宝探し 5
マップウィンドウに映る現在位置は、洞窟の中盤といったところだろうか。
あれから数回の戦闘は発生しつつも、概ね順調に進んで来たと思う。
ただ、コボルトとかいう犬頭モンスターには学習能力がないのか、同じ流ればかりだから飽きてくるよ。
数匹程度しか連れて来ないし、ボスキャラみたいな強い個体とかは皆無だし……ま、そのおかげでフローラも水球魔法で戦えてるんだからいいか。
それにしても、先頭のニコラは次の敵がいつ襲って来てもいいようにって、ずっと警戒してるけどよく集中力がもつよねー。
僕なんてもう、ピクニックくらいの気軽さでいるのに。いや、それは入口から同じだったかな?
「ん? しょっと。相変わらず大振りで避けやすい攻撃。
しかも懐に潜り込んで刺すのも簡単だし――すぐ死んじゃう。
分かりやすくザコしてるなあ。ゴブリンといい勝負かも」
カランカランとハンマーが地面に落ちた音に続いて、それを装備していたコボルト自身も倒れる。
そういえば、今も戦闘中だったよ。モノローグしてても対処出来るくらいの弱々モンスターなら、忘れても仕方ないね。
「はぁはぁ……そっちも、終わったな? ……おし、どんどん進むぞ」
「うん、終わったよ。でも、お疲れみたいだから<ヒール>使っとくね。
とりあえず体力は回復したと思うけど、もう結構深いところまで来たよ? どこまで行くの?」
周囲を警戒しながらのんびり進んできたとはいえ、それでも数時間は洞窟内を彷徨っている。
なのに価値がありそうなものはゼロとなったら、そろそろ帰るべきか考えてもいいと思う。
「……一番奥までに決まってるだろ」
「ここまで何もないし、この先も同じかもよ?」
「貴重な物ほど奥にしまい込むもんなんだよ。……だから、途中であきらめんな」
とか言ってるけど、本人も心が折れかけているようで言葉に勢いがないね。
うーん、最深部ってなるとまだまだ先だし、途中何カ所も枝分かれした部分も全て確認するのかな?
それは多分というか、絶対に飽きるだろうなぁ。
「わたし……足手まとい、だよね?
弱いわたしが気になって、よけいに疲れさせちゃってるんだ……ごめんなさい」
さっきから妙に口数が少ないと思ったら、ネガティブ発言が出てきた。
毎戦闘で一体は行動不能にしてるし、そんなことないと思うんだけど。
「!? んなわけないあるかっ! あたしもこいつもそんなこと思ってないからな!?」
「そうそう。思ったよりも深かったから、ちょっと聞いてみただけ。それだけだからね?」
「…………」
ニコラと一緒に否定してみたものの反応が薄い。
さっきリバースしてから、どうも様子が変なんだよね。もしかして体の調子が悪かったり?
「(おいっアイリス! かなり引きずってるみたいだぞ! どうすんだよ!?)」
「(えぇ? それじゃあまるでボクのせいみたいな……。
もしかして、ボク何か悪い事しちゃった?)」
「(悪くはないだろうが……っ。
ちょっと浮ついてたからって、トドメの感触なんて教え込まなくてもよかったんじゃないか?
いつかは必要かもしれんが、こう、もっと慎重に時期を見定めてだな……)」
言われてみると、僕も初めてモンスターを刺殺した時は、その感触にショックを受けた覚えがある。
刃がスッと肉に埋まっていく、あのぶにっとした感触。何と言うか独特で、手に残るんだよね。
「(あっと驚くような物でも見つかれば、いつもの調子に戻るか?
