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るいとも!  作者: 唐子


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14/17

14.一人なら普通、ふたりならまあまあ、三人寄ればどうしようもない。

「なんであぁなっちゃったんだろーね?」


ちょっと逆戻って、高二の二月→高三晩秋(現在)という時系列です。

自称モブ視点。後半は布川さん視点です。

またモブ視点。以前ちらっと登場していた上山くん。

モブ、出張ります。


 どうもどうもどうも。しがないモブAです。

 あ、ダメ?そんじゃBで……え、だめ?もーわがままだなー。


 県立正芳高校二年八組の上山です。これでいい?!


 あんたさー、この時期にゲタバコに手紙とかやめろよっ。すっごい期待しちゃっただろ!

 もしかして人生初のあのイベントじゃない?!チョコとかもらえるんじゃない?!どうしよおれもとうとうリア充のお仲間だよぉ可愛くなくてもいいおっぱいおっきい彼女欲しい!って思ってウキドキワクテカして来たのに。がっかりだ!無駄に寒い気持ちだ!寒さの二乗だ!!心が凍死寸前だ!!タロジロカモン!クールに抱いてやんよ!!


 お?おお……なんか、そんな丁寧に謝らせて、むしろスマン。

 ま、いっか。で、何の用?



 おお、よく知ってんね。そうそう、犬養とは、同小同中だよ。あんま知られてないけど。

 そうだな、話はするよ?仲いいのかって聞かれたら、そこそこっていうか。チョーナカヨシィ!って感じでもねーな。

 なに、犬養の話が聞きたいって?ふーん。んな面白いこともないと思うけど。ま、いっか。何が聞きたい?


 『うわさ』は本当か、って。


 んー…そのうわさにもよるんじゃない?それを確かめたいと?

 たしかに、兄ちゃん世代のとごっちゃになってるかもね。え、兄ちゃんなんて知らない?

 おれらの三つ上の人らも、結構やんちゃだったのよ。


 ああ、まずそれね。はいはい。

 犬養は裏番とかじゃないですよー。

 つか裏番とか、時代時代。


 え?金髪と茶髪の派手なのとつるんでる?ヤンキーみたいな人相悪い奴に挨拶されてた?住居不法侵入?傷害罪?警察のお世話になってる?新興宗教の教祖?中学でやらかして他言無用の伝、説が…あ、る……ブハッ!!


 ファ――――――――――っ!!ぎゃっは、ああああああはっ、はっははははは!あは、あはあはははははっあひいいいいいぃぃぃ!うっふ……げっふ、ふ、ふ……。あ、ごめ、待って。待って。ちょ、待って。






 ―――――ふぅ。よし。

 ……やっべぇ、うわさって怖ええええぇぇぇぇ。うん。ダイジョブ。説明してやんよ。


 結論から言えば、誤解だ。

 あいつは前科もちではないし、悪い連中と付き合うような面倒くさいことはしねーよ。どれ、一つ一つ解説してやろうかね。



 金髪と茶髪は、幼なじみだよ。あんま髪色で判断してくれんなよ。あれ地毛だからさ。

 明るくて楽しい気のいい奴らなんだぜ?ちょい私服センスがブッ飛んでて、暴走ボケ倒し気味なのが玉に瑕だけど。

 ちな、おれ町内も一緒だから児童会も一緒だったの。登校班とかなついよな。


 あいつら、すっげー仲良くてさ。ずーっと三人でつるんでるんだよ。悪ガキ三人がそのまま図体ばかり大きくなりました、って感じ?

 そうそう。茶髪の奴の兄ちゃんが三つ上でさ。この人がおれら世代のガキ大将で、下の奴ら引き連れて、まぁ町内で悪戯三昧という騒々しい小中時代を過ごしたわけで。あいつら直の子分にされてたのよ。だからかな。

 おれ?最初にモブっつったじゃん。

 まあ巻きこまれてたよね。おかげで危機回避能力上がった気ィするんよ。



 多分住居不法侵入とか、警察のお世話とか、ここにかかってくるんだと思うんだけど、あいつら三人まとめて、ひっでー悪ガキなんよ。誇張なしに。

 警察云々は、廃墟で肝試しとか、農道爆チャリチキンレースとか、そーいうので交番のおまわりさんに目つけられてるだけだから。「またお前らかー!」って。うーん、巡査のおっさんの頭髪不憫だね。昔はふさふさだったのに。南無南無。


 傷害罪はあれだねきっと。去年のヤツ。地元の祭で、小学生のチビ達がよそもんに絡まれてるの助けて、過剰防衛。あれはウケたわ。ピタゴラ式に被害拡大してって。駐在のおっさんが「やり方ってもんを考えろ」って珍しく褒めてた。うん、褒めてたよ?



