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後日談:収穫祭の日

「今日は待ちに待ったお祭ですよ」

「知ってるよ」


 今年もやってきた収穫祭。

 リコリスはどうやら祭り事が好きらしく、少し前から「楽しみですね」と度々口にしていた。

 一日に二回は言っていたと思う。

 本当に楽しみだったのだろう。


 俺の方は、程々かな。

 リコリスほどではないが、まあそこそこだ。


「でも、今年って雨とか大丈夫だったんですか?」


 たしかに今年は少し雨も多く、例年に比べたら収穫量も少なかったが。

 あくまで少しなので、収穫祭の規模が小さくなるほどでも無い。

 よって、今年は収穫祭でもあり豊穣祈願も兼ねている。


「だから今年は豊穣祈願祭でもあるんだ」

「……それってなんだかずるいです」


 リコリスには珍しく、もの言いたげだ。


 気持ちはわかる。

 沢山採れたら収穫を喜んで、あまり採れなかったら豊穣祈願と言い張って、結局はお祭りをするんだから。


 しかし、大人なんてそんなもんだ。

 俺たちは細かいことは気にせず、楽しいことだけを楽しんでおこう。

 祭りなんだから。



「ジェイルさん、早く行きましょう」

「落ち着け」


 家を出ると、微かに祭りらしい匂いと音が届いた気がした。

 流石にこの距離だと気のせいだとは思うが。


 今日は晴れ。風はそこそこ。


 祭りは主に市場のあたりで行われる。

 露店などを取り払えば、あそこが町で一番の広場だから。

 取り払った露店は、また別の配置で屋台なんかが並び賑わうだけなのだが。


 リコリスはよっぽど楽しみだったらしく、去年の祭りのことを嬉しそうに話す。

 去年は俺も一緒だったのだから、ほとんどは知っている内容だった。


 そういえば村の祭りの規模を考えたら、こういう祭りはまだ二回目になるのか。

 楽しみで浮かれるのもしょうがないな。




 市場に近づいて来ると、段々と人も増えてきた。

 おそらく今日が一年で一番、町が賑わう日だろう。


「ジェイルさんっ、今年も人でいっぱいです」

「そうだな。今年ははぐれないようにな」

「むう、はぐれませんよ」


 はしゃぐリコリスに注意を入れると、不満の声が上がった。

 去年、はぐれてもいなければ迷子にもなっていないんだから当然か。



 どちらからともなく手を取る。

 前はリコリスから誘われるままに繋ぐだけだったのに、いつからか俺から手を差し出す事も増えた。


「ジェイルさんって、表情が柔らかくなりましたよね」

「そうか?」


 と言いつつも、自覚はある。


「はいっ、カメの甲羅からスライム位柔らかくなりました」

「んな馬鹿な」


 いくらなんでも大げさ過ぎだ。

 俺がスライムなら、リコリスはどれだけ柔らかい表情を持ってることになるんだ。


「それに、前より意地悪になりました」

「……」


 それも、自覚はある。


「でも、お姉ちゃんに比べたらまだまだですね」

「別に目指してない」


 というか、なんだ? もっと意地悪になって欲しいのかお前は。


 くすくすと笑うリコリスに、

 ほら、やっぱりお前の方が柔らかい表情を持ってるじゃないか。

 と思った。




 祭りの高揚感で浮ついたリコリスに、引きずられるように市場に着いた。

 市場は今年も露店と屋台でいっぱいだ。

 広めに通路を用意し、それを挟むように並んだ屋台が活気というより殺気立っている。


 テーブルがところどころに置いてあり、酒を飲みながら屋台で買ったものを食べる大人が居る。

 両手に物を持ち、食べ歩く子供が居る。

 何故か歌う人も居れば、踊る人も居る。

 今日はみんなが陽気だ。


 道端には収穫物であろう物も転がっていたりする。

 勿体無いとも思うが、祭りの醍醐味のようにも思える。

 まあ、どうせ後で家畜なんかの餌にでもなるのだから勿体ないということもないか。


「いい匂いがしますね」


 確かに市場まで来ると様々な匂いが漂っている。

 その中でもやはり食べ物の匂いが強い。


「食べ物からなのか?」

「ダメですか?」

「駄目じゃないけど」


 収穫祭なのだから食べ物がメインなんだが、最初から食べものというのはちょっと。

 腹に溜まるし。


「だって、去年買ったホオバヅキも三日でしぼんじゃいましたから」

「そういえば去年買ってたな」


 ホオバヅキ。

 この時期に実る植物で、網目状に膨らんだ葉の中に白い実を宿す不思議な植物。

 月を頬張っているように見えるからと、そんな名前になったとか。

 実を丁寧に取り除くと膨らんだ葉が残り、飾り物として使える。

 実を残したまま鈴のような飾り物として使うこともある。


 確かに去年リコリスが面白がって買ってたし、萎んで悲しそうにもしていた。

 そうか、その間三日しか経ってなかったか。


 なら、今年はそっち方面は無しだな。

