第46話 早すぎる聖女の登場
ミリアムは13歳、ランディー王子は15歳になっていた。
3度目の人生で、ランディー王子はアンバスター王国の貴族たちが通う学校に留学した。だがそれはミリアムたちが入学するのを待ってからだった。
今回は最初から入学し、学園を調べようと思ったのだ。前世で敵はアンバスター王国にもいるということに気付いたからだ。
恐らくアンバスター王国の中に、ルーパート王国への協力者がいるのだ。そしてそれは貴族以上であると思われた。誰が犯人なのかを調べるには、まずは敵対している人間や、人間関係を調べる必要がある。
アンバスター王国の情報ギルドに接触を図りに来ていたランディー王子の耳に、町中で話す商人たちの会話が飛び込んできた。
「アンバスター王国に、聖女が現れたらしいぞ。」
「聖女?」
ランディー王子はそのキーワードに思わず振り返り、曲がり角から少し覗くように、身を隠しながら様子をうかがった。
「アイリーンって娘だ。修道院で育った平民らしいが、突然奇跡を見せたって話だ。まだ正式決定じゃないが、宮廷じゃもう大騒ぎだと、宮廷に出入りしてる奴から聞いたのさ。」
ランディーは息を止めた。聖女……アイリーン?こんな時期に?過去のループでは、アイリーンが「聖女」と呼ばれるのはずっと後の話。学園入学直前のことだった。
「どういうことナノ?ずいぶんと早くないかシラ。」
パイドラーが首をかしげる。
「……ああ、ここ最近の巻き戻りと違っている。アイリーンが聖女として現れるのは、いつもミリアムの学園入学直前だ。」
ランディー王子がうなずく。
「──だがそれよりも、どうして途中から彼女が聖女になったのか、だ。1回目の人生で聖女だったのはミリアムだけで、アイリーンはただの浮気相手なだけだったのに。」
1回目の人生では、アイリーンはただの上昇志向の強い女で、フィリップ王子の浮気相手に過ぎなかった。
だが2度目の人生以降では、なぜかアイリーンは聖女だった。ルーパート王国の聖女であるミリアムと違い、アンバスター王国の聖女として持ち上げられていた。
なのに今回は、まだ学園に入る予定すらない段階で、アイリーンが聖女として名乗り出ている。これは過去になかったことだ。
「早すぎる……何かがおかしい。」
女神アテナに願った、「もっと前に巻き戻して欲しい」という思いが叶った代償か。
それとも、誰かが——アンバスター王国の誰かが——情報を早々に動かしたのか。
今回の時間巻き戻しは、これまでで最も早い時期まで遡っていた。ミリアムがまだ5歳であり、メイベリン侯爵家に行儀見習いとして預けられている頃。
最初の人生で、ランディー王子はメイベリン侯爵家でミリアムに出会っていた。その時はローゼンハイデン公爵家の面々は、メイベリン侯爵家にはいなかった。
メイドのエレナやビーイング侯爵夫人に、罪を被せられ、悪名が広まりつつあったミリアムは、教育し直しという名目で、行儀見習いに出されていたのだ。
この時期にミリアムと出会い、互いに心を通わせたことで、ランディーに愛されたミリアムは、加護縫いの聖女として目覚めていた。最初の人生で聖女だったのはミリアムだけだ。アイリーンは聖女ではなかった。
幼少期にランディー王子と出会い、愛されたミリアムが聖女として開花し、フィリップ王子の婚約者になった後、ミリアムが国外追放され、ルーパート王国で死を迎えた後で、ランディーも死に、巻き戻りが発生した。
いずれにせよ、アイリーンが聖女として祭り上げられるタイミングが早まったことで、ミリアムが狙われる時期も前倒しになる可能性がある。
ランディーは情報ギルドに向かい、大金を支払って調査を依頼した。
それからしばらくして、ローゼンハイデン公爵家では、家令がローゼンハイデン公爵に王宮からの知らせを持って、慌てて駆け寄ってきていた。
「……旦那さま、王宮からの火急の伝令にございます。」
「王宮から?」
ローゼンハイデン公爵は、通常の招待状とはことなる、リボンのかけられた巻物を広げた。そこには、この国の聖女が見つかった為、当主はすぐに王宮に馳せ参じるよう書かれていた。
「聖女が見つかっただと?この国の、ということは、ミリアムのことではない。新たな聖女が別に現れたのか。伝令はまだ外で待っているのか?」
「はい、すぐに返事をよこすよう、申しつかっております。」
「すぐに支度して向かうと伝えてくれ。」
「かしこまりました。」
ローゼンハイデン公爵が王宮へと向かうと、周囲は近隣の貴族の馬車でごった返していた。距離のある貴族は間に合わない為、後日お披露目ということになるのだろう。
赤い絨毯の敷かれた大広間へと集まると、国王、王妃、王子たち、そして貴族たちが大勢集まっていた。
ローゼンハイデン公爵の後に数人の貴族が入ってきて、そこに妻のアンナソフィアも含まれていた。恐らくアンナソフィア同様、文官職についている貴族だろう。
これでようやく声をかけられた全員が集まったらしく、広間の扉が閉められた。
「皆のもの、よく来てくれた。このたび、我がアンバスター王国の聖女が見つかった。アイリーン。前へ。」
すると、ミリアムと同い年くらいの少女がスっと前に出た。この国には珍しい、黒髪に青い目の美少女だ。
「あの子……どこかで……。」
とアンナソフィアがつぶやく。
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