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るいとも!  作者: 唐子


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【余話】あの日のあとのはなし。

過去話。あの日の後のシノ視点。

かなが多いのは意図した演出です。




 すごくすごくアツい日。


 ボクは、公園の入口にいた。

 あのいじめ現場の公園。

 夕方でもまだ明るくて、じわじわセミの声がうるさい。

 ちょっとこそこそしてるのは、目的の人に、どう声をかけていいのか、わからないから。


 タコのすべり台のてっぺんに、くろえさんはいた。

 タコの頭の中の、日かげになってるところで足をのばして、ぼーっと空を見てる。


 ボクは、くろえさんに、『おれい』を言いたかった。

 くろえさんだけじゃない、いぬかいくんにも。ボクはまだ「ありがとう」を言ってない。

 言えないまま何日も過ぎちゃって、それはすごくもやもやする。

 二人がボクとおんなじ登校班なのは知ってた。

 くろえさんといぬかいくんは、だいたいいつもいっしょにいて、いつのまにかふらっといなくなる。忍者みたい。


 今日こそは、と思って、ここまできた。

 今日こそは、お礼を言って、それで。


 すべり台の真下までいって、止まる。

 心ぞうが、どくどくいってあつい。くろえさんは、ボクに気付いてない。

 ふうふう息を吸って、やっと、声をかけた。


「ねぇ、」


 あ、しまった。真下だと、くろえさんの反応が見れない。


「ボク、おさふねしのぎ」


 ちょっと待ったけど、声は帰ってこない。聞こえてるよね?もっと大きな声で。


「このあいだは、ありがとう」


 また、ムハンノー。これにはちょっとムッとする。


「そっちに行くよ」


 返事はない。ちょっと、かなり、ムッとする。お母さんも兄ちゃんも、いつも返事はちゃんとしなさいって言ってるのに。

 いいよとも言われてないけど、そのまますべり台を上がっていく。


「こんにちは!」


 大きな目が、ぱちぱちまばたきして、ボクを見た。

 日かげで見るくろえさんの目は、黒っぽい緑なのに、光があたったところが金色にピカピカしてる。ふしぎな色になった目に、ボクがうつってる。

 きれいな色にみとれてしまって、ボクらはじっとみつめあっていたみたい。

 ハッときづいて、むしょうに照れくさくなってしまって、逃げるみたいにとなりにヒザをかかえて、くろえさんのナナメに座った。


「えっと、今日、いぬかいくんは?」

「……おべんきょーの日」

「あ~。あたま、いいんだよね、いぬかいくん。先生が言ってた」

「……」

「いぬかいくんいないときは、いつもここにいるの?」

「……」


 また、ムハンノー。でも、今度は、イラってしない。

 ムシしてるんじゃなくて、なんか、じっと、見られてる?


「……きょうは」

「えっ?」

「きょうは、泣いてない」


 たしかに、泣いてないけども。

 そんなに泣いてる印象強いかな、ボク。情けなくて、かくすためにへらっと笑った。


「うん。くろえさんと、いぬかいくんのおかげ、だよ」

「なんもしてない」

「してくれたよ!」


 思わず身をのりだすと、ちょっと引かれた。かまわず思うところをつたえる。


「『負けるな』って言ってくれたでしょ?ずっと手をひいてくれたでしょ?あいつらから逃げきれたのも、きみらのおかげなんだよ!」

「……わかんない」


 くろえさんは、目をぱちくりさせて、ふしぎそうに首をかしげた。


「おまえが泣いてないのは、おまえが強いから、だろ?」


 ビックリした。

 心臓がバックンと大きな音を立てて、じわじわ顔があつくなる。ぎゅうっ、て力いっぱいわしづかみされたみたいな。

 この子の前では、泣いてるとことか、いじめられてるとことか、情けなくて弱っちょろいとこしか見せてない、のに。

 ジョーダンで言ってるには見えなくて、恥ずかしくてこまってしまう。


「……それができたのは、くろえさんといぬかいくんがいたから、なんだよ」

「……わかんない」


 金色のまゆ毛を下げて、くろえさんはまた、ボクの心臓をわしづかんだ。


「できないやつが、動けるはずないのに」


 本当にあたりまえのことみたいに、言うもんだから。


「……ボク、ボク、弱虫なんだよ」

「なんで?」

「だって、だって……強かったら、イジメられない。あんなやつらにやられて、泣かない。あんなやつら、かえりうちにできる。兄ちゃんなら、できる。だから、ぼくは、弱虫なんだ……」

「でも、おまえ、負けてなかった」


 言ってるうちに情けなくなって、ひざにおでこがくっついてたんだけど、くろえさんの声にハッと顔をあげた。


「負けてたよ!見てたでしょ?なぐられてけられて、泥水ぶっかけられて、コカされて」

「見てた。おまえ、やられてたけど、負けてなかった。やりかえしてた。届いてなかったけど。Heartは負けてなかった」


 目が、ピカピカ光って、きれい。そらせない。


「あっくん、言ってた。タゼーニブセー、ヒキョーだって。アタシも、ズルいって思った。As for the fight, a one-to-one match is basic. だから、助けた。