 ヤンキーとか、人相の悪いのとか、顔で判断するの、よくねえよ?あいつらあれでも気にしてるからさぁ。

 多分そいつらも、同じ町内の下の奴ら。後輩。まだ中学生。道で会ったらあいさつするくらい、礼儀正しい奴らなんだよ?

 服のセンスに関しては、これも個性としか言いようがないけどさ。



 あいつら三人、無暗に突っ張って世の中僻んでするような悪さじゃなくて、ほんとに楽しいことが好きなだけなんだよ。

 ただ巻き込み体質で周りへの影響がデカいだけで。


 裏番疑惑はこれで晴れた?そう?あとはあれか。他言無用の、で、っで、んっんーっ。

 伝説、ねぇ。

 ううーん、これ、俺言ってもいいのかな?しゃべるなとは言われてねーし、いっか。



 犬養ってさ、いわゆる学力チートなんだよ。


 知能指数高くてさ、小学校低学年で中学卒業までの勉強終わってたの。まじまじ。中学に上がる前に微積は終わってたらしいね。

 ご両親が子どもの興味に対して理解が深すぎた結果というか、もっともっとって学習意欲を満たした結果がそうだというか。子どもが求めるままにカテキョとかネット講座とかつけてたらしいんだけどね。

 過ぎたるは及ばざるがごとし、って言うでしょ?まさにそれ。

 小学校低学年にして頭でっかちな、ちょい集団行動苦手なクソガキ様の爆誕ってわけだ。


 仲いいんじゃないのかって?最初に言ったじゃん、そこそこだって。

 あ、でも、そのころの犬養は嫌いだった記憶。ムシが好かんというか、いけ好かないというか。

 ガキがいくら頭よくたって、そんなん関係ねーじゃん。一緒に遊んで楽しいか、楽しくないか。それにつきるじゃん。小坊なんてそんなもんだろ。

 ま、経緯はともかく、くっそ頭のいいガキだった、前提がそれね。


 ぶっちゃけ結論から言えば、ず―――っと一番だったんだよ。中一から中三全部のテスト。満点でさ。

 盛ってねえってば。最後のあたりトトカルチョしてたんだもん。先生含めて。

 中には意地になって中坊レベルじゃない問題テストに入れちゃう先生とか現れちゃって。問題になったけど、そう言えばあの先生いつの間にか消えたよな……ま、どーでもいっか。

 全国模試もずっと一桁だったらしいね。中学の全国模試なんて、モノによっちゃ判断基準にもなりゃしないって言ってたけど。それでも一桁はすげえよな。


 あ、同級生なら、きいたことない?

 おれらの学年の新入生総代、辞退した奴の話。そうそう、県立高校入試満点合格でたなんて、地域ニュースになった奴。


 あれ、犬養。


 ほんとほんと。冗談じゃなく。あの後、代わりに総代になった奴、間違われて涙目だったらしいね。

 男だってきいてたのに女子が壇上あがって、「ほんとに女か?女装か?カマか?」なんて言われて。かわいそー。


 で、入試でもやらかして、『受験の神様』なんて周りに言われ始めてさー。多分これが宗教云々のうわさにかかってるんじゃない?

 いや、したことはすごいよ?絶対高校浪人するって言われてた奴、合格させちゃったんだもん。たった三カ月の勉強で。

 ねぇ、すごいよねー?

 ……でも、あの勉強法ちょっとでも間近で見てたら、そんなこと言えないよ……マジスパルタ……あっくん怖い。



 これが、伝説ってやつの概要。ウケるっしょ?

 え?今はふるってないじゃないか?昔天才も今は凡人?んー、ちょっと違うんじゃないかねえ。


 今でも犬養、頭いいよ。わざとセーブして真ん中くらいにしてるっつーか。

 一回模試の結果見してもらったけど、相変わらず一桁だったからね。そうそう、予備校主催の全統のやつ。

 青褪めないでよ。あの模試の全国一桁が身近に奴いるとか、まぁ俺も驚いたけどさ。



 なんで隠してるか?意味ない?この学校ではステータスなのに?

