命の重み 9
「――――ここ!!」
張り詰めるくらいに集中していたフローラが引き金を引いた。
その瞬間バシュンと乾いた音がしたかと思うと、勢い良く槍が撃ち出される。
ただの弓とはまた違った物々しい音。
それがコケおどしではないと証明するかのように、みるみる標的との距離は縮まっていく。
誰が見ても直撃コースだ。
だから後は眺めていれば勝手に終わる――――なんて考えは、間違ってたみたいだね。
「は、外れちゃった?」
「いや違うっ。……クソ、弾かれたんだっ」
直撃したはずの槍は、ワイバーンの堅牢な外皮に阻まれ、刺さる事なく無残にも市街地に落下していく。
レイスくんからも戸惑いが伝わってくるし……本当にダメージなしってところだね。
あーあ、ダメだったなぁ。
同様に止まったところを狙った攻撃が続くが、結果は変わらずといった感じだ。
「――ボーっとすんなアイリス。次だ、引き絞ってくれ」
「え? あ、うん。出来たよ、でも……」
「あきらめんな! 一度でダメなら何度だってやってやる……ただ、それだけだっ」
何かニコラが勇ましいこと言ってる。
まあ、倒せないならそれでもいっか。しばらくやってもらって、満足したら帰らせる方針に戻すだけだし。
「おいっ、こっちに来てないか!?」
「GYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAッ!!」
「「おわああああぁぁぁああああああっ!!!」」
などと悠長な事を考えていたら、隣のバリスタにワイバーンが突っ込んで来た。
速度が乗って凶暴さマシマシな鉤爪の衝撃に耐えきれず崩れる城壁と、逃げ遅れて喰われかけている兵士達。
無意味な攻撃とはいえ、何回も当てられて怒っちゃったのかな?
「GYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAッ!!」
やっぱりそうだ。確実に怒ってるよ。
だって、ブレスを吐くわけでもないのに、大口開けて吠えてくるんだもの。
本当はきっと文句でも言いたいんだろうね。
「っ!! 口だ! 口を狙えっ!」
「……っ! うん!」
口? うーん、まあ確かに他よりは柔らかいところだとは思うけどね。
そう上手くいくのかなぁ。
「でも、まだきっとダメ……。
アーちゃん! これを強くしたいの……! なにかいい方法――強化魔法はないかなっ?」
これって、このバリスタのこと?
強くするって言っても、そんな都合の良い魔法なんてあるわけ……あ。もしかして、これなら効果あるかも?
「なんでもいいっ! 少しでも成功率が上がる、その可能性があるなら試してみてくれっ!!」
「そうだねぇ、じゃあ<ペネトレイト>。
貫通力が上がったはずなんだけど、これで良かったかな?」
「すごい……っ。強くなったの、わたしにも伝わってくる!
これなら絶対にやれるっっ! いっっけえええぇぇぇっ!!!」
「GYAAAA――――OGUUU!?!?」
一際大きく口が開かれたのを狙って二射目が放たれた。
先程まで全くの無力だったというのに、今度はあっさりと喉を貫通――その勢いのままに、背後の街並みへ消えていった。
そして、分かりやすく苦しそうな咆哮を上げるワイバーンは、城壁の上をよたよた歩くと大きく仰け反って落下した。
「やったっぽいね。うん、大体予定通りだったんじゃないかな~」
「本当かよ……まあいいわ。
そんなことよりも、確実に仕留めたかどうか――ひぃぃっ!?」
「ウォォォォォン…………ッ」
下を覗こうとしたニコラの前に、正体不明の靄が上がって来た。
遠隔操作なのかと思ったら死体に憑りついてたのね。
何にしてもやりきってくれたわけだし、後は好きにしてもらおっと。
――また何かあったら呼ぶかもしれないけど、その時はよろしくね。
――じゃあ、さよなら~。バイバ~イ。
ってことを念じたら、レイスはそのままどこかに飛んで行った。
「……どっか行っちゃった。なら全て解決ってことでいいよね。
んん~っ。風が気持ちいーし、めでたしめでたしって感じがするな~」
「ニコちゃんが倒れちゃったっ!? アーちゃん魔法! 回復魔法ー!」
前にもレイスを見て気絶してたっけね。
もー、ニコラはしょうがないなぁ。
また連れ帰ってお世話という名のセクハラを……いや、今日はフローラも一緒だから程々にしとくか。
時には我慢することも大事だよね。それにしても――――。
「誰かーーっ! 誰か手を貸してくれ! 妻が瓦礫の下敷きになってるんだっ!!」
「クソッ、火の回りが早ぇ!? このままだと手遅れになっちまう……っ」
ワイバーンが一匹暴れただけで慌て方が凄い。
喧騒を聞いてるだけでも、皆が元気なの分かるよ。
いつもの五割増しって感じだ。
偶にはこういうイベントが必要なのかもしれないね。うんうん。




