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るいとも!  作者: 唐子


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13/17

13.ミチとの遭遇ってこんな感じ。

一話六千字前後と言ったな、あれは嘘だ。約一万字あります。

前半クロたちの後輩視点。いっくんとリューちゃん。後半はクロ視点です。


 学校帰り、挙動不審なあっくんを発見したのは、一緒に歩いてたリューだった。


 杉元のじーちゃんちの塀の影から、こそこそチラチラ何か窺ってるようで、あきらかにヤバイ気配ムンムン。

 正直、近づいたら、問答無用で巻き込まれる。

 長年の幼なじみ履歴から、こういう時のあっくんだったりクロだったりシノだったりに近づいて、ロクな目にあったためしがない。

 なまじオレらが年下な分、逃げそびれたとき受ける被害は、いつだって甚大だ。スポーツ選手の体なんだから、もっと労わってほしい。


 だというのに、リューは根が素直というかお人好しというかボケというか、全部なんだろうけど、スルーという技術をどっかに置いてきてしまってる。自分が痛い目みるとわかってて、困ってそうな、問題がありそうな奴を放っておけない。そして染みついた体育会系の血が、知り合いに遭遇して無視とかいう無礼を許さない。

 正真正銘れっきとしたバカだ。気はいい奴なんだけど。

 それに付き合ってしまうオレも、認めたくないが、れっきとしたバカだ。


 そわそわ忙しなくあっくんとオレを交互に見やって、どうしようどうしようとうろたえているリューに、あっくんの方が気がついた。

 まぁ、目立つしな、オレら。坊主頭で三白眼ででっかいのと、金メッシュ入れたツンツン頭で目つき悪いのがつるんでたらオレらだと思っていい。身長?リューがすくすく伸びすぎなんだよ!クソが!オレの成長期はこれからだ!!DKになったいっくんにご期待ください!!!!……荒ぶった。


 こいこい手招きするあっくんに、リューは一旦オレを見て、オレが仕方なくうなづくといそいそ近づいて行った。『危険と判断できるものに不用意に近づかない』というオレとの約束は、一応覚えていたみたいだな。

 さっとオレたちを物陰に引きこんで、あっくんは周囲をうかがうと、やっと目を合わせた。


「あっくん、こんにちは」

「ちわーッス」

「おー。お前ら、久しぶり」


 安心安定の素っ気なさな、あっくん。オレらも人のこと言えた面じゃないけど、もうちっと愛想くらいどうにかなんないのかこの人。


「また勝手に入って。杉元のじーちゃんに怒られんよ?」

「や、今日は平気。事前に頼んであるから。つか、お前らここ来るまでに、シノ見てない?」

「シノ?いや、今日は見かけてすらないけど。リューは?」


 見上げると、くるくる首を振るリュー。あっくんはこの反応にホッと肩の力を抜いた。


「何、シノなんかやらかしたの?」

「やらかしたというか、やらかしそうというか、おおむね自業自得というか……」


 もにょもにょ言いづらそうに、ハッキリしないあっくん。オレもリューも首をかしげた。


「まぁ、お前ら、しばらくシノがクロ追いかけてるの見かけたら、クロの味方してやってくんない?クロが捕まったらその時は放置でいいし、シノには、オレの名前出していいから」


 今度こそびっくりした。

 仕出かす大体のことをシノとクロのせいにしてるあっくんが、自ら責任を取りに行った、だと……?


 何が起こってるというんだ。


 思わずリューと見つめ合ってしまった。うん、いくら見たって凶悪な面だな。おぇ。あっくんに向き直る。


「あっくん、頭でも打った?」

「いっくん相変わらず失礼な。リューも何回もうなずかなくていいよ!お前にそれやられると地味に傷つく!」


 眉間にしわを寄せてもそんなに怖くない。なぜなら、リューの通常顔の方がずっと人相が悪いから。怒ってないのに「怒ってる?」って聞かれてしょげちゃう(でも顔は変わんない)奴だからな。


「まぁ、ちょうどいい。お前ら、ちょっと協力しろよ」


 有無を言わせない笑顔って、こーゆーのな。

 すかさずダッシュできびすを返そうとしたオレらの襟首をぐわしと掴んで、あっくんは杉元のじーちゃんちをずんずん進んでいく。運動神経並なくせに、こういう時だけ素早い。

 というか、やっぱり巻き込まれた。リューをにらめば、すまなそうな顔(でも顔は変わんない)をされたので、いい加減学習能力ないよなと思いつつ諦めて引きずられていった。


 昔からこの辺にある家は、敷地の北側に防風林を植えてる家が多い。そういやクロんちにもあったよな。畑や田んぼで途切れているけど、俯瞰してみたら、住宅地の北側には緑の塊がそこここに点在してるように見えるんじゃないかな。

 そんで杉元のじーちゃんちには、家と林の垣根に、でっかく育った杉が五本、等間隔に並んで植わっている。

 あっくんはオレたちをそこまで連れてくと、おもむろに距離を目測し、うんうん何かに納得したかと思えば、杉の木の前に階段状に積んであった木箱をどけ始めた。何が始まるのかわからんオレらはぽかんである。

 とりあえず、一緒になって木箱をよける。ここまで来たら死なばもろともである。

 元の広い庭に戻ったところで、オレとリューは距離を置いて立たされた。


「リューはもう一歩後ろ……でかいでかい、もう半歩前。オッケーそこで立っといて。いっくん、こっち。俺の前。ここな」

「