命の重み 7
「う、嘘だろ…………」
聞き覚えがある咆哮に釣られて外へ出ると、大空を飛び回るモンスターの姿があった。
街の上空を旋回するように飛行するそれは、気ままに炎を吐いたり、降下しては建物を破壊したりとやりたい放題だ。
「あれって、このまえのわいばーんかな?
うわーどうしよー。このままじゃまちがたいへんなことになっちゃうよー」
夕日により赤く染まる街並みが、別の赤に塗り替えられていく中、予め決めておいた台詞を言ってみた。
「「……………………」」
が、二人は空を見つめたまま。何の反応も返してはくれない。
えー。いくら棒読みのゴミ演技だったからって、無反応はひどくない?
「それでえっと……、どうします? また戦ってみちゃったりしてみる?
どうせ逃げる場所もなさそうだし」
「いや無理だろ!? アレがどんだけ危険かって、嫌なほど思い知らされただろうがっ!?
下手に刺激して、もし標的にでもされたら……っ」
「でもさー。フローラのお父さんが借金まみれになったのは、元を辿ればあのワイバーンが原因でしょ?
なら仇って事になるわけだし。それってやっぱり、ボク達で倒した方がいいと思わない?
……まあ、思わないなら忘れてくれてもいいんだけど」
「んぐっ。それはっ……けどなぁ…………」
ホント、フローラが弱点だよね、ニコラは。
彼女を引き合いに出した途端に黙っちゃってさ。
「パパの、かたき――うん! やるよアーちゃん。わたしワイバーンさんをたおす!」
「あ、やる? いいねいいね~、その意気でやっちゃお~。
ニコラも、もちろんいいよね?」
「あ、あぁ」
話がまとまったところで一応説明しておくと、この襲撃イベントは仕込みだね。
レイスには死体を動かす能力があるから、程良く暴れるように言ってあるんだよ。
で、何故そんなメンドーな事をしてるのかといえば、放心状態だったフローラを助けたいっていう純粋な思いからだね。
うんまあ、純粋っていうのは盛ったって認めるとして……ヒントになったのは、あの借金取りくんの話だよ。
フローラにも復讐っていう当面の目標を用意出来れば、ちょっとした活力くらいにはなるんじゃないかなぁーってね。
……でも、まさか既にニコラが解決してるなんて……。
想定段階から破綻してて、やる意味もほぼほぼなくなってるけど……止めるタイミングを逃してしまったのでやるしかない、っていうかヤッてなかったことにしよう。
「つっても、飛ばれてたらあたしの攻撃はかすりもしないしなあ……」
「わたしの魔法も、威力が足りなくて効果がないと思う……」
二人の言葉を聞いて、重要な事を思い出した。
――そういえば、どう倒すかまで考えてなかったな~。
「てなると、可能性があんのはおまえの魔法くらいじゃないか?」
「エ゛ッ。 ま、また補助魔法使おうか? そしたらやれない? え、それでも無理? ……そっか」
といった事を話してる間に、ワイバーンを迎撃しようという攻撃がチラホラと始まっていた。
その中には、数は多くないものの魔法攻撃も混じっており、強化されたフローラのそれよりも明らかに強力な一撃も見られる。
しかし、それを受けても怯むどころか、どこ吹く風といった様子で飛び続けるワイバーン。
う、うーん。これでフローラの魔法で倒せたら、明らかにおかしいよねぇ――ヨシ。
「分かった、諦めよう。無理しても仕方ないよね、うんうん。
そうだ。思い付いたんだけど、風呂屋に逃げるのはどう? 火とか吐かれても、タイミング良くお湯に潜ればなんとかな――」
「お願いアーちゃんっ! パパの……ううん、パパだけじゃない。このままだと色んな人が不幸になっちゃう!
そんなの、わたしもう見たくない……っ。だからお願い!!」
潤んだ瞳をした美少女が、キス寸前の距離で願い事をしてくる。
こ、こんな事をされたら、いくら強靭な精神で有名な僕でも揺らいでしまうよ!
「あの……えと、その…………は、はぃ」
僕も粘りに粘ったんだけど、つい頷いてしまったね……。
とはいえ、僕が倒しても何の意味もないから、出来ることはしたって見せかけてみようかな。
――あ、レイスくん? 今からちょっと魔法撃つけど、ギリギリで避けてくれる?
――後、ノーダメって思ってもらいたいから、そのまま余裕な感じでいてね、よろしく~。
そんな風に心の中で語りかけると、丁度真上くらいを通過したワイバーンがこくこくと頷く姿が見えた。
まぁこれで大丈夫かな。後は出来るだけ誤魔化せそうな魔法を探して……。
「……それじゃあ、いくよー。
ボクの一番得意な魔法! これであいつに少しでも傷を負わせてやる!
<ウインドカッター>、いけぇーっ」
特に意味はないが、何となく意気込みっぽい事を語りながら魔法を発動する。
その効果は一切ないけれども、暴風の塊が肉眼でも見えるのではないかというくらいに凝縮され、狙った通りに撃ち出される。
そして、みるみるうちに距離を詰めていき――紙一重で躱された。
「くっ、だめかぁ。やっぱりダメージはあたえられないかぁ」
「……いまの、外れなかったか?」
せっかく白々しい演技までしたっていうのに、ニコラが問い詰めてくるよ!
いや、彼女も確信は持ってないはず。きっとごり押せば何とかなるね。
「そ、そんなことないよぉ? 当たった瞬間はワイバーンもちょーっとだけ揺れてたし、当たりはした……うん。
でも、あっちの防御力が高過ぎるから、当たってないように見えただけだって」
「そう、だよね。術者のアーちゃんがいうんだもの、間違いない……。がんばってくれて、ありがと」
簡単に騙されるフローラと、彼女が言うならってことなのか、ニコラも引き下がってくれた。
少し離れたところから「な、なんだあの風魔法はっ!?」とか聞こえてくるけど、無視しよう。
ってことで、僕達の戦いは終わりだね。
レイスにはもう少し暴れてもらって、その間、僕は二人と身を寄せ合って静かに隠れてよ~。
それで、もう死んじゃうかもしれないってことで、さっきの部屋での行為を再開してもらって、僕も参戦する流れに…………。
「なに……アレ? すごくおおきな矢、なの?」
「あれは――バリスタだ!」
というような妄想をしていたら、空を見上げ続けていた二人が騒ぎ出した。
へ? もう何も用意してないはずだけど、どうかしたの?




