宝探し 8
「うわ、うるさ。え、なに? 何で吠えたの?」
「降伏ノ音だ。無けれバ戦士達収まらナイ。……気分ヲ害したなら謝罪しよウ」
凶悪そうな外見に似合わずシュンとしちゃってさ。
意外と小心者なのかな?
まあ、謝ってもらいたいわけじゃないし、どうでもいいや。
そんなことよりも、あそこで倒れてる二人のことだよね~。
「いいよいいよー。大して気にしてないというか、とりあえず静かにしてて。
さてと、二人はまだ死んでないよね。もしかして寝ちゃってる?」
「ア、アイ……りぅ……! な、んで、ここ……に…………っ」
全く柔らかそうには見えない地面にうつ伏せのまま、もがもが答えるニコラ。
生きてるのは生命反応があるから分かってたけど、どうしてそんなところで寝てるんだろう?
「あ、起きてるね。えっと、じゃあなんで横になったままなのって、そうか。
動けないくらいのダメージなのね。それじゃあ<ヒール>、これで治ったかな?」
「ぉあ? 全身の痛みが消えてく……! ふぅ、助かった。…………じゃなくてっ!
アイリスっ、おまえあの数をどうしたんだ!? というか横にいるのはっ!?」
ニコラも隣で静かにしてる毛むくじゃらモンスターに興味を持ったみたいだね。
この、「コボルトを筋肉マシマシにして悪人面にしてみました!」みたいなのは……正直に言うと、何か分かってないんだよね。
でも見た目はコボルトに似てるから、多分その親戚ってところかな?
「そいつ、コボルトコマンダー……か?」
「ん? コボルトこま、コマ……? へぇ、そういう名前なのね。
流石二コラ、よく知ってるな~」
「い、今はちゃかしはいいんだよっ。
とにかく、どうしてそんな強力なやつが、おまえの隣で大人しくしてるのか説明してくれよ!」
説明ねぇ。僕、そういうの苦手なんだよなぁ。
うーん、何から話せばいいか…………。
「我々ハ服従すル。反抗は一切しないト誓った。――だから、もう勘弁して欲しイ」
「……ってことでね。なーんか戦う気がなくなっちゃったってさ。
確か、敵対しないなら獣人になるんだよね? あ、それともモンスターのままなのかな?
どっちなのかよく分からないから、とりあえず連れて来たんだよ」
コレが吠えたと思ったら、コボルト達が武器を捨てて伏せし出した時はちょっと驚いたよ。
まあ、あっちに戦う気がないからって、こっちがヤッちゃいけないってことはないんだけどね。
「……マジかよ、コボルトコマンダーが簡単に服従なんてするのか?
しかも、こいつ一人に……? そんなことがあるのか…………」
独り言説明ありがとね。なるほど、こういうことはあまりないのか。
じゃあ何とか誤魔化した方がいいね。えっと、こういう時は――――。
「そ、そういえば、フローラは大丈夫?
あれ? 何でまだ寝てるの? もしかして回復魔法が効いてなかった?」
「ううん、ケガはしてないの。でも魔法つかいすぎちゃって……」
「あぁそういうことね。とりあえず、地面に寝たままはビジュアル的にアレだから……よいしょっと。
フローラは軽いなぁ、これならいつまでも支えてあげられるよ~」
ということで、ふにゃふにゃフローラの腰を優しく抱いて支えてあげる。
ちょっと土で汚れちゃってるけど、本人の言う通りどこも怪我はしてないみたいだ。
「<クリア>。うん綺麗になったね。
それにしても、倒れるまで魔法を使うなんてかなり活躍したんじゃない?」
「……ほとんどニコちゃんがやってくれたの。
わたしは……なにもできなかった。なにも……」
「もしかして、ボクがかけたマジックブースト切れちゃった?」
「たぶんまだ効果中だと思う。でも、わたしの魔法なんてぜんぜん相手にされなくて……。
……ダメだよねわたし。アーちゃんも応援してくれたのに、これじゃあ完全に足でまとい……」
おぅ、またフローラがネガティブモードになっちゃったよ。
せっかく強化魔法のおかげで自信を持ち始めてたのに……どうしてこんなことに?
