宝探し 7
【ニコラ視点 開始】
「GURUUAAAAAAAAAッ!!」
獲物を求める餓えた獣の咆哮に洞窟の壁面が震える。
崩落の兆候はないな。簡素な作りに見えても、しっかりとしたもんだ。
この堅固さに感謝すべきなのか、それとも崩落した土砂にこいつが呑まれる豪運に期待もできないと嘆くべきなのか。
「ニ、ニコちゃん、あれもコボルトさん……なの?」
「コボルトウォーリア……っ。じょ、上位種ってやつだ。
こんだけの巣なら、あれくらい居てもおかしくないよな…………クソがっ、もっと警戒して進むべきだろ、あたし!」
上位種――それは稀に出現する特別強力な能力を持った個体のことであり、特別な名称を与えられ畏れられる存在。
それらは容姿から異なることがしばしばで、こいつは圧迫感を覚える巨躯が何よりの特徴だった。
発達した筋肉で全身の毛が押し上げられ、通常種と比べて倍近いサイズにまで膨れ上がっている。
「さっきまでのヤツらと同じに考えるなよ! まったくの別物だからな!」
爛々とした瞳に映る小さな戦士は、精一杯の虚勢を張りつつ思考を巡らす。
たとえ勝利の可能性もない相手であろうと、後ろの少女だけは生かすために。
余裕の表れなのか、他のコボルトどもが観戦に回ったのは救いではあるんだが……それでもキツイだろうな。
最悪の場合は――――。
「アイツはあたしが抑える。フローラは周りのヤツらが邪魔しないよう見張っておいてくれ」
「えっ? な、なにいってるのニコちゃん? わたしも一緒にたたかうよ!」
「いいから言う通りにしてくれっ!! な? なっ!?」
無理矢理に言い聞かせると、ドワーフの少女は巨体に向けて走り出した。
あの能天気に珍しく頼まれちまったからな……アレの標的が変わるようなことは、万が一にもさせられない。
このまま大人しくさせとけば、逃げる隙くらい生まれんだろ。
「おりゃあぁああっ<フルスイング>!!!」
「GAUU!!」
少女と獣、共に動いたのは数歩のみ。
けれど巨体の一歩は大きく、少女の眼前には獣の鋭利な鉤爪が迫っていた。
重厚な戦鎚と鋭利な爪が交錯し、やけに甲高い耳障りな音が響く。
あたしの全身全霊を込めた一撃なんだ……っ。
頼むからっ、最低でも互角ではあってくれよ!
そんな彼女の祈りが通じたのか、僅かに押されはしたものの、直後には拮抗したかのように動きが止まった。
「WAU? GAUッ、GAUUUッ!!」
が、そう思えたのも束の間、唸り声が吐き出される度に小さな体はズリズリと後退させられる。
「ぅぐっ!? くそっ、やっぱ厳しいのかよ……っ!」
「危ないよっ、ニコちゃん!?」
さらに聞こえてきたのは、悲鳴同然の声。
なぜそんな声が飛んできたかといえば、今まさに巨体がもう片方の腕を振り下ろさんとしているからだった。
あぁもうっ、言われなくても分かってるっつの! だけどガードしたくてもいま力を抜いたら押し切られんだよ!?
クッソ、なんであたしは片腕相手に精一杯なんだーっ!!
「もうがまんできないっ!! わ、わたしだっているんだからねーっ!」
「や、やめろ!! あたしのことはもういいから、ひとりで逃げてくれ……っ」
「うーーんっ、<ウォーターボール>! いっちゃえぇぇ~~!」
だんだん見慣れてきた魔法が発動し、浮かび上がった水の球が巨体を狙って一直線に飛ぶ。
対する巨体はといえば、そんなもの気にもならないとばかりに、回避する素振りすら見せない。
「?? WUUUU、GAWOOOOO!!」
「ぐぅ……っ! ちったぁひるめよぉ――ぐがっ!?」
魔法は顔面に命中したが、まるで効いた様子はなかった。
反対に即死級の攻撃が無情にも迫ってくる。
でも、あたしには避けることも防ぐこともできない――そう考えた時には浮遊感を味わっていた。
「ニコちゃん!? そ、そんな…………ううん、ま、まだあきらめない……っ。 どんどんやっちゃうからねー!!
<ウォーターボール>、<ウォーターボール>……<ウォーターボール>っ!! や、やっちゃえぇぇ……っ」
さらに連続で飛ぶ水球。しかしどれだけ命中しても、やはり巨体にダメージを与えることは叶わない。
そればかりか、まだ獲物が残っていることを喜ぶかのように、その顔は笑みで歪んでいた。
「ま、また効いてないの……?
ううん、それでもあきらめないよっ、まだまだ――あ、あれ? なに……これ?」
ふらふらとよろめいたかと思えば、倒れてしまうフローラ。
似たような光景には覚えがあった。
あれはそう、あいつが冒険者になるっつって、山で魔法をみた時と同じ――――。
「あ、これって魔力切れ…………。
ごめんねニコちゃん、わたしやっぱりなにもできないみたい……」
そんな悲壮な呟きが聞こえた気がした。
そうか、あいつ魔法を連発してたからな。こうなるのは当然……だったか?
魔術師のことはよく分からんな……。
ぼんやりとした頭では考えもまとまらないが、そのことだけはすっと浮かんできた。
だけど考えることができるということは、あたしはまだ生きてるらしいな。
なんとか急所は外せたってことか……。
くっ、だが体は激痛を訴えてくるばかりで、腕一本動かせねぇっ。
このままじゃあいつが殺されるってのにっ!
あぁ……、いったいあたしはなんのために冒険者になったんだ……?
「WOUWOWOWUUUUUUU!!!」
再度、洞窟内を震わせる遠吠えが響いた。
それは先程と比べて声量に遜色はないが、どこか弱々しく不釣り合いだなと思えた。
【ニコラ視点 終了】




