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悪女の針仕事〜そのほころび、見逃しません!〜  作者: 陰陽@4作品商業化(コミカライズ・書籍・有料連載)


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第50話 アイリーンとのお茶会②

「ひ、引き継がれる……?」

「ええ。愛によって生まれる聖女ですから、加護縫いの聖女自身が死ぬか、あるいは女神に愛された者からの愛を失うと、その力は次の者に移るそうですよ。」


 ミリアム、目が点になる。

「は……初耳です。」

「ふふふ。驚かれたみたいですね?」

「驚くに決まってるじゃないですか!私、そんな大事なこと聞いてないですけど?!」


「不思議ですね。私とっくにランディー王子からうかがっているものかとばかり思っておりましたわ。だって大切なことですもの。」


 アイリーンは優雅にティーカップを傾けながら、悪戯っぽく首をかしげた。

「アイリーンさまは、どうしてそんなことを知っているのでしょう?」


「……?」

「どなたからそんなことを聞かれたのですか?」


 前世でも、加護縫いの話はさんざんルーパート王国で聞かされてきた。だが、加護縫いの聖女が女神に選ばれた者に愛されると生まれるという話は聞いたことがない。


 もちろんランディー王子の言うとおり、ランディー王子を守る為に生まれたのであれば、守り手である加護縫いの聖女を失ってしまった場合、次の聖女が現れること自体に不思議はないが。


「さあ……誰から聞いたのかしら?」

 アイリーンはにっこり。

「ランディー王子に、直接うかがってみてはいかがでしょう?」


 ミリアム、ここで完全にフリーズしてしまった。まさかランディー王子がアイリーンに教えた……?ミリアムはただただ混乱する。


 というのも、最近ランディー王子にアイリーンが近付いているという噂があるのだ。

 なんならランディー王子のほうから近付いて行っているという噂まであり、まさかと思いつつも気になっていたのだ。


「そ、そうですわね。大切なことですし、ランディー王子にうかがってみますわ。それよりも、アイリーンさまこそ、フィリップ殿下と仲がいいとうかがっていますわ!」


 それを聞いたアイリーンが、わずかにピクリと反応を示した。

「ええ。親しくさせていただいておりますわ。平民になってしまった私を気にかけていただいているようですの。」


 男爵令嬢とはいえ、もとは貴族だ。今は平民の自分を気にしているのかも知れない、とミリアムは思った。


「ではフィリップ殿下からお声をかけられたのですね。お優しいですわ!」

 とミリアムは思ってもいないことを言った。すると、突然アイリーンから、嘘のほころびの糸が揺らめき出した。


「あの子、なんか嘘ついてるッピね?」

 アリアドネが指摘する。

「ええ、そうなんですの。とてもお優しい方ですのよ。」


 さらにゆらめきが強く光ってうねりだす。どうやらフィリップ王子に対して思っていることが違うようだ。嘘のほころびの糸に手を伸ばしてみるも、それはまだ引き抜けない。


 もう少し追い詰める必要がありそうだ。だがいったい、何を隠しているというのか?巻き戻るたび、毎回同じだと思っていたが、今回はそうではないのか。──それとも、そもそも自分の前提が間違っているのか。


 アイリーンは無表情にも見える、貼り付けたような笑みを浮かべる。貴族の令嬢なら誰しもやることなので、これ自体は不自然でもなんでもないが、ミリアムは首をかしげる。


 今までてっきりフィリップ王子がアイリーンを気に入って、2人が交際に発展したものかと思っていたが、それは違ったのだろうか?


 男爵令嬢が自分から王子に声をかけるなどということは、いくら学園が身分を問わず接するよう推奨していたとしても、ありえないことだ。


 なぜなら皆そこまで図々しくはなれないからである。子どもたちの社交の場は、そのまま親に直結する。よほどのアホでない限り、自分より立場が上の貴族に絡みにはいかない。


 ましてや筆頭侯爵家令嬢であるミリアムを責める空気は、本来であれば遠巻きに行わなくてはならないことだ。


 それを堂々とやれるのは、開国よりの賢臣とされ、父親が大臣として立場の強い、ビーイング侯爵令嬢くらいのものである。


「まあ。それでお2人が恋仲になられたのですか?このままお2人が婚約するのではと、令嬢たちの注目のまとですのよ?ほんとのところをお聞かせいただけませんか?」


「それは私の口からはなんとも……。フィリップ殿下や王妃さまたちがお決めになることですもの。」


「でも、アイリーンさまは、フィリップ殿下をお好きなのですわよね?」

 ミリアムは、同年代の恋バナ好きの貴族令嬢程度の感じで尋ねた。


「ええ……。もちろん、お慕いさせていただいておりますわ。」

「今だッピ!糸を引き抜くッピ!!」


「そのほころび、見逃しません!」

 ミリアムはアイリーンの糸を引き抜いた。

 アイリーンがハッとしたような表情を浮かべる。


「……あんな馬鹿、王子じゃなけりゃお断りよ。私の目的の為に必要なだけ。私があの馬鹿を好き?ありえないわ。」


 嘲笑するように言うアイリーン。

「ア……アイリーンさま……?」

 ミリアムが困惑したような表情を浮かべると、アイリーンはハッとして、


「た、体調が優れないようですので、本日はこれで失礼させていただきますね。楽しかったですわ、ミリアムさま。」

 そう言ってそそくさと逃げて行った。



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