 うーん。推測になるけど、いい?


 幼なじみいるっつったじゃん。つるんでる、金パと茶髪の。



 高校は、あいつらと離れたから。



 ふざけてないってー。

 よくつるんでるっつったでしょ?ほんと、ちっこいころから飽きもせずまあ、朝から晩まで団子になってさ。

 俺にはよくわからんけど、誰にも介入しづらい友情?絆?なんて言えばいいのかな。


 こいつの隣だと楽、って友達とか、いたりするじゃん。黙ってても平気、こいつの隣なら楽に息できる、なんでかそいつが辛い時はわかる。そんな奴いない?あ、いない?そいつはゴメンね。じゃあ、マンガん中の話だと思って聞いてよ。

 犬養にとってそいつらがそんな感じの存在で、うん。こっからは本当に俺の憶測だけどね。


 努力の結果なんじゃないかねぇ。

 大人が手を焼くクソガキ様が、あいつらとつるむようになって、ようやく周りとまともに、普通に交流できるようになってさ。


 自分曝しても受け入れてくれる奴がそばにいて、それってすごく楽だけど、ずっと一緒なんて無理じゃん。

 人生のどっかしらで、絶対道は分かれるじゃん。

 全開の自分が万人受けしないってわかってて、それじゃ生き難いってのもわかってて、じゃあどうするって。


 犬養は『埋没』を選んだんだろうね。

 一緒にいて楽って、一種の依存でしょ。だから、あいつらに頼らないで、『普通』になるようがんばった。

 その結果が今じゃないのかね。あくまで憶測だけど。



 でもまあ、それまでやらかしたのがアレすぎて、変な伝説残っちゃったけどね!マジ詰め甘い!ウケる!


 あ?なんで笑うのかって?

 いやぁ、伝説なんてこっ恥ずかしいもんに知らんうちにされてるなんて、あっくん知っちゃったら憤死するんじゃないかって、今から愉快になっただけだよ。


 黒歴史プギャー!したいから、この事実を一番楽しいことにしてくれそうな人にタレこむわ!

 断じて、彼女できたのがうらやましいわけじゃない。ないったらない。

 知的巨乳メガネの布川さんとか……うらやましいわけじゃない断じて。


 あ、情報提供ありがとな!お礼に一つ忠告な!



 犬養を、余計な日の目に曝すなよ。



 あんなんで、あいつら全員、それぞれの場所で、まぁまぁうまくやれてると思うのよ。

 外から余計な波風わざわざ立たせる必要ないわけ。

 あんたに与する理由がないし、あいつらの方が付き合い長いしね。

 もー昔っから露払いはぜーんぶおれに押しつけてさ。まぁ、愉快なことが待ってるってわかったら、それすら楽しいんだけどね?


 だからあんたが布川さんに横恋慕してて?

 いろいろ犬養の情報集めてて?

 これだって貶す理由みつけて?悪意でもって拡散して?

 それ布川さんにつきつけても?あんま意味ないよ。あの子そういうあっくんもう知ってるもん。残念でしたー。


 てかあんた、詰め甘いよ。あっくんよりゲロ甘!よりによって、おれにうわさの確認に来ちゃうんだもん。


 しょうがないじゃん?そこそこ、仲いいんだもん。

 あいつらの悪戯、笑って付き合えちゃう仲なんだもん。しょうがなくね?ねぇ。


 やだなぁ、ビビんないでよ。脅してるんじゃないんだから。

 基本、専守防衛なんだよ。これマジ。こっちから手はだしません。ね?

 あんたが何もしなければいい話。おけ?


 いやぁ、話が通じてよかったよ。中学ん時はわからんちんも多くてさぁ。


 大丈夫。俺はただのモブB。いわば使い走りよ?

 騒動は、あとからあいつらが持ってくるんだから。



 ね?





 * * *


「いやあああああああああああああ上山(かみやま)てめ゛ぇぇぇぇえええええ」

「あーはっはっはっはっはっ!!ふげっぶぐ……ひ――――――っ」


 ある日の昼休み。

 歩くんの教室に向かったら、本人が廊下をころがるように全力疾走して通り過ぎて行った。……先生に怒られないかな?



