宝探し 4
「もう準備できたよな。そろそろ始めるぞ」
口調は優しめだけど、無駄口は終わりだと言わんばかりのお言葉がきた。
コボルト達が気付かないのをいい事に、いつまでも駄弁ってたからイライラしてるのかな?
割と本気っぽいから、素直に従っておくのが吉だね。
「はいはい、了解でーす。それじゃあテキトーに片付け――」
「次はわたしもやる!
アーちゃん強化魔法はつかえる? わたしの魔法、強くしたりとかできない?」
「きょうか、まほう? あ、魔力を上げたりするやつね。うんうん使える使える」
何でもいいからステータスを上げてしまえば、威力不足問題は解決するってわけね。
自分の問題点が分かってるなんて、フローラは冷静ですごいな~。
「えっと、たぶんこの<マジックブースト>ってヤツでいいはず……なんだけど、どう?」
「ばっ、バカ! 不用意に発動させんな――って!?」
「「「WOU!? WOOU!!」」」
完全な暗闇の世界に突如として広がる光。
それは眩いだけであって、直接害を及ぼすような効果はないものの、侵入者の存在を屯しているコボルトに気付かせるには十分だった。
あー……。
魔法の光って意外と主張強めなんだよね。忘れてたよ、てへっ。
「これなら……っ! アーちゃん、ありがとっ! なんかわたし、やれそうな気がする!」
「え、そう? なら良かった。じゃあ早速やってみて――っと、そうだった。
あの水魔法使うんだったら、方向は変えたほうがいいと思うな。ここだと、上に撃ったら天井に当たっちゃうからね。
何ていうかこう……真っ直ぐ飛ばすイメージ? 何かそんな感じでやるのがイイ気がする!」
「うんっ、<ウォーターボール>!!」
大したこともない助言を真面目に聞いた彼女の手元から、水風船くらいの水球が発射される。
それはいつものような山なりではない、直線の軌道を描いて飛んでいき――――。
「WOOO!?」「WAWU!?」
「おお、吹っ飛んだ。へぇ、ちゃんと効果あったみたいだね」
後ろにいたもう一体をも巻き込んで、数メートル後方へ弾き飛ばされるコボルト達。
狭い洞窟内では回避することが難しかったのか、それとも元から回避能力が低いだけなのか。
そこは不明だとしても、彼女の魔法は命中し、明らかにダメージを与えていた。
「だーもうっ! こうなったら一気に片づけるぞアイリスっ!」
「そうだね、やっちゃおー」
ということで、残る二匹は僕とニコラでささっとお掃除だ。
あちらはいきなり半数を失ったことで動揺してるみたいで、僕達が突撃すると背中を見せて逃げ出そうとした――が、そんなことを許すわけもなく、背後からの一撃であっさりと終了した。
「ふぅ、なんとかなったな。……アイリス、魔法つかう時は気をつけろよ」
「あはは、ごめんごめん。でも結果的には問題なかったわけだし、許してよ~」
「はぁ、しょうがないやつだな――」
「WAOOOOOOOOOOOONN!!」
ニコラの冷たい視線に悦んでいたら、やけに長い遠吠えが響き渡った。
うわ、何? 攻撃じゃないっぽいし、ただの騒音?
