第49話 アイリーンとのお茶会①
ミリアムは緊張で背筋をピンと伸ばしながら、ティーカップを両手で恭しく持っていた。向かいの席に座るのは、なぜか新しく聖女になったアイリーン。
聖女の先輩としてお話を伺わせて欲しいという、アイリーンの要望により実現したお茶会だった。
「あの子、どういうつもりなんだッピね?ミリぽむを苦しめた張本人だッピ?いくら今はまだ関わったことがないにしても、なんだか怪しいッピね……。」
お茶会についてきたアリアドネは、腕組みしながらしきりに首をひねっている。
「シッ。静かに。私もそう思うけど、ひとまずは様子をみましょ。」
「いかがなさいましたか?」
「あ、いえいえ、なんでもありません。」
小声でアリアドネに答えたのを、アイリーンに聞きとがめられて、思わず慌てる。
本来であれば公爵令嬢と平民(もと男爵令嬢時代でもありえない)が、相手からの要望でお茶会をするなど不敬にも程があるが、聖女になったアイリーンは、ミリアムと同等の立場だ。
この国において聖女とは、王族に近しい立場の存在。フィリップ王子が巻き戻り前のミリアムよりも、後ろ盾として強いと選ぶのも無理のない地位に上がるのだ。
それでもルーパート王国の聖女かつ、第一王子の婚約者であるミリアムのほうが、政治的な立場としては上だが、王妃さま直々に頼まれては、さすがに断れないのだった。
フィリップ王子に、より強い国内の後ろ盾を、と常に考えている王妃さまとしては、急遽現れた聖女という存在は、婚約者をすげ替えるのにピッタリの相手だ。
実際前世ではミリアムを一度もお茶会に誘ったことがなかったのに、アイリーンのことはお茶会に呼んでいた王妃さまである。
だが、あの夢の記憶が本来の過去なのであれば、聖女だったのはミリアムであってアイリーンではない。
それでも王妃さまはアイリーンを選んだ。それはなぜだったのだろうか。よほど嫌っていたということかしらね、とミリアムはため息をつくのだった。
だが、もうひとつ気になることがある。あの夢が本当の過去なのであれば、アイリーンが聖女というのはおかしい、ということだ。
目の前のアイリーンは本当に聖女なのだろうか。ミリアムはじっと見つめたが、なんのほころびも見えず、わからなかった。
「ミリアム様、今日はお時間をいただきありがとうございます。」
アイリーンが優雅に微笑む。元貴族とはいえ、家が取り潰されたのは5歳の時だ。
それからずっと教会でシスター見習いとして暮らしていたとは思えないくらい、所作が優雅である。……誰か支援者でもいたのかしら?と、ミリアムは想像を膨らませる。
「あ、いえ……。私も楽しみにしてました。同年代で、しかもおんなじ聖女だなんて、なかなか出会う機会もありませんし!」
ミリアムの言葉に、アイリーンはくすりと笑って、ふと目を細めた。
「ミリアム様は……とても素直で可愛らしい方ですね。それにしても、ランディー王子とは随分と仲がよろしいようで。」
「えっ?いや、あの、まあ一応婚約者なので……仲良いっていうか……その、小さい頃に親しくなったので、腐れ縁みたいな……。」
「ふふ。照れなくてもいいですわ。ミリアムさまの為に、ランディー殿下は今年から留学されていらっしゃるのでしょう?」
「あ、はい、まあ……。」
ランディーは今年から、2年後にミリアムが通うことになっているコーレル学園に、正式に留学してくるのだ。
「だって――加護縫いの聖女は、女神に選ばれた人に愛されることで初めて力が目覚めるものですもの。近くにいたいですわよね。」
アイリーンの言葉にミリアムは固まった。
「……へ?」
「ですから。加護縫いの聖女は、女神に愛されている人に愛されることで、聖女に選ばれるのだと言うことですわ。」
「そ、そうなんですか?」
まったくもって初耳なミリアムは困惑する。ランディー王子の為に選ばれた聖女だということは、ランディー王子から聞いていた。
だが、ランディー王子に愛されると、加護縫いの聖女になる、なんてことは、巻き戻り前も今も、聞いたことがない。
愛される……愛され……。
夢の中のランディー王子の態度を思い出し、1人赤面してしまうミリアム。
「ランディー王子に深く愛されているのですね?羨ましい限りですわ。」
「えっあっ、そ、そうなんです……かね、あはは……。だとしたら嬉しいです。」
ミリアムは曖昧に返答した。
アイリーンはそんなミリアムをじーっと見つめながら、さらりと爆弾を投下した。
「ところでミリアム様。加護縫いの聖女の力は……人に引き継がれるものだということは、ご存知でしたか?」
ミリアムは、思わずカップを置く時に動揺し、カチャリと音を鳴らしてしまう。それを見たアイリーンが、前世でも見た、嫌味を隠した微笑みを浮かべた。
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