 私、布川と、彼氏の歩くんは、進級してまたクラスが離れた。進路別だからしょうがないけど。

 でも、頻繁にお互いの教室を行き来するようになった。

 初めはちょっとカレカノっぽくて気恥ずかしさがあったけど、高三にもなって囃すような子もいない。

 そんな他人事より、目先の受験の方が差し迫った問題だしね。

 私たちは相変わらずマイペースに逢瀬を重ねている。


 それで、今度の休みの図書館デートの相談したかったんだけど……どこいっちゃったんだろ?上山くん大爆笑だったね?


「あ、布川さんじゃん。ちーす」

「やふー。犬養なら上山が釣ってったよ」

「あ、うん、やほ。目の前を通り過ぎられた。目に入ってなかったみたいだけど。何があったの?」


 歩くんの教室から、去年同じクラスだった男女の友人が顔を出して、声をかけてくれた。


「なんか、春から犬養の変なうわさあるじゃん?あれ広めたの、上山だって、さっき暴露されて」

「上山のやつ煽りよるから、犬養爆発してね」

「あぁ……地元じゃ負け知らずなあれね。歩くんすごい参ってた。あー……」


 中にこいこいされ、ざわつく教室の、さっきまで歩くんが座っていただろう席に着く。机が派手に斜めになっていたので、そっと直した。

 机を挟んで向かいに座る二人から、事情を聴く。


「そりゃー黒歴史暴露拡散なんて、恥ずかしい通り越して死にたくなるもんな。うっ、中二のあのノートどこにしまったっけ……」

「ハイハイ茶番乙。ま、意外な尊敬は集めてるけどね。良くも悪くもこの学校、価値基準の第一は学力と成績でしょ?拘泥しちゃう残念なのもいるけどさ」

「あ、あぁー……うわさはそっち方向にいってるのか」

「県内最難関校だからこそまかり通る価値基準だよね。誰しも大なり小なり『頭いい自分コンプレックス』抱いてるから」

「そもそも犬養が真面目ゆえに愉快な奴だってゆーのは、同クラになった奴なら誰でも察せちゃいますし。犬養と同じクラスだと笑いが絶えない」

「上山が加わると乗算されるよね。去年はひどかった。笑いってストレス解消に多大な影響与えるらしいから、邪魔さえしなければいいんじゃないのって思うけど」

「歩くん、笑いをとろうとしてるんじゃないんだよ。若干天然さんというか、決して狙ってるんじゃないんだよ」

「ノせられやす過ぎじゃない?ある程度までならガードゆるいよね。そっから先はがっちがちだけど。押しにも弱いし」

「あんまり言わないであげて……。本人気にしてるみたいだから」

「それがわかってるから、布川さんはあっくんの彼女やってられるんだよね!」


 談笑してると、背後からいきなり大きな声が聞こえて、ビクッと肩が跳ねた。

 すると向かいの二人から菩薩顔で拝まれた。なぜだ。

 振り仰ぐと、さっき飛び出していったはずの上山くんがにこやかに立っている。

 いつの間に。そしてなぜサムズアップしている?


「犬養はー?」

「食後だったのが運の尽きだよね!」

「お前も一緒だろ」

「おれ、食後すぐ走っても腹痛くなんない。そんなことなってたら逃げ遅れるから!」

「何から逃げるのよ……」

「日常は危険がいっぱいなんだよ!あとは慣れだね!」

「どうやって撒いたの?」


 ふとした疑問を呟けば、上山くんは意気揚々と説明してくれた。

 西階段を下る四階から三階の踊り場で、背格好の似た後輩を捕まえバトンタッチ。そのまま一階まで駆け下ろさせ囮にし、自分は三階の物陰に身をひそめ、そのまま廊下を悠々渡って反対の東階段で戻ってきた、と。


