第51話 ランディー王子の悪夢
ランディー王子は、深い眠りの中で悪夢に囚われていた。夢の中で、今日は1度目と2度目の人生を追体験していた。
1度目の人生では、幼い頃にメイベリン侯爵家で出会って恋をし、ミリアムが加護縫いの聖女として目覚めたことで、フィリップ王子の婚約者になった。
ランディー王子が、ミリアムへの気持ちを募らせたタイミングで、加護縫いの聖女になった為、能力に目覚めたのはだいぶ後だ。
そしてミリアムが、フィリップ王子の独断で国外追放され、ルーパート王国で再会し、ランディー王子と再び恋に落ちた。
だがアンバスター王国の国王は、聖女であるミリアムを手放すことを認めなかった。
ミリアムを返還するよう要求を受けたルーパート王国だったが、自分たちの聖女である、加護縫いの聖女を手放すつもりはなく、やがてアンバスター王国との戦争が始まった。
ミリアムを安全なところに移すよう言われたランディーは、前線に立つことなく、ミリアムを王宮に連れに行く為町へと向かった。
だが、ミリアムは目の前で血を吐き、亡くなってしまった。その場にいて救えなかったことで、加護縫いの聖女を死なせたとして責められるランディー王子。
貴族用の牢屋である塔に閉じ込められる。そこで自身も毒殺され、時間が巻き戻ったランディー王子は、2度目の人生でミリアムとの接触をさけ、マダム・アビゲイルに生活の手助けをさせ、見守ることにした。
これで問題ない筈だったのに、結局、再びミリアムが毒殺されてしまう。
聖女を死なせた罪には問われなかったものの、急遽戦争が始まり、前線を指揮していたところ、後ろから毒矢で狙われ、ランディー王子は死んでしまった。
「ミリアム……!」
ベッドから飛び起き、ランディーは額に浮かんだ冷や汗を拭った。
心臓が激しく鼓動を打っている。窓の外はまだうす暗く、外は静まり返っていた。
アンバスター王国に留学し、ミリアムと婚約したのは正しかったはずだ。
だが、夢は警告のように繰り返す――失敗すれば、また巻き戻る。いや、今度こそ巻き戻らないかも知れないのだ。
深呼吸を繰り返し、ランディー王子は今日の予定を思い浮かべた。ミリアムとのデートだ。ようやく二人きりで過ごせる時間。
婚約者としてミリアムと過ごせる時間。ミリアムは過去の記憶が一部欠けている。だから今のミリアムはランディー王子を愛してはいない。
その方がいい。過去の巻き戻りでは、ミリアムはランディー王子のことを覚えていて、自ら婚約破棄してルーパート王国に渡ってきたこともあった。
それでも死んだのだ、ミリアムは。
ミリアムが狙われるのは、加護縫いの聖女であるからか、もしくはランディー王子の想い人であるからである可能性が高い。
過去の共通点は、ランディー王子と出会った時点でフィリップ王子の婚約者であったということ。そして婚約の時点で加護縫いの聖女だと認められていたことだ。
だから今回はフィリップ王子との婚約自体を防ぎ、加護縫いの聖女だと知られる前に、自分との婚約をすすめたのだ。
一度目の人生こそ、フィリップ王子の婚約者になる前に知り合ったが、加護縫いの聖女だと認められて婚約してしまった。
彼女の安全の為には。自分の気持ちを周囲に見せず、今まで狙ってこなかった王位を狙い、その為の政略結婚として、加護縫いの聖女を求めている姿を見せたほうがよい。
今まで積極的に自分の派閥を作ってこなかったが、今回は表舞台に出ることで、なりふり構わず味方を増やすことに専念した。
婚約後に一度ルーパート王国に戻り、留学のタイミングで戻ってきたのはそれが理由だ。
その間も手紙のやりとりは続けていたが、ミリアムは義務的にとらえているらしい。だがそれはこちらとしてもちょうどいい。
あくまで儀礼的に、義務として婚約者の立場を果たす。その中で、自分たちを殺した、いや、今回も殺そうとしてくる犯人にたどり着かなくてはならない。
彼女の安全を確保しつつ、過去の記憶を呼び起こさないよう注意しなければならない。
ミリアムの記憶は一部抹消されているが、彼女の力はループごとに増している。
嘘のほころびを見抜く能力さえ開花したのだから。嘘はつかないように、うまくやり過ごさなくては。
ローゼンハイデン公爵家に尋ねて来たランディーの姿は、いつものように優雅だった。
お忍びで身分を隠す必要はない今、堂々と紋章入りの馬車で尋ねる。
やがて、淡い青のドレスを纏ったミリアムが現れた。ミリアムの髪が陽光に輝き、ランディー王子の胸がせつなく疼く。
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