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異世界王国と放浪少女と百合  作者: 山木忠平
2章 商人と親子
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昇級とデート 1

 いつもより騒がしかった夜が明けて、少しだけ騒がしい一日が始まった。


 木造建築の少なさが幸いしたのか、火災は昨夜のうちにほぼ鎮火したようだ。

 なので今は、逃げ遅れた人もしくは死体を倒壊した建物から運び出す作業をチラチラ見かける。


 後は、何の被害もなく普段通りの生活をしているか、全てを失って瓦礫を前に呆然としているか、ってところかな。

 ワイバーンには大雑把な指示しかしてなかったし、この辺は運次第だね。



「あ、おはよう、フローラ」


「おはよう、アーちゃん」



 特に約束をしているわけではないが、いつも通り冒険者ギルドに行ってフローラに会う。


 変わらない毎日って退屈で死にたくなる時もあるけど、美少女の笑顔を拝めるなら悪くないよね。

 少し気になるのは、彼女がギルドの前で待っていたことと、元気がないように見えることかな。



「あの、もしかして、疲れてたりする? ……それともボク、結構待たせてたりします?」


「ううん。ちょっと寝不足なだけだから、大丈夫」



 ふぅ、焦ったよ。集合時間なんてないけど一、二時間前から待ってるとかだったら、今までに稼いだ好感度が消し飛ぶところだったね。

 え? 元々高くないだろって? いやいや、もうカンスト一歩手前だって。


 ……いや、それはそれで上限値が低過ぎて、これからの関係の進展が見込めないような……。



「はい、これがア~ちゃんのプレートね。前のは自由に処分してくださいって」



 そう言って手渡されたのは、一枚の銀製の板――冒険者プレートだ。

 材質や色で冒険者の等級が、そして表面に刻まれた名前で個人の識別が出来るようになった、まあ冒険者なら誰でも持ってるレア度の低いアイテムだね。



「そういえば、『ワイバーンを倒したんだから絶対昇級する』って、ニコラが言ってたっけ。

 で、"銀"はえっと……Bランクだったかな? あ、フローラも同じになったんだね、おめでとう!」


「そうっ! そうなの!! なのにニコちゃんたらひどいのっ!

 いっしょだね~、っていったら『フローラと同じなのか……』って、微妙な顔したんだよ!」



 確か、フローラは最低ランクのFで、ニコラは一つ上のEだったはずだから、同じにされたのが不満だったのかな?

 ほら、身長が足りない分、マウントを取って何とか大きく見せたいお年頃でしょ?



「あ、あはは……、そ、そうだね。ひどいよね。

 って、ニコラがいないのは、それで喧嘩したからなの?」


「ちがうもん……そんなことでケンカなんてしないもん……」



 膨れてそっぽを向くフローラが可愛い。

 違うらしいけど、この反応からして軽い口喧嘩くらいはしたんだろうね。



「ニコちゃん、今日は防具を整備したいって一人でいっちゃったの」



 そういえばコボルト戦のダメージで、彼女の防具はボロボロになってたね。

 そこまで重厚な装備ではないけど、あれがなければコボルトに殺されていたかもしれないし、割と死活問題なのかも。



「そっか。じゃあ、二人でやれる依頼がいいね。Fランク向けならやれるよね、きっと」


「えーとね、今日は街を歩きたい気分なの。……いい?」



 街を、歩く? 僕とフローラが、二人だけで?

 それってつまり……デートということでよろしいのか? ふむ……。



「もっ、もちっ……コホン、コホン。

 もちろん何の問題もなくOKなわけだけれど、それはやっぱりデ――――」


「わーい♪ そうと決まればすぐに行動しなくちゃ! いくよ~」


「っ!?」



 デートかどうかの確認は、上機嫌となった彼女には聞こえていないようだ。

 というか僕もどうでもよくなった。柔らかで温かな天使の御手が、僕の手を優しく握ってきたからだ。


 しかも"恋人つなぎ"とか言われる伝説のアレじゃないのコレ!?

 ふへぇ、もうどこでもついて行っちゃうよ~。


 こうして僕は、フローラとの愛を(はぐく)むため、街へ消えていくのだった。~完了~。



「ア~ちゃん指長くていいな~。

 わたしのこどもっぽいからなぁ……あ、爪もキレイ」


「あの、えと、その。あり、ありが、とう。へ、へへ」




 ***




 というわけで、突発的に始まったデートは色っぽい展開に――――なるわけもなく、言葉通り街中を歩き回っている。 


 雑多な露店が集まる通りやお洒落なブティック街、堅苦しそうな人が堅苦しそうに出入りする商館が集まる地区等など。

 果ては瓦礫となった虚しい場所まで、ただ眺めては目に焼きつけ終わると、次の場所に移動するという具合だった。


 ウィンドウショッピングってやつなのかな?

 それにしては場所がおかしいというか、表情が真剣過ぎて楽しそうには見えないけど。



「アーちゃん……」


「うん?」


「わたしね、やっぱりこの街が好きみたい。

 いいことばかりじゃなくて、いやなこともたくさんあったけど、ここの住民になれてよかったって思うの」



 僕を呼んだ彼女だが、静かに語るその目に僕は映っていないようだ。

 たぶん記憶というか、思い出に浸ってる感じだね。



「うんうん」



 ということは、とりあえず頷いとくのが正解のはず。そうであって欲しいなぁ。

 でないと……僕の乏しい経験値じゃあ対処出来ないもの! 



「あのとき、こわくて怖くて、ほんとは目も耳も閉じてうずくまりたくなったの……でも、やらないとって思えた。

 だって、なにもできなくて、手遅れで、つらいだけの、あんな気持ちになるのはもういやだもん。

 それでもいっぱい壊されちゃったから、なくなっちゃったものも少なくないけど、さいごに役に立てたのうれしいな」


「うんうんうん…………ん? さいごって――――」


「あ! なにアレ? ね、ねっ、いってみよ!」



 僕の言葉は聞こえていたのか、いないのか。

 真剣モードから一転した彼女は、何かの食べ物を販売している屋台に一直線だ。


 聞き間違えじゃなければ"最後"と言っていたと思うけど、まいいよね。

 どうせ半分くらい話聞いてなかったし、なんかそういう流れになってたんでしょ。

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