第53話 盲点
「──そう言えば、アイリーン嬢は、これまでの間に、聖女としてどんな活躍をなされたのですか?」
「え?」
ミリアムがキョトンとしている。
「ミリアム嬢は加護縫いの聖女として、精力的に加護縫いをされていらっしゃる。それに今では通常の刺繍も含めて、大きな店を経営されているではないですか。」
ミリアムはあれから、巻き戻り前からの夢だった店を構えて、刺繍の妖精たちに作らせた刺繍入りの商品を売る実業家となった。
加護縫いはルーパート王国の許可がないと輸出出来ない為、要望のあったものをルーパート王国に売る形で販売している。
それをルーパート王国がどういう風に売りさばいているのかは、ミリアムは知らないが、ランディー王子はきたる戦争に向けて軍備を拡大し、自分の私設軍隊を強化していた。
「ああ、アイリーン嬢が聖女として動かれたことはないですね。前世も今回においても。それがどうかしましたか?」
「……誰も見たことがないのですか?アイリーン嬢の聖女としての力を。」
「聖女認定された教会では確認してる筈ですよ?それが何か?」
「この国ではそれでよいのですか?通常聖女というものは、必要だから生まれるものです。生まれたからには聖女としての責務を果たす。これはどの国でも同じことですが。」
「お父さまお母さまいわく、学園を卒業してから果たさせるらしいですわ。私は自分が仕事をしたかったですから、幼い頃より刺繍をしてますけど。」
盲点だった。ミリアムばかりを気にしてきたランディー王子は、ライバルであるアイリーンの存在を、ただフィリップ王子がミリアムを追放させる、きっかけの存在としか思っていなかった。
3度目の人生で、ミリアムの入学を待って学園に留学したが、その時もミリアムを守るのに必死で、アイリーンを気にしたことはなかった。
「──彼女は本当に聖女なのでしょうか?偽物の可能性はないでしょうか。」
「え?どういうことですか?」
「……聖女として能力が現れた以上、聖女の責務を果たすものです。それは聖女の力が必要な状況にあるからこそ、聖女が生まれるものだから、が理由です。」
「聖女として認められたのに、聖女の能力を使わないのはおかしいということですか?」
「少なくとも僕は聞いたことがありません。どの国でも聖女が現れたら、責務をまっとうする。学業優先の聖女なんてありえない。」
「確かめてみる必要性がありそうですね。」
「ちょうど僕がアイリーン嬢に呼び出されているのです。意図はわかりませんが、会ってみようと思います。その隙に──」
「ずいぶんアイリーン嬢と親しくなられたんですね?」
「え?」
「この国に留学の為に戻られてから、まだ私とは何度もお会いしていないのに、アイリーン嬢とランディー王子が会ってるという噂を耳にしてますわ。それに。」
「それに?」
「アイリーン嬢からも、加護縫いの聖女の秘密が知りたければ、ランディー王子に聞けと言われたのです。アイリーン嬢はランディー王子から聞いたと言ってましたけど?」
ミリアムが少しすねたように頬をふくらませる。どうやら嫉妬していると見えて、ランディー王子は思わず嬉しさのあまり笑いだしてしまいそうなのを、ぐっとこらえる。
「少なくとも、僕は話していないですね。アイリーン嬢ははっきりと、僕からそのことを聞いたとおっしゃったのですか?」
「さあ……誰から聞いたのかしら?ランディー王子に、直接うかがってみてはいかがでしょう?って言ってたッピ!あいつ嫌味だッピ!」
アリアドネが、アイリーンのモノマネをしながらそう言った。あまりに似ていたので、ミリアムは思わずプッと吹き出してしまう。
「僕から聞いたように思わせたかったのでしょうね。」
「……今思うと、そうかも知れません。」
「彼女はなんと?」
「ええと……。愛によって生まれる聖女だから、加護縫いの聖女自身が死ぬか、あるいは女神に愛された者からの愛を失うと、その力は次の者に移る……だったと思います。」
「半分正解で、半分間違ってますね。」
「そうなんですか?」
「女神アテナに選ばれた人間に愛された人間が、加護縫いの聖女になる。これは正解です。」
じっとランディー王子に見つめられ、愛された人間、というところにドキッとしてしまうミリアム。
「加護縫いの聖女自身が死ぬか、あるいは女神に愛された者からの愛を失うと、その力は次の者に移る。ここが間違ってますね。」
「どう違うんですか?」
「女神アテナに愛された人間が、加護縫いの聖女と別の人間を愛した時に、今度はその人間が加護縫いの聖女となります。」
「そこはあってるんですね。」
「そうヨ。だからランディーがあなたと別の人を好きになれバ、あなたは加護縫いの聖女ではなくなるのヨ。」
パイドラーが少し冷たく言ってくる。どうにも自分が加護縫いの聖女であることを、この子は嫌がってるみたいね、とミリアムは思った。
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