第52話 過去のとの違い
過去の人生で、何度も愛し合った女性。今すぐ思いを伝えて、前のように愛し合いたいと願うのと同時に、毒殺された時のミリアムの姿が脳裏を過る。
「ランディー殿下、お待たせしました。」
ミリアムは微笑みながら近づき、ランディーは自然に手を差し出した。
街中を散策するデートは、彼女の好みに合わせたものだ。まずは花屋を回り、次に本屋へ。そして、目的のケーキ屋へ向かう。
ミリアムは巻き戻り前に、観劇や豪華なレストランなどより、こういうった庶民のようなデートを好んだ。
万が一にも記憶を刺激しないようにと思いながらも、ミリアムを喜ばせないデートは、ランディー王子の選択肢にない。
たまたまエスコート先がミリアムの好みにあったとしても、それはたまたまだ。
女性に喜ばれるようつとめるのは、紳士のたしなみであるのだから。
街の喧騒を抜け、小さな路地にある隠れ家のような店に着き、オススメのお店なんですよと、中へエスコートすると、ミリアムは店に入った途端目を輝かせた。
店内には甘い香りが満ち、ショーケースに並ぶケーキはどれも繊細な装飾を施されていて、見る目も楽しませてくれる。
席に案内され、ケーキを見せて欲しいと頼むランディー。ワゴンで運ばれて来たケーキから、ランディーは迷わず、ミリアムの好みのものを指差した。
「こちらがオススメなんですよ。」
柔らかいムースと、食べごたえのあるもっちりした層が重なるチーズケーキだ。
「じゃ、じゃあ、これにしてみようかしら。とっても美味しそうです……。」
「僕も同じもので。紅茶はこれに合うものを。ミリアム嬢は?」
「私も同じもので……。」
「かしこまりました。」
「美味しそうだッピ〜。僕も同じのが食べたいッピ!ミリぽむ、僕の分も頼んで欲しいッピ!」
「ここじゃ目立つから駄〜目。大人しくしててよ、アリアドネ。」
「ズルいッピ!ミリぽむばっかりズルいッピ!僕も美味しそうなケーキが食べたいッピ!」
「空中で突然ケーキが消えたらビックリされるでしょ?ちゃんとお土産に買って帰るから、家まで我慢してちょうだい。」
「うう〜。でも今食べたいッピ……。目の前でミリぽむたちが食べてるとこを見ると、お腹がすいてくるんだッピ。」
「家でゆっくり食べましょ。その代わり2つ買ってあげるから。」
「ほんとだッピ?約束だッピよ!」
「はいはい。」
「いやしんぼネ。ちょっとくらい我慢なさいナ。姉妹としてはずかしいワ。」
パイドラーにそう言われたアリアドネは、だって美味しそうなんだッピ!と、空中でジタバタした。
ケーキと紅茶が運ばれてくると、ミリアムはフォークを手に取り、一口味わうと、満足げに破顔した。
それを見て、ほんの少し目を細めるランディー王子。
「本当に美味しいです。この店といい、デートプランといい、私の好きな物を的確に用意して下さって関心します。」
「まあ、直感です。ローゼンハイデン公爵家に招待していたたいた際、レモンジュースを好んでいらっしゃいましたし、少し酸味のあるものがお好きなのかなと。」
ランディー王子は慎重に言葉を選びながら答えた。
「おかげでとても楽しかったです。連れてきて下さってありがとうございます。」
「こちらこそ。婚約者を喜ばせられたというのは、男として非常に光栄なことです。」
ミリアムは紅茶を啜りながら、ふと話題を変えた。
「ところで、ランディー殿下。アイリーン嬢と最近お話されましたか?」
「アイリーン嬢ですか?確かにたまに話しますが、それが何か?」
そう返されて、本当に会っていたのかと、ミリアムは少し穏やかでない気持ちになった。
「フィリップ王子との関係で、アイリーン嬢が少し気になることを言っていて。」
「気になること?」
ランディー王子は目をまたたかせた。
「アイリーン嬢、フィリップ王子のことを、本当は嫌っているみたいなんです。ううん、なんていうか、馬鹿にしてる、みたいな。そうはっきり言ってました。」
「加護縫いの力でそのことを?」
「はい。アイリーン嬢から、嘘のほころびが見えたので。てっきり愛し合ってるものだとばかり思っていたので、驚きました。」
「確かにそれは驚きですね……。意外な事実です。アイリーン嬢とフィリップ王子は、恋愛関係というわけではなかったのですね。」
ランディー王子は少し考え込む。
アイリーンはもともと1度目の人生では聖女ではなかったのだ。にもかかわらず、なぜか2周目以降から、毎回聖女としてフィリップ王子の前に現れる。この違いは何か。
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