「オレンジのパーカーなんて着てる子、よくもタイミングよく捕まえたね」

「そこはほらぁ、仕込み仕込み」

「そっから始まってんのかよ」

「笑いの神様にでも憑りつかれてんの?」

「なんだと!みんなだって面白いこと大好きだろ!?」


 「好きだけど、そこまで求めない」「笑いは傍観でのっかる方が楽しい」と冷淡に告げられ、上山くんは「ガッデム!」と叫んだ。この茶番も定番化したね。

 そのまま教室前方の窓際の席にゆき、そのまま開け放たれた窓から顔を出して、視線を走らせた。

 なんだなんだと私たちは彼のそばに集まり、上山くんが見つめる先を見やる。


「おー、早いなぁ、あの後輩オレンジパーカー」

「絶妙に嘲笑うような距離感で速度落とさないなんてすごいわー」

「同小同中の運動部の奴!犬養プギャーするって話したら即おっけーだった」

「犬養なにやらかしてんのよ……」

「ここにきて黒歴史の追撃待ったなしなのか……」


 視線の先にはグラウンドがあって、歩くんとオレンジパーカーの後輩くんは、端から端まで縦横無尽に走り回ってる。

 あー頭に血が上っちゃってるよね、歩くん。若干近視の気があるから、顔違うとか、見えてない可能性もあるな。

 そして、グラウンドの死角になる倉庫や木やクラブ棟の影にちらほら見える、複数のオレンジ。四階からだとよく見える。

 あ、交代した。イタチごっこだねぇ。でも、犬養くん、翻弄されてるの、気付きはじめたかな?


 ところであの交代要員は、どこで集めたんだろう。

 同じ疑問がわいたのか、彼女がたずねる。すると、上山くんは朗らかに笑って答えてくれた。


「あいつというか、あれの幼なじみたちというか。まとめてやらかしてるから、連帯責任でうらみ買ってるというか?」

「あー……」


 首をかしげる他二人はわからないだろうけど、連帯責任という言葉で、私は歩くんの愉快な幼なじみの彼らを思い浮かべた。


 きっと、あのオレンジパーカーの後輩くんたちは、莉子ちゃんか長船くんか、二人、はたまた三人の被害者だったのだろう。

 でもって、わざわざ仕返しするほど恨んじゃいないけど、プギャーする機会があるなら全力で乗ってしまうほどのことはされたんだろう。


「あ、犬養伏兵に気付いた」

「でも抜け出せない」

「おーおー必死必死」

「なんかカバディみたくなってる」

「あ、後輩くんたち、かごめかごめし始めた」

「ちょっ、速いっ速いっ!」

「 こ れ うぁ 」

「……他の教室からも、爆笑聞こえるね」


 友人二人の交互実況が、各所からの笑いでかき消えていく。

 いつのまにか教室にいた人ほとんどが窓辺に集まって、グラウンドをのぞきこんでいた。

 そして笑いは同じ教室同じ階は勿論、下級生のクラスがある階下からも響いてくる。


 うん、秋晴れの、小春日和で、砂ぼこりがたちまくってるのが、無駄におかしい。

 きれいな円柱形だね。魔法陣の中央にイケニエにされてるみたいだよ、歩くん。魔法陣発動してるよ。

 青空と砂ぼこりの黄土色の対比がいいね。色相環でいう反対色ってやつだ。

 高速かごめかごめは、内側にいる歩くんの反応が、真面目であればあるほど滑稽で、面白い。




 なんだか、ちょっと安心しちゃった。

 春からこっち、いろいろ思い悩む歩くんを見てきたから。


 春からじわじわ広がっていったうわさは、歩くんを疲弊させた。

 私にはどうすることもできなくて、歯がゆい思いをした。それすら歩くんにフォローさせてしまって、かなり落ち込んだのだ。


 人目には長所に思える抜きん出た学力は、歩くんにとって強い引け目になるようで。周到に隠していたみたいだけど、よくよく観察すれば随所にぼろは表れていた。気づいたら歩くんはけっこうわかりやすい。学力と賢さは違う。

 ホワイトデーに打ち明けてくれたこれが、長船くんの言ってた『歩くんの抱える問題』なのだと知れた。

 でもそこに惚れたわけじゃないので、私にとって学力は歩くんを構成する一要素でしかないのだ。そんな風に告げた時の歩くんのホッと顔プライスレス。あれでご飯三膳はいける。おっと、にやけるな私の表情筋。がんばれ。

