宝探し 11
「ニコラどうかしたの? あんまり他人の家で騒がない方がいいと思うよ?」
「うぁ? ……ぁあいやっ!! ここにはなにもないぞっ!?
だからこっちにはくるなよ?! 特にフローラ!!」
何を見つけたのか分からないけど、ひどく取り乱してるね。
でも、そんな言い方したら逆に気になっちゃうんじゃ――。
「もう! ニコちゃんいじわる、しない……で――え?」
「そうだよねぇ? むしろ、そこまで言われたら見ないわけにはいかない……って、あー。そういうことね」
何故そんな反応をしたのかは、一目で理解する事が出来た。
もちろん部屋自体には、特別おかしなところはない。
ただ三点、目を引くモノが三つばかりあっただけだ。
倒れた椅子に、天井から垂れ下がったロープ、それと――――吊るされた人間だね。
「ぱ、パパ……? なに、してるの?
なんで? なにでこんな……なんでなんで、なんで…………っっ!?」
「アイリスと、とにかく下ろすぞ!」
「あ、うん。えっと、あのロープを切ればいいかな?」
僕は柱に近付くと、そこに結び付けられたロープを掴んでから端をダガーで切った。
受け止める役は二コラにやってもらおっと。
「ゆっくり、ゆーっくりやれよ……よし、下ろせはしたな。
おい! ホラーツ起きろっ! フローラも心配してるんだぞっ!!」
床にぺたんと座ったニコラが、ロープを外した彼の頭を膝の上にのせて何度も呼び掛けている。
しかし、既に生命反応のないそれが答えることはないだろう。
あーいいなー。僕も膝枕してもらいたいよー。
それで「こいつ、なんでこんなことさせるんだ」って、冷たく見下ろされたいなぁ。
「ホラーツ! ホラーツっ!! ………………ぐぅっ。
ダメだ……残念だが、もう…………」
「……うそ。そんなの嘘、だよね? ……ね、ねえアーちゃんっ、アーちゃんの回復魔法なら治せるよね!?」
「回復魔法が効くのは生きてるやつだけなんだ……死んだら、もう……」
死人に回復魔法を使っても生き返らないっていうのは、僕もワイバーン戦後にノラ達で経験した事だね。
ニコラも同じ認識ってことは、どうやら一般的な知識みたいだ。
ん? いやでも、ちょっとだけ違うところがあるかな。
正確には「死体の怪我は治ったけど、蘇生はできなかった」になるんだけど……ま、大した違いじゃないよね。
そして、蘇生魔法の話にはならない……か。となると、こっちの魔法は一般的じゃないっぽいね。
――と、暗く重い空気が漂い出したところで、玄関の方から足音が聞こえてきた。
「ブッハ、こいつ死にやがったぜ!! ははっ、ギャハハハハッ!」
部屋に入って来たのは、下品な笑い声を上げる如何にも三下って感じの男。
それに加えて、黒髪でロン毛の男……何かこの人、どこかで見た事があるような?
「チッ、初っ端からコレかよ。ついてねぇな……。
おいガキども! こいつから話は聞いてるだろうが、借金の徴収に来てやったぞ!」
「そうだぞおまえら! 期限はとっくに過ぎてんだ、今すぐ払えよ!
まあ? 返す当てがないから、絶望してこんな惨めな死に方したんだろうがな、ギャハハっ!」
絶望して自殺したね……うーん、ホントにそうなのかな?
状況はそうなのかもしれないけど、ちょっと違和感――ん? あれは…………。
「な、なんだよお前らっ! 人の家にずかずか入ってきやがって……!」
「あ? そういうことは借りたもん返してから言いやがれ。こっちは暢気に駄弁ってる暇はねえんだよ。
そんじゃあ金はないってことでいいな? なら、代わりに娘はあずかるぞ……てめぇもいつまで笑ってんだ!
娘ってのはこいつでいいのかぁ? あぁ?」
「へっ、へいっ! そいつです、間違いありません!
おらっ、顔くらい見せろ――な、なんだっ? また抵抗するってのかよ……っ。
い、言っとくがな! こっちには"黒狼"と恐れられたアニキがいるんだぞ!?」
三下借金取りは、二コラに睨まれて明らかに怯んでいる。
対して兄貴と呼ばれた黒髪の男は、そんなもの意に介さないとばかりに平然とした態度を崩さない。
「……お金ならここにあります、好きにもって行ってください……。
だからお願いですっ……もう静かにしておいて…………」
「はあ? そんな嘘が通ると思って――」
「返さなくていいよ」
静かにして欲しいという彼女の言葉に反することにはなるけど、口を挟むことにした。
あ。別に、「魔法で無理矢理解決するから」とかじゃないよ?
一応、これだけは伝えておこうと思ってね。
「……ありがとう。でも、約束は守らないとダメなの。……借りたものは返さないと」
「うーんとねえ。それがボクもよく分かんないだけど、返さなくてもいいらしいんだよ。
そうやってここに――お義父さんの遺書に書いてあってさ」
「パ、パパの遺書!? …………みっ、みせてっ!」
机の上に置いてあった遺書らしきものを手渡した。
ホントかどうか分からないけど、「死んだ者の借金を受け継ぐ必要はない」っていう法律がこの街にはあると、そう書いてあった。
つまり、彼が自殺を選んだのは"絶望"したからというよりも、これに最後の"希望"を見つけたからなのかもね。
「勝手に中身読んじゃってごめんね?
けど、ただ自分だけ楽になりたくて死んだとは思えなくてさ。
だって、大切な娘がいるんだもの。何かしら理由があるんじゃないかって思ったんだ」
「……うん、…………うん。
パパの考えはだいたいわかった。わたしのためだったんだね……。
でもねっ!! ……そんなことよりも、パパが生きていてくれたほうが、わたしはうれしかった、のに……っ」
遺書に目を落としたまま、大粒の涙を流し続けるフローラ。
その姿からは本当に父親が大切だったのだと、気持ちが伝わってくるようで――――。
「おっ、おい! なに勝手に盛り上がってんだ!?
借金が帳消しだって?? そんなのデタラメだっ! そ、そうっすよね? アニキ?」
あぁ。そういえば、こいつらまだいたんだっだ。
僕としては満足したから、もう帰ってくれないかな? いや、いっそ片付けるか。
「"ピンクの魔女"っ!? ど、どうしてこんなとこにいやがるんだ!?」
「それ、もしかしてボクのこと? って、前にも"魔女"とか言われたような……」
"黒狼"とか呼ばれてた人は、今さら僕を認識したみたいだ。
いやいや、ずっといたよ? 別に隠密スキルとか、家の中では使ってないからね?
まるで僕が影薄いみたいじゃないか。ひどいもんだよ。
それと、やっぱり彼は前に会った人で間違いないみたいだ。
いつの間にかピンクが足されてるし……ま、そこは見たまんまか。
「チッ、行くぞ! いつまでもこんなとこにいられるかってのっ」
「へ?? ま、待ってくださいよアニキ!? このまま帰ったりしたら怒られちまいますって!!」
とか何とか言いながら、あの二人普通に帰って行ったよ。
特にロン毛の方はやけに素直だったね。もしかして、さっきの法律も知ってたのかな?