命の重み 6
「えと、ごめんくださーぃ……。あのフ、フローラさんいますかー……。
…………ア、アイリスですぅ。不審者とかじゃないので……そのぉ、開けてもらえませんかぁ?」
フローラ宅の玄関をノックしながら、精一杯の呼び掛けを試みる。
やけに弱々しいのは友達、それも女の子の家を訪ねるという特大イベントに僕の精神力がギリギリだからだ。
昨日は二人が一緒だったから気が大きくなってたみたいで、一人だと急に心細くなるから不思議だよねぇ。
ちなみに、依頼の方は転移魔法で戻ってすぐにギルドへ寄って報告を済ませたよ。
でも、それを聞き終わった受付嬢が何か言いたげだったような……何か忘れてるのかな?
まあ、軽く流してきちゃった事を考えてもしょうがないか。
「留守? いや、いるよね。うん、いるいる。
なら、もしかして寝てるとか? 昨日から忙しかったし、十分あるよね」
留守ではないと分かるのは、家の中に生命反応があるからだ。
居留守の可能性は、僕の名前を出しているのでないだろう。……えっ、ないよね?
「それじゃあ、勝手にお邪魔しま――って、鍵くらいかかってるか。<開錠>。
あれぇ? あいてるー、ぶようじんだなー」
反応があるのは、あそこの部屋だね。
何の部屋かな? 出来れば、昨日は入れなかったフローラの部屋だといいな~。
「んっ、んん…………!」
と、内心わくわくで廊下を歩いていたら、目的の部屋からくぐもった声が聞こえてきた。
それはどことなく官能的で、足取りは自然と音を立てないよう静かなものになっていく。
自室で、それも一人の時にやることといったら、アレしかないよね……っ!
よし! これは絶対に気付かれちゃいけないなっ!
「な、なあ? やっぱり、さっき声がしなかったか? んん――っ」
「んーそう? でも、わたしにはなにも聞こえなかったよ? ニコちゃんのカン違いじゃないの?」
近付く程に鮮明になる声は、聞き覚えのある二人のものだ。
えっ、二人? 生命反応は一人分なのに、どういうことだろう?
頭に浮かんだ疑問を解決するため、意を決してドアを少しだけ開く。
息を呑んで、僅かに出来た隙間から室内を覗き込んだ先にあったのは――――桃源郷だぁ~。
一糸まとわずベッドの上で肌を重ねる二人。
しかも、上を取り攻め手になっているのはフローラで、ニコラはしおらしく受け入れる側だ。
でもいや待って…………え??? いつの間に、そこまで関係進んだの?
「間違いならいいが、もし鍵開けっ放しだったらどうす――あっ」
「うわやばっ、目が合っちゃった……」
いやいや、そんなことを言ってる場合じゃないよっ。
気圧されて危うく覗きだけで済ませるところだった!
すぐに部屋へ突入して僕も参加させてもらわないと!!
「えっと、お邪魔してまーすぅ。で、早速なんだけど、それボクも混ぜてくれない……ダメ?
お願い! お願いします!! 何でもするから~」
「あ、あい、あいりう!? おまっ、なんで!!?」
「アーちゃん? わ~、いらっしゃ~い」
予想を斜め上に突き抜ける、正反対の反応が返された。
フローラのこの余裕……! まさか、割とこういった展開に慣れていらっしゃる?
ピュアピュアな娘だと思ったら、百戦錬磨の強者だったのか……むしろエスコートをお願いするくらいがいいのかもしれないね。
「混ざりたいの? どうして?」
「ど、どうしてって……そんなのボクも二人が好きだから、だよ?」
「? わたしもア~ちゃんのこと大好き~」
一瞬だけきょとんとされたものの、すぐに満面の笑みと甘い言葉が僕の目と耳を同時に蕩けさせてくれる。
しかも彼女達は裸なものだから、全開放されたその艶かしい肢体を眺めているだけで、こちらも全身が火照ってきて――――。
「だあーっ! 話が食い違ってるとか、言いたいことは山ほどあるが、まずは服くらい着させろーーー!!」
***
ニコラが爆発したので、一時中断してお着換えタイムを挟むことになった。
その間僕は何故か部屋の外へ……女の子同士なんだから気にしなくてもいいのに。
「ナカナオリ……? なかなおりって、あの仲直り?」
「うん」
落ち着いたところで、何をしていたのか改めてフローラが説明してくれた時の反応が今のやりとりだ。
そういえば、二人は喧嘩中だとかニコラが言ってたっけ。
でも仲直りって、あんなに刺激的なものだったかな??
「昔ね……まだママもパパも生きてるくらい昔、ママが教えてくれたの。
たまたま夜に目が覚めちゃってパパとママの部屋に行ったら、さっきのわたしたちみたいにしててね。
『なにしてるの?』って聞いたら、『これは仲直りなのよ!』って」
純真さの中に一片の陰りが見えるけど、それはもう二度と会えない両親を思い返してという感じっぽいね。
母親の方は見ないなと思ったら、既に亡くなってたってわけだ。
それは……狙い目って事だよね! 親がいないなら完全フリーだもの~。
「なるほどね~。……ってことだけど、ニコラもそれで大丈夫?」
「…………そ、そうだバカ。他に何があるってんだよ、アホ……」
説明が進むにつれて「え、そうなの?」と言いたげな顔をしていたニコラに話を振ってみた。
絶対、別の欲望で受け入れてたでしょー。とばっちりで罵られたよ、ひどいなあ。
「……あんだよ?」
「ううん、何でもない何でもない。そんなことよりもさ~。
邪魔しちゃったボクが言う事じゃないかもだけど、さっきの続きしようよ~。
何なら、もっと中を深められる事をしよ――――」
「GYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!」
「「!?!?」」
あー、もうそんな時間なのね。
家から連れ出すだけだと思って、あんまり余裕を持たせなかったのは失敗だったよ。