 まあ別にいいか。楽しいと思う事をしよう。今日は。


「一つを半分にして、少しずつ食べてまわろうか」

「あっ、いいですね、それ。すごくいいです」


 リコリスに引っ張られて、屋台へと向かう。


 食べ歩くのはいいとして、何を食べようかな。

 味の薄いものから濃いものに行って、最後に甘いものがいいか。

 と、するとナスとかキノコからかな。

 でも、リコリスは関係無く甘いものから食べそうだ。


 それにしても今日は、色とりどりな服を着てる人が多い。

 民族衣裳のような、普段見かけない服だ。



「あら、ロックガードさんとブラウンさん」

「あ、チョコレートのお姉さん」


 屋台を見て回っていると、見知った顔に呼び止められた。

 ホットチョコレートも出してくれる店の女給仕だ。

 リコリス、間違ってもチョコレート屋じゃないぞ。


「売り子をやってるのか」

「ええ、飲食ですし。お祭りですから」


 それもそうか。

 たしかにこの食の祭りで、飲食をやっている店が屋台を出さない理由はないな。

 どうせ店を営業しても今日は人来ないだろうし。


 見るともう一人、しゃがんでいて少しわかりにくかったが屋台の中にも人が居た。


「それでどうですか? 何か買っていきませんか?」


 他にも客がいるからか、あまり長話をするつもりはないようだ。


「じゃあ、ナスかキノコを一つ。それとリコリスは?」

「私はかぼちゃのお菓子が食べたいです」


 やっぱり甘いものだった。


「はい、どちらもありますよ。ありがとうございます」


 中のもうひとりと連絡をして、さっと目的の物を持ってくる。

 それは殆ど出来上がった状態で、残るは最後の仕上げといった様子だ。

 よく考えたら当然かもしれないが、ここで全てを作っているわけではないらしい。


「また、お店の方にも来てくださいね」


 沢キノコの素焼きとパンプキンのタルトを受け取り、また次を目指す。

 年に二回ほど取れるけど、沢キノコはやはり今の時期に取れるやつの方が美味いな。

 リコリスと半分ずつ食べながらさっき思い出したことを話す。



「リコリス、ちょっといいか?」

「なんですか?」

「ココアの件なんだが」

「ココア? 見つかったんですか?」

「いや、まだだけど。あてになりそうな人を見つけた」

「そうなんですか? 私の知ってる人でしょうか?」


 どうだろう。

 知ってると言えば知ってるが会ったことはないはず。


「領主だ」

「え?」

「領主だ」


 本当は前回の剣術指導の時に話したんだが、その後の話が長すぎて今まで忘れていた。


「探しておいてくれるってさ」

「領主さまが? 私のために?」


 まあ、そういうことになるな。


「ど、どうしましょう? 私はどうしたら?」

「別にリコリスは会う機会がないんだから、俺の方から礼を言っておくよ」


 慌てているリコリスが少し面白い。

 さっきから疑問符がいっぱいだ。


 大体、ココアの事もリコリスが言い出したんじゃなくて、俺が言い出したんだから気にしなくていい筈なんだ。


「なんだか、ジェイルさんが遠い人みたいです」

「大げさだな」


 不思議な縁で、ちょっと領主と繋がりが出来ただけだ。

 別に俺が偉くなったりするわけじゃないさ。

 遠いってのはもっとこう、そうだな――。


「次は何処行きたい?」


 思いつかなかったので話を変える。


「そうですね。大道芸はどこでやっているんでしょう」


 食べ物じゃなくていいのか。

 それなら確か奥の方だったはず。



§



 ――カン、カン、カン!

 いくつかまわった頃、町に警鐘が鳴り響いた。


「どうしたんでしょう?」


 多分あれだ。

 祭りの匂いに誘われて魔物でも出たのだろう。

 この町は森からも近いし、今日は風も吹いていたから。


 他の人達も俺と同じ結論なようで、今の警鐘で慌てている人間はほとんどいない。

 というか、なんだ。リコリスも全然慌ててないな。


「リコリス、杖は持ってきているか?」


 普段ならペン杖位は持っているリコリスだが、今日は祭りだから持ってきていないかもしれない。


「行くんですか?」

「やめとくか?」


 祭りでギルドは休みだけど、俺たちは冒険者だから。

 魔物が出たなら俺たちの出番なんだが、装備に不安があるならやめておくか。

 ただ、この辺の魔物なら大した魔物ではないはずだ。


「ジェイルさんの剣はどうするんですか?」

「その辺で借りる」


 無ければ他の武器でも、鉄の棒でもなんでもいい。

 どのみち、守衛も居るはずだから行ったとしても俺らは補佐だ。


「行きます」


 行くらしい。


「じゃあ、行くか」

「はいっ」


 まだ祭りも始まったばかりだし、さっさと終わらせて戻ってこよう。

 それで、戻ったら次は何処をまわろうか。

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