後日談:冒険者ではない仕事
「もしかして、ジェイルさん捕まっちゃうんですか!?」
俺が領主に呼び出された事を伝えると、何故かそんな言葉が返ってきた。
「何を言っているんだお前は」
「あれ? 違いました? 領主さまにお呼び出しされたんですよね?」
「お前の中では偉い人に呼ばれたらお縄なのか」
どうやらリコリスにとっては、偉い人とは取り締まる人間なのかもしれない。
自治集団のない小規模な村とかだと、そういう図式になってもおかしくはないか。
「オーネット卿って居ただろう」
「……?」
「初めて護衛のクエストをした時の貴族だよ。あの貴族らしくない温厚な感じの」
もしかして覚えてないのか?
貴族だぞ? 護衛した。
「あっ、覚えてます。あの貴族さまですね」
「今、『あっ』って言ったぞ、こいつ」
「大丈夫です。覚えてます。ジェイルさんと初めて他の町まで行ったときのクエストですよね」
他の町って、そんな覚え方なのか。
他にも色々あったと思うんだが。
まあいいけど。
「その貴族が最近またこの町に来て、領主に色々話したらしいんだよ。俺たちのこと」
「私たちのこと覚えていて下さったんですね」
本当にな。
社交辞令でなく、本当に欲しいと思っていてくれていたってことだ。
ただ顔は合わせ辛いので、そっちには呼び出されなくて良かった。
「それで、俺の剣技が良かったとか話したらしくて。剣術指南してくれないかと誘われたんだ」
「すごいじゃないですか。もしかして、私もご一緒だったり?」
「いや、呼ばれなかったぞ」
「ですよね」
「一応剣技の話だし、俺はこんなんでも元アレだからな」
「アレですね」
指南の相手も役人の子とからしいから、信用の問題もあるし。
「そういう訳でたまに行くことになったから。顔合わせは4日後だけどな」
「わかりました。そういうことでしたら、その日はお留守番ですね」
別に留守番の必要はないんだが。
§
当日。
天気は晴れ。気温はまだ暑い。九の鐘がなったばかりの早くも遅くもない時間。
領主の前で俺は、少々困惑していた。
「堅苦しい言葉遣いは要らない。普段通りの喋り方でいいぞ」
「ですが」
「旦那に先立たれて領主の真似事なんてしているが、私だってこういう方面の出じゃないんだ。堅苦しいのは役人や貴族共の相手でお腹いっぱいだよ」
領主のあまりにも乱暴な言葉。
この人、こんな事言ってるけどいいのか?
側近の人に目配せをすると、軽いため息を吐いているのが見えた。
どうやら普段からこういった態度らしい。
道理で町の毛色が他と違うのは、こういう領主だからか。
良い町だとは思うが。
「わかりました、善処します」
「善処か……まあいい。それで、今日来てもらった理由は伝わっているな」
「ええ、なんでも剣術指南をして欲しいだとか」
「そう、オーネット卿がいたく褒めていてね。丁度、騎士を目指している役人共のボンクラが何人か居るので頼みたい」
ボンクラとか言ってるよこの人。
もう一度側近の人に目配せをすると、やれやれといった顔で首を振っていた。
なんだかこの雰囲気に釣られて本当に軽口叩くと、痛い目見そうだな。
「早速で悪いが始めようか。もう子倅達も集まっている頃だろう」
§
領主、側近に付いて出た場所は広場。
そこには6人の少年が居た。
大体リコリスと同じ位の歳か、もう少し高い位の6人だ。
「前から話していたように、これから剣術指南をしてくれるロックガードと言う男だ。身分の違いはこの場に限り無いものと思うように」
そういや俺は、これから身分の上のものに教えるのか。
やり辛いな。
「ロックガードも教官と立場で厳しくしてやってくれ。言葉遣いも丁寧じゃなくていい。その辺は言い含めてある」
「わかりました」
「それでも問題があるようなら私に言え。なんとかしよう。それじゃ」
そう言い残して去る領主。
木剣や皮の盾等の装備は、人数分の用意があるけどどうしよう。
「とりあえず、始めよう、と思う。俺の喋り方はこんな感じで大丈夫、か?」
「はいっ」
意外にも素直な返事。
本当に言い含めてあるようだ。
「それなら、まずは俺が騎士を受けた時の試験内容から始めようか」
なんだか放り出された感があるが、なんとかやっていくしかないだろう。
§
「で、どうだった?」
終了の報告に戻ると、意地の悪そうな笑顔の領主が待ち構えていた。
捕まってしまった。
どうだった? と言われても。
「聞き分けのよい、良い生徒達でしたよ」
「率直な話。アレらの中で騎士に成れそうなのは居たか?」
「人によって成長の度合いは違いますが、あの中には居ませんでした」
「ははっ、本当に率直だな。いや、失礼。まさかこんなに真っ直ぐ返されるとは思わなかったからな」
どうやらカマを掛けられたようだ。いや、試されたのか?
まあ、どちらでもいいか。
不敬罪で捕まるとかでなければ、なんでもいい。
……どうもリコリスが変な事を言うから、俺まで捕まるとか捕まらないとか変な考えが浮かぶようになっている。
「いや、あの子等も可哀想なもんさ。成りたいわけでもないのに親が箔を付けたくて、子を騎士なんて狭き門に押し込もうとするのだから」
「御屋形様」
領主の発言に側近がたしなめる。
とばっちりながら、俺も少々耳が痛い。
父も俺を思っての事だろうが、その狭き門に押し込んだわけだし。
「失言だったな。まあ、そういう訳なんだ。かといって手を抜いては親が口を出してくるし、例え成れなくても強くなっておいて損もないしな」
確かにそうだ。
剣は鞘に入れておけば持ち込める場所も多いから、護身に持つには丁度いい。
それに咄嗟に抜くなら槍などよりもよっぽど疾い。
「時に、ロックガードは騎士になる前。日にどれ位の訓練をした?」
「訓練の時間ですか? ……たしか、一日の半分の半分位はしていたかと」
「だとすると、寝る時間も考えると大半を剣に費やしていたことになるな」
「そうですね」
あれだけの時間を使わなければ俺は騎士にはなれなかったと思う。
「では、やはりあの少年達では騎士は難しいか」
「かもしれません」
取り組む姿勢も真面目ではあったが、色々なものが足りなかったように感じた。
「わかった。それにしても、ロックガードは野心を感じられないな」
「えっ?」
ちょっと思考が外れていて、変な声が出てしまった。
「いや、先ほどの受け答えや態度を見て、取り入ろうとかそういうものを感じなかったのでな」
ああ、そういう。
確かに俺って権力に興味がないな。
権力なんてあったって人が寄ってくるだけだし、必要ないから。
「いい事だ。取り入ろうって魂胆な奴とは、どうも楽しい話が出来ないからな」
それは、俺なら楽しい話が出来ると?
§
この領主はどうやら話すのが好きらしく、取り留めのない話をだらだらと聞き流す作業が続いていた。
もう、一時間位は経っている気がする。
「まだ話し足りないが、私も次があるので、この辺でお開きにしようか」
ようやくか。
「次はいつ頃になりますか?」
「そろそろ雨季なのもあるし、他にも教官をやりたいって者が居るからどうだろうな」
ということはあまり頻度は多くなさそうだな、この剣術指南。
「次の指南はまた後日、ギルドの方に連絡を入れよう。その時はまた来てくれ」
「わかりました、ギルドの方ですね」
「次の時は、好きな本の話でもしようか」
「えっ?」
そんな事まで調べてあるのか。
「言っただろう? 私はお前に興味があるんだ」
……聞いてない。
「御屋形様、そのような事は申されておりませんでした」
「おや、そうだったか。まあ、オーネット卿に色々聞かされてな。興味がわいたんだ」
「そういうことなら、是非に」
「では、また頼む」
「それでは失礼します」
「ロックガード様、外までお送りいたします」
側近の人に送られて外に出る。
色々振り回され気味だったが、思ったより悪くなかったな。
長話さえ耐えれば、剣を教えるのも意外と悪くないものだったし。
頻度も高くなさそうだから冒険者の方も続けられそうだ。