「あっちは上位種だったんだ。し、仕方ないと思うぞ?」
「上位種? あーなるほど。普通のとは違うから、効果がなかったってことね。
流石はコボルトこま……何とかってわけだね」
「コボルトコマンダーな? それと、そいつはコボルトウォーリアだ。
どちらも上位種には違いないが、コマンダーはウォーリアよりも強力な個体……のはずだ。
おそらくは、この群れの長だろうな」
僕にはどちらも大して変わらないように見えるけど、要するにコボルト達のリーダー格って事らしいね。
ま、コレが何なのかなんてどうでもいいや。そんなことよりもフローラだよ。
「へー、コボルトって種類が豊富なんだね。じゃあ、このコボルト達どうする?
って、そんなこと決まってるか。彼らにいじめられちゃったみたいだし、許せないよね。
大丈夫大丈夫、ちゃんと全員始末しておくから安心してよ~」
「え? ……え? そ、そこまでしないでいいんじゃない?」
「そう? フローラは優しいなぁ。それなら二人をいじめたそこの大きいのだけにするよ。
あ、勝手に決めちゃったけど、ニコラもそれでいいかな?」
「あ、あぁ。あたしは構わないが……」
ん? 歯切れが悪いね、どうしてだろう?
うーん、やっぱり全員殺っておくべきなのかな?
「よーし、決まりだね。ってことでフローラ、はいこれ持ってね」
「っ! こ、これって……」
「見ての通りダガーだよ。さっきと同じで、これならサクっとやれちゃうからさ」
遠慮しているのか、なかなか受け取らないフローラの手を取って握らせてあげる。
最後は物理が一番信頼出来るんだよね、うんうん。
ちなみに、周りで眺めてるコボルト達が「ミセシメ……」とか呟いてるけど、どういう意味だろう?
「っ!? ……ぅぅ!」
「そんな首振っちゃって、可愛いな~。でも、遠慮しなくていいんだよ。
あ、もしかしてコレが急に暴れたらって心配なのかな?
大丈夫、その時はボクが守るから安心してよ~」
より安心してもらうために、精一杯の微笑みと優しい声を意識して言ってみる。
フローラも、コレが簡単に殺せるって分かれば自信がつくよ。多分ね。
「もし一回でやれなくても、何回だって刺していいんだからね。
さ、今回ボクは見守るだけにするから、一人でやってみてよ~」
「ううんっ、遠慮とかじゃなくてねっ!? わたしのはなし聞いてるっ? アーちゃん!?」
まだ遠慮してるフローラと一緒に、コボルトなんとかの正面に立った。
魔力切れのフローラは僕のサポート通りに動いてくれるし、コボルトの方は項垂れていて騒ぐ様子もないから、すぐに片付きそうだ。
「ほら、抵抗しませんってさ。やりやすくていいね。
じゃあはい、やってみてよ。首とか狙うのがボクのおすすめ――」
「うーもうっ! だからわたしの話を聞いてっ!!」
どこを攻撃すればいいのか助言しようとしたら、急にフローラが爆発した。
え? 僕何か怒らせるようなことした?
「な、何で怒ってるの? ぁ、えっと……ボク何か悪いことした?」
「怒ってませんっ! ……アーちゃんは悪くないけど、この子も悪くありません!
なのでこの子は殺さないと決めました!」
何で急に敬語なの?
口調は置いておくとしても、謎の迫力を感じるから素直に従っておこう……。
「う、うん分かった、殺さないよぉ」
「……殺さないか。ま、本当に戦意はないようだしな、それもいいんじゃないか。
となれば、こいつらが貯めこんでるもん、すべて出させたらどうだ?」
「それナらこっちダ、ついてコ……案内すル」
僕達の話を黙って聞いていたコマなんとかが、洞窟の奥へ向けて歩き出した。
やけに聞き分けがいいね? ふーん、話が早いのはいいけど、価値があるものなんて持ってるのかねぇ。