昇級とデート 2
「おじさん! これはなに? なにを売ってるの?」
「お、らっしゃい! こいつは最近帝国で流行りのお菓子さ。
一度食べたらやみつき! もう止まらないよ~」
フローラが駆け寄った屋台は、どうやら異国の料理を販売しているらしい。
それにしても、安っぽい口上を並べるおっさんだな。
だいたい帝国なんて聞いたことあったかな? って、こんなあやしいおっさんの話で考え込むものじゃないよね。
「えっ。へーこれが……じゃあ、ふたつください!」
「まいど! 二つで銀貨二枚ね」
「銀貨二枚!?」
値段を聞いたフローラが驚いている。それって高いのかな?
えっと、銅貨一枚がパン一つ分くらいだから、銀貨はその百倍……うん、高くはあるか。
「ちょーーっと高いけどっ、しょうがないかなぁ。
いいよいいよア~ちゃん、今日つきあってくれたお礼にわたし出すから」
「え? あ、え……う、うん。ありがと」
何だか、スっと奢られてしまった。
こういう時の経験値が少なくて、遠慮した方がいいのか、それとも逆に失礼なのかとか、ぐるぐる考えているうちに頷いちゃったよ。
「気前がいいね、お嬢ちゃん! よーし、トッピングは大サービスしちゃうよ~!」
ということで出てきたお菓子はというと、アレだね。要するにクレープだ。
歩きながら食べてもいいけど、近くにベンチがあったので座ることにした。
ちなみに、今僕らがいるのは、まあまあ大きな広場だね。
元気が有り余った子供とか、休日には一家団欒な親子連れとか、人目を憚らないバカップルとかが出没しそうな場所だよ。
「これがうわさのクレープ……! ほんとにクリームがたっぷり入ってるのね。
なんにしても食べてみないと、あーん――んッッッ!! んん~~~~」
小さな口に目一杯頬張るフローラ。
すると、忽ち表情はとろけて、幸せの絶頂といった様子だ。
まだ一言も感想を口にしていないが、これほど分かりやすいこともなかなかない。
「ふぉいひーふぁら、ふぁーちゃんもんーんんんっ!」
「うんうん。気に入ったのは分かったから、飲み込んでからで大丈夫だよー。
じゃあ、ボクも。あむ、ん? これは…………」
もっさりとしたクリームに、パサパサの生地。
そして、ぼんやりとした甘さのそれらに続けてやってくるのは、イチゴなのかラズベリーなのか、とりあえず赤色の乾燥した果物の酸味だ。
「んん~おいしいね~」
美味しい……と言っていいのかな?
うーん、不味くはないけど、果てしなく微妙……。
「お、オイシイナー。ボク、こんなの初めて食べたよー」
馬鹿正直に本心を言ったりはしないものの、お世辞を考えるのもメンドーなので無難なコメントを目指してみた。
それにしても、フローラは味音痴なのかな? でも、待てよ。
この世界で甘い物を口にしたの、初めてじゃないか。
もしかして、スイーツとかってかなり貴重?
なら僅かな甘味で大袈裟に喜んじゃうのも頷けるよね。
「ん~? な~に?」
「ううん、何でもないよ~」
何より、幸せなそうな彼女を見てたら、十分以上においしいと思えてきた。
味なんて気にならなくなったところで、また一口パクついて片付けていく。
「? へんなア~ちゃん。
あ。うふふ、動かないでね~」
「え、えっ!? か、顔近くないっ? どっどうしたの!?」
元から至近距離にあった可愛いお顔が、文字通り目と鼻の先にまで急接近してきた。
こ、これはあれか!? キスってことかなっ!? そうだよ! 今日のこれはデートだった!!
なら、一度や二度くらいキスイベントが発生してもおかしくないよね?!
「動いちゃダ~メ……ちろっ」
「ひゃうんっ!?」
柔らかくも暖かい、それでいて湿った感触が頬を撫でた。
舐められた……の? どうして?
「ふっふっふ、いただきました。
ア~ちゃんってたまに抜けてるトコあるよね。
そういうトコかわいくて、わたし好きだよ~」
「………………ありがとう。
それじゃあ次は、ボクが取ってあげるね」
「あむ、もぐもぐ。えーうそだぁ、わたしそんなドジしなむぐっ!?」
間抜けにも、僕は頬にクリームを付けていたらしいが、そんなことはどうでも良い。
こんなことをされたら、僕のうっすい理性の壁なんて粉々だ。
「んーん!? んーーっ!?」
がっついているように見えて上品に食べる彼女の頬には、もちろん何も付けていない。
なので味わうのは、その柔らかな唇だ。
ぷにぷにでぷるぷるなそれを、僕の唇で捕らえて逃げられないようにしてから、上下と丹念に舐めていった。
「んむっ!? ほんふぁとぉ……! ぅ、ぁっ…………」
外は楽しんだので、次は内側――驚きで小さく開いた隙間から口腔内に舌を侵入させる。
驚きのまま噛み千切られても文句は言えない行為だが、彼女の綺麗な並びの歯が閉じることはなかった。
受け入れてくれた、ってことでいいよね? やった!
じゃあ早速、今さっき頬張ったやつを探してと。お、あったあった~。
「こくん……ふへっ、ボクもいただいちゃった。
やっぱりおいしいね~。やみつきになるっていうのも分かるよ~、うんうん」
訂正。このクレープ、いい味してるじゃないか♪
トッピングのフローラが格別だね。
食事は誰と食べるかが重要って、こういうことなのかな?
「アーちゃん…………。ん!!」
「あ、もう一回だね。んーちゅ――んぅ!?」
催促に応えると、今度は彼女の方から暖かくて柔らかいものが入ってきた。
またこちら側から攻めるもんだと思ってたから驚いたよ。
積極的な侵入を果たしたそれはというと、遠慮がちに這い回った後、しかし何故か残念そうに帰っていく。
「ない…………食べて、あーん」
「え? あ、あーん、むぐっ!?」
「んんっ、んんん~~~」
差し出された彼女のクレープを口にした途端、また唇を塞がれた。
そして、今度は出会えた甘味に満足してなのか、より彼女の瞳がとろんとしたような気がする。
……理性の壁がどうとか考えたけど、理性が崩壊したのはフローラの方だったみたいだね。
よし、僕も余計なことは考えずに、この甘い時間を全力で楽しむぞ!
***
「んぅ、んん……ちぅ…………」
あれから三十分は経ったというのに、舌はまだ自分と相手の口を行ったり来たりしている。
もうクレープなんてものはどうでもよくて、純粋に相手を貪り求めての行動だった。
う~~ん、何と言うか満足だね。
フローラの唇もふやけてきちゃってるし、これくらいにしておこうかな。
「ちゅ……ふぅ。じゃあ、そろそろ帰ろっか」
「か、える? ――はっ! う、うんっ、もう夕方だもんね! 帰ろ……な、なにこれ?」
「どうかした?」
「~~~っ!! なっなにも!? なんでもないからっ、気にしないでアーちゃん!!」
どこかそわそわした彼女に背中を押されて歩き出した。
何か様子が変じゃない? いつもより内股だし、さっき少しだけ俯いて固まってたし。
それはつまり……トイレに行きたいってこと? なーんだ、心配する必要なかったよ。
ということで、昼のデート編は終わりだね。
フローラはこの街を回って過去に浸ってたけど、今日の思い出に浸れる時が僕にも来るのかな。
……そんなことを、この後に待っているであろう夜のデート編を妄想しながら、頭の片隅で考えた。