普通に迷惑なんだけど。
「うるさいよ」
「――ッ!?」
持っていたダガーを投げつけると、遠吠えコボルトの喉に突き刺さった。
そんな状態では、空気が抜けるような声未満の音を発することしか出来ないようで、徐々に静かになっていく。
うーん、ご褒美タイムは強制終了みたいだ。寂しいなぁ……。
あと、やっぱりフローラの攻撃だと殺すまではいけないね。ま、戦意は失ってたから十分ではあるんだけど。
「チッ、しくったな。今ので、この先のヤツらは警戒態勢になったはずだ。
……どうする? 一旦引いて出直すのもアリだが……」
「警戒態勢? へー、ただ騒いでただけじゃなかったんだ。
でも、そこまで気にしなくてもいいんじゃない? 正面から戦っても弱かったし、このままやれるよ~」
それに、ある意味では好都合ともいえる。
どうしてかって? この洞窟って、もう少し進むと一本道じゃなくなるみたいなんだよ。
だから、「さり気なく誘導とかしながら進む必要があるのかもなぁ」って、ちょっとメンドーに思ってたけど、コボルト達から来てくれるんだもの。
彼ら自体がいい道案内になるよね、きっと。
「フローラもそれでいいかな? 大丈夫だよね?」
「ア、アーちゃん……」
「ぅえ? えーと、な、なにかなぁフローラ? どうか……しました?」
意識がコボルトに向いていたせいで気付かなかったが、彼女は何故か魔法を使った時の姿勢のまま固まっていた。
もしかして、気に障る事しちゃったのかな……? 身に覚えはないけど、マズイ気配を感じる……!
と、とりあえず、謝っておこっと。
「あの、その。ご、ごめ――」
「やったっ! わたしちゃんとやれたよ!! アーちゃんのおかげだねっ、ありがと~~っっ!!」
ガバっという表現がぴったりな勢いで僕の両手を取り、喜び始めたフローラ。
ぴょこぴょこと飛び跳ねちゃって、かわいいなぁ~。
「ボ、ボクがしたことなんて、た、大したことないよぉ。えへ、えへへ~」
「ううん、そんなことない! ア~ちゃんとニコちゃんがいなかったら、こわくて戦うこともできなかったもん。
あ~。わたしの魔法でモンスターさんを倒しちゃったぁ……。フフン、もうわたしもりっぱな冒険者だね~」
思えばフローラの攻撃がまともに効いたのって、これが初めてだったような。
実質、彼女にとっては初めてのモンスター討伐になるのかも~。
――そうだ。大事な"初めて"なんだし、最期まで僕がお手伝いしてあげないと~。
「そうだねそうだね~、立派な冒険者だよ~!
じゃあ、このまま最期までヤッちゃうから、こっちに来て~」
「うん! ……うん? サイゴって?」
彼女の喜びを表すように熱を持った手を引いて連れてきたのは、魔法を当てられて早々に伸びてしまったコボルトの横。
もちろん、その傍らには首からダガーを生やしたお仲間くんが仲良く倒れている。
「まずはこっちからダガーを回収して――このまま抜いたら、血が噴き出しちゃうかな?
汚れるのは嫌だから、<アイス>で凍らせながらやれば……うん、問題なし。
はい、じゃあこれを使ってサクッと終わらせるよ~」
「??? ア、アーちゃん? えっ。な、なにしようとしてるの?」
「もちろんトドメを刺すんだよ~。……あれ? もしかして死んだと勘違いさせちゃった?
んーとね。実はコレ、意識を失ってるだけでまだ生きてるんだ。だから、ちゃんと殺してあげようってわけだね。
心配しなくても大丈夫だいじょうぶ~。もう死んでるも同然! 簡単に終わるからね~」
未だに"困惑"という二文字が顔に浮かんでいるので、まずは優しくダガーを握らせてあげることからスタートだ。
次に繊細で滑らかなその手を僕の手で包み込み、犬系モンスターの僅かに上下する胸部に向けてすっと下ろす。
「ア、アーちゃんっ、ちょっと、ま――ッッ!!」
「ほ~ら、簡単だったでしょ? ……え、何? どうかした……って、どこ行くのー? フローラ?」
急に顔色が悪くなったと思ったら小走りで距離を取って、背を向けたままへたり込んでしまった。
ど、どうしたんだろう? もしかして、勝手に手を握ったりしたから気分が悪くなったとか?
「……おまえ、意外と厳しいとこあるよな……」
厳しいって、僕のどこが? 何で二コラはそんな風に思ったんだろう……?
ということで、二回目のコボルト戦は二コラの謎の言葉で終了したのだった。




