第47話 怪しい人影
「アイリーンは、もとプロフェン男爵の令嬢だったが、今日まで教会でシスター見習いとして過ごしてきたのだ。」
「プロフェン男爵……?昔私が取り潰しに協力した貴族だわ……。」
と思い出したようにアンナソフィアが言う。
「君が長期休暇をいただいた、あの事件で領地と爵位を取り上げられた貴族だったか。」
「……ええ。その娘がまさか、聖女だなんて……。国王さまはまさか、ミリアムの代わりにあの子を王子妃にすえようというのかしら。」
他の貴族たちも同じことを思ったらしく、取り潰された貴族の令嬢であれば後ろ盾がないぞ、養子に迎えれば、王家とつながりが持てるんじゃ……?などと囁いていた。
この国では養子を迎えるのは、5歳までであれば、親や、孤児院などの代わりの保護者が承諾すれば簡単に出来る。
だがそれ以降の年齢になると、子どもに対し働き手であることを求める平民たちが、まるで人身売買のように子どもを得ようとするのを禁止する為、いったん引き取りが不可能な期間が続く。
子どもたちが自身で判断し、養子になりたいと望むことが出来ると思われる年齢から、再び養子にすることが可能となる。その年齡が13歳であった。
アイリーンを見つめるフィリップ王子の目は、らんらんと輝いていた。そしてアイリーンもまた、ちらりとフィリップ王子を盗み見ていた。まるでその気があるかのように。
「聖女には修練をつんでもらい、その後コーレル学園に入学させようと思う。本来貴族であった少女だ。学生として学ばせる機会をもたせ、聖女としての活動は、学園の卒業後と定めることとする。」
国王の話は以上だった。アンバスター王国待望の聖女であるアイリーンの名は、一気に国内に広まっていった。
その時から社交界の話はアイリーン一色となった。あれほどミリアムをもてはやしていた貴族たちも、待ち望まれていた聖女を前には、そこにしか興味がいかないようだった。
ある日の夜、アイリーンは仮面舞踏会に参加していた。ランディーに依頼された情報ギルドの人間が、侍従の服を盗んで着込み、給仕をしながら様子を伺っている。
そこに仮面をつけたフィリップ王子がやってきた。
「ああ、美しい人よ、どうかこの俺と踊っていただけませんか。」
「ええ、喜んで。」
見た目だけは美しいフィリップ王子と、アイリーンのダンスは、人々の注目を集めた。
「どうやら注目を集めすぎてしまったようだ。バルコニーで涼みませんか。」
「もちろんですわ。」
フィリップ王子とアイリーンが、バルコニーへと消えていく。情報ギルドの人間は、こっそりとカーテンに隠れてその様子を伺った。
「あなたはまさか、聖女アイリーン?」
「そういうあなたこそ、第三王子フィリップさま?」
とんだ茶番だ、と情報ギルドの人間は苦笑を噛み殺しながら思う。
露骨な棒読みに、笑うなというほうが難しい。
お互いが示し合わせて別々に仮面舞踏会に参加し、知らないふりをして互いに一目惚れした、という演出なのだ。
仮面舞踏会とはいえ、見た目が派手で美しい人間の場合、仮面越しに正体はすぐに知られてしまう。そのうえで知らないふりをしているに過ぎない。
「ああ、アイリーン。ミリアムなんかより、君こそ聖女にふさわしいよ。」
「ミリアム?ミリアムというのは?」
アイリーンが首をかしげる。
「君より先に聖女に選ばれた女さ。と言っても、この国の聖女ではなく、ルーパート王国の聖女だけれどね。この国の貴族なのに、ルーパート王国を選んだのさ。」
「まさか、ミリアムさまはこの国を捨ててルーパート王国に?」
「そのまさかさ。ルーパート王国の第一王子と婚約している。」
「まあ……なんてことかしら。本来ならフィリップ殿下を選ぶべきだわ。私なら……きっとそうすると思います。」
アイリーンの声は甘く、しかしどこか計算高い響きを帯びていた。
「アイリーン、君は賢明な女性だよ。ミリアムと違って自分の立場をわかってる。」
「とんでもありませんわ。フィリップ殿下、もっとおそばによっても……?」
「ああ、もちろんだとも。」
単純に、ミリアムに対する意趣返し、かつ、自分の立場を強くする為に求めた聖女だったが、アイリーンはフィリップ王子の好みにピッタリだった。
自分を王族として立ててくれる、後ろ盾として強い女性。かつ幼気な顔付きに豊満な体をしていて、自分に好意が感じられる。
フィリップ王子はすっかりアイリーンに夢中になっていた。
仮面舞踏会でフィリップ王子と別れたアイリーンは、教会へと戻る為、植え込み近くの外の廊下を歩いていた。
そこに物陰からフードをかぶった怪しい風体の人間が、廊下を歩いていくアイリーンに、視線も向けずに話しかける。
「……首尾は?」
「ばっちりよ。あの馬鹿、私に夢中だわ。」
アイリーンはコンパクトを取り出して、化粧でも確認するように立ち止まりつぶやく。
「気を抜くなよ。依頼主の目的は、お前が本物の聖女になることだ。その為にはフィリップ王子に動いてもらわなくてはならない。」
「当然じゃない。……私の家を没落させたローゼンハイデン公爵家の娘が、ルーパート王国第一王子の王子妃ですって!?冗談じゃないわ。」
アイリーンはコンパクトをパチンと閉じた。
「私は本物の聖女になってみせる。そして王太子妃になるのよ!」
「……その意気だ。また連絡する。」
フードの人物がスッと暗闇に消えると、アイリーンは馬車に向かって歩き出した。
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