
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