……なんにしても、このまま手ぶらじゃ帰れなくなったな。
お前も、また面倒なことになるのは嫌だろ?)」
「(うっ……確かにそうだね。何かイイ感じの物、見つけるよ)」
お漏らし事件の時みたいなのは僕も困るからね。
嫌な事をすべて忘れさせるような何かを見つけないと。
「またふたりで内緒話。……やっぱり、わたし足手まといなんだ」
「ううん、そんなことないよ。フローラは頑張ってるし、役に立ってるって。
だからもうちょっとだけ、ね?」
「そ、そうだぞフローラ! ほら、変なこといってないで先急ぐぞっ」
ニコラも同調してくれたおかげで誤魔化せそうだね。
ああいや、誤魔化すっていうのはちょっと違うか。
一応、マップを確認してたら気になるところが見つかったんだよ。
なので、とりあえずそこに着いてから後の事は考えるってことで。
***
「あ、見えてきた。……ねえねえ、あそこ何かありそうじゃない? というか絶対ある。
根拠とか証拠とか、そういうものは全くないけどボクには分かるよ」
殺風景だった通路が終わり、初めて見る空間に出た。
広間というか広場というか、とにかくだだっ広いだけの場所で、ちょっと開放感がある。
「ここで行き止まりなのか? おいおい、頼むから何かあってくれ――っ!?」
「GURRRU……!!」
ニコラもやっと気付いたみたいだね。
何をかって? それはもちろん、ここがどういう場所かってことをだよ。
「「「WAOOOOOOOOOOOONN!!」」」
「うんうん、これだけいれば十分だよね。さ、いくらでもやっちゃってよフローラ。
これならチマチマ狙わなくても当たるし、好きなだけストレス発散していいからね!」
数えるだけでも骨が折れそうな大量のコボルト。
それらは戦闘態勢となり、今にも突撃を始めそうだ。
実のところ、枝葉のように分岐した他の道の先には、もう少し小さな空間も存在している。
けれどあえてそっちに案内しなかったのは、ここに一番多くモンスターが集合してたからだね。
最深部へはここを通らないといけない構造になってるし、彼らにとって大事な防衛線ってとこなのかな。
「ぇ? えぇ!? こんなにたくさんはむ、むり…………う、ううんっ!
無理だなんていってちゃダメなんだ……! わかった! わたしがんばるね!!」
「ばっ!? こんなもん頑張ってどうにかなるライン越えてるってのっ!?
とっ、とにかく逃げんぞ!!」
せっかく的がたくさん集まってるところに案内してあげたのにね。
ニコラもいい感じに活躍して、フローラにアピールしてくれていいのに。
「えぇー逃げるの? でも、これだけいっぱいいるってことは、絶対奥に何かあるよ?」
「そんなこといってる場合かよっ。どんだけいると思ってんだ!」
「んー……三百は確実だけど、一桁まで正確に数える? 大体でいい?」
「あーもうっ! こういう時くらい、少しは慌てろよなあ!
いいから逃げるつったら逃げんだよっ!!」
そっか、"逃げる"って選択を変える気はないのね。
ただ、逃げるのにも余裕って大事だと思うんだよ。
ほら、急ぎ過ぎると転んだりして危ないでしょ?
「それじゃあ、ボクは足止め役しとくよ」
「この数を一人で相手する気かよ!? 無謀だろ……」
「そ、そーだよ! アーちゃん死んじゃうよ!?」
あぁ、二人とも僕なんかの事を心配してくれちゃって……はぁ。
むしろ、ここで死ねたらいいんだけどね。
数頼みのザコじゃあ僅かな可能性すらないって、もう分かってるんだよ。
「あはは。時間稼ぎするだけだから大丈夫だって。
おっと、そろそろ時間切れみたいだよ。それじゃあニコラ、フローラのことよろしくね~」
コボルト達は隊列を崩さないようジリジリと距離を詰めて来ていた。
まだ攻撃が届く距離ではないものの、大挙して押し寄せるのも秒読みといったところだろうか。
「――ちっ。アイリス、外で待ってるからな。
行くぞフローラ! もたもたしてるとアイリスに抜かされちまうぞ」
「で、でもニコちゃん…………」
「あ、そうだ。最後に<プロテクション>、これ使っておくから頑張ってね~」
チラチラとこちらを振り返るフローラと、その手を引いて来た道を戻って行くニコラに魔法を使っておく。
ん? 何の魔法かって? いやいや、大したものじゃないよ。
ただ防御力を上げるだけの強化魔法。
敵の数が多いから、一発や二発くらい攻撃されても大丈夫なように、ってね。