 それにおまえ、heart…キモチ?が負けてなかった。だから、アタシ、おまえ、強いと思った。泣いても向かってく、強いやつ」

「じゃあ、なんで『泣くな』なんて言ったのさ」


 照れと、そんなふうに思ってくれたのに、なんでかすねる気もちがわいてきて、ふてくされた言葉が飛び出した。

 心底ふしぎそうにきょとんて首をかしげられた。


「だって、泣いてたら、テキの顔が見えないじゃないか」


 ……あぁ、うん。強い子だな、とは、思ってたけど。かなり、すごく、ケンカなれしてるのかもしれない。

 助けてくれた理由がわかって、なっとくした。

 そして、ボクを『強い』って、『負けてない』って、本当に思ってるっていうのも。


「……ありがとう、くろえさん」

「Your…ん」


 何か言いかけて、小さくうなづかれた。


「ボクにできることなら、おれいがしたいんだけど」

「……おれい」

「うん。なんか、してほしいこととか、ボクで役に立てること、なぁい?」


 うーんってうなって、くろえさんは、手をさしだしてきた。


「……ん」

「なぁに?」

「て、にぎって……」


 さっきのいきおいはどこにいっちゃったんだろう?おずおずした感じ。ことわられてもいいっていうか、う~ん?

 言われたとおり、くろえさんの手に、自分の手をおいて、ぎゅってにぎった。

 そしたら、くろえさんは、ほっと息をはいて、ちょっと笑った。


「ここにいて。音楽、なるまででいい」


 音楽って、五時のかな。それまでずっとにぎってるの?

 聞こうとしたら、くろえさんは、小さい声で、つけたした。


「そばに、いて」


 その声が、すごく、すごく、さびしそうだったから。


「なら、いっしょにあそぼう!」


 つないだ手をグイっとひっぱった。かるく立ち上がったくろえさんは、目をぱちくりさせて、ボクを見下ろした。あ、くやしい。ボクの方が背が低い。


「くろえさん……りこちゃん……くろちゃん……うん。くろえさんのこと、クロちゃんてよぶ。ボクのことは、好きなようによんでよ!」


 そう言ったら、くろえさ……クロちゃんは、ちょっと考えこんで、口の中でもごもごしゃべる。


「じゃあ、シノってよぶ。あそぼう、シノ!」


 あとで聞いてわかったけど、クロちゃんはこの時、ボクの名前をちゃんと言えなかったんだって。

 英語の方がまだしゃべれてた時で、あっくんの猛特訓でなんとか少しは会話できたけど、サ行ガ行が苦手で、まだうまく話せなかったらしい。『おしゃふねしのぐぃ』みたいになっちゃうって。かわいいと思うんだけどなぁ。


 それから時間まで、あっという間だった。

 クロちゃんは運動がとくいで、かけっこや鬼ごっこは勝負がつかなかった。てつぼうとかうんていとかブランコはあんまりやったことがないみたいで、でもやったらすぐできるようになった。すごい!


 五時の音楽がなったら、小学生はみんな帰らなきゃいけない。

 ほうかごが、こんなに楽しかったなんて、知らなかった。ずっとあいつらからにげまわってたから。

 楽しいほうかごが、こんなに早くすぎちゃうなんて、知らなかった。


 ボクもクロちゃんも、しょんぼり眉毛を下げて五時の音楽をきいてた。

 音がなくなるまで、二人で手をつないでた。

 カラスといっしょにかえりましょ。

 音がなくなって、クロちゃんは手をはなした。


「バイバイ」


 もうこれっきりみたいに、バイバイって言うから。


「また明日、だよ」

「またあした?」

「そう言えば、また明日あえるんだよ。バイバイじゃないよ」

「明日も、遊んでくれるのか?」

「もちろん!クロちゃんと遊ぶの楽しいし、ボクたちもう、ともだちだと思ったんだけど、ちがう?」


 ほんとうにおどろいたみたいに目をみひらいて、クロちゃんはだまった。

 それで、ふわっと笑って、何回もうなづいた。


「……うん、うん。シノは、ともだちだ」


 ともだちって、言ってくれたのがうれしくて、ボクもニコニコしてしまう。


「朝も、あいさつするよ。ほうかごも、遊ぼう。ずっとずっと、いやって言っても隣にいるよ!」


 公園の入り口で、もう一回手をにぎって、わかれた。

 はなれてく小さいせなかを、なんとなくみおくってたら、クロちゃんがくるっとふりかえった。


「シノ!」


 ボクは、ドキッとした。夕日で赤っぽくなったクロちゃんのカタチ。


「また明日!」


 細いうでをぶんぶん大きくふって、クロちゃんは、ひまわりみたいな顔で笑った。


 くるりと背中を向けて走ってくうしろすがたを、見えなくなるまで見送った。

 夕方でよかった。

 きっと、ボクの顔、夕日と同じ色してる。


 なんだろう、コレ。

 むねも顔も、カーってあつくて。はなしかけるまえのドキドキとはちがう。

 クロちゃんの言葉で、ぎゅうっとなる。心臓のいたみにもにた。

 はやく明日になってほしいような。

 ドキドキしてあったかくて楽しくてふわふわしてうれしくてうれしくて、




 なみだがでそうな、このきもちは。







 ぼくは今日、ともだちができた。

 強くて、かっこうよくて、ヒーローみたいな。

 さびしがりやで、えがおがかわいい、小さな手の、女の子。



 そばにいるよ。

 きみがさびしくなくなるまで。

 きみがさびしくなくなっても。





 にぎった手を、はなしはしない。










これにて完結。


ここまで読んでくださってありがとうございました!



2015.12.19 改稿。



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