 でもこれが、結構根深い問題というか、なんて言えばいいんだろう。


 きっと、歩くんは『普通コンプレックス』なんだろう。

 足並みをそろえることを覚える幼少期に、みんなと同じにできないことは、聡い子どもには結構な劣等感だ。たとえそれができる方に突き抜けても。

 そして、子どもというのは、異分子に敏感なのだ。世界が狭い分、なおさら。

 莉子ちゃんや長船くんと出逢うまでの彼は、賢さの分、どれだけの寂しさを感じていたのかな。

 同世代になじめず、大人からは距離を置かれて。いくら家族が理解してても、さびしかったんじゃないかと愚考する。

 だから、きっかけをくれた二人が大事なんじゃないだろうか。余計なお世話な想像でしかないけれど。


 なんでもない顔の裏でいろんなことを考えこむ歩くん。

 無自覚だけど、優しい人だから。何も考えてないように見える裏で、相手のことをすっごく考えてくれてる。面倒くさそうなポーズはしても、ちゃんと見ててくれる人。だから必要な時にさっと手を差し伸べられる。

 天邪鬼なところもあるけど、そんな歩くんが長船くんも莉子ちゃんも大好きなんだろう。

 かく言う私も、歩くんの優しさとかそういうところに気づいてから、日々惚れ直さざるを得ない。私の彼氏がこんなにいい男で毎日楽しい。


 莉子ちゃんと長船くんがかみ合わなくなって、歩くんが表でも裏でもいろいろ動いているのは、結局彼らが好きだからだ。

 優しい性格だけじゃ説明つかない感情がそこにある。だから面倒くさいことでも首をつっこめるんだと思う。私にもわかる感覚。できることはしてあげたいもの。

 好きじゃなきゃ、その人のためには動けない。感情論だって立派な動機。


 歩くんの内側に入れてもらって、彼の大切なものを少しずつ見せてもらって、私も自分の内側を見せられるようになって、ありきたりな言葉だけど、世界が変わった。

 以前よりずっと息がしやすくなった世界。きっかけは歩くん。


 歩くんは、全知全能の神様みたいな人じゃない。

 人よりちょっとお勉強ができて、慎重で、人がよくて、自分のでも他人のでも、大切なモノを大切にできる、優しくてかわいい人。

 私の大切な人。


 莉子ちゃんに、様々流れてるうわさの真偽より、対応を相談したら、彼女は笑って「そのままでいて」と言った。


「ユイちゃんがいつも通り、あっくんの隣にいてくれるのが、あっくんにとって一番の癒しだよ!」


 過剰反応より普段通りが一番。結果が、今この愉快な惨状なわけだけど。


 はっちゃけてる姿を見て安心するなんて、あの二人に染まってきたかなーと思うけど、しかたない。

 こうしてたまには息抜きしないと、歩くん、それこそ抱え込みすぎで破裂しそうなんだもん。

 叫べるだけ元気になったと思えば安いよね。




 友人二人が爆笑しながらグラウンドを指さす横で、そういえばいちばん爆笑しそうな声がしないと向けば、上山くんは思いのほか優しい顔で、窓の外を見ていた。

 私の視線に気づき、にっと目を細め、左の人差し指を立て口元に。


「まぁ、これ以上変なうわさたったって、平気でしょ。なにせこうして全校レベルでバカ曝してんだから」

「なんなんですかなんなんですかあついゆうじょうですかごちそうですありがとうございますありがとうございます」


 上山くん歩くん大好きだね!


「上山ぁぁああああああああああぁぁぁぁぁあああああああああああ!!!!!」


 本音と本音も繕えなったところで、外から元気な歩くんの声。

 上山くんの爆笑と一緒に、予鈴が鳴る。



 ある日の県立正芳高校の昼休みは、こうして、にぎやかに終わった。





結構初期にできてた閑話。


『い』ぬかい、『お』さふね、『か』みやま、『く』ろえ。五十音順名簿の弊害犠牲者、上山。

ただのモブBだと思った?残念!所詮あいつらの幼なじみでした!


上山くんは、三人が悪さするのを遠くから笑ったり最悪にならんよう見てたり、下の子らが巻き込まれないよう誘導したりする、縁の下の力持ち的なやつ。たまにうっぷん晴らしで三人罠にハメる。

いい奴ではない。

この中ではおそらく一番生き賢い。巻き込まれまくって賢くなった。


歩は学力的にはチートでも、生き方は賢くない。ずるくなれないから。

ずるくなれれば賢いというわけでもないですが。


布川さんが拝まれてたのは、肩ビクッで布川さんのたわわな母性が弾んだからです。

そして布川さんは確実に染まってきてます。


2015.12.19 改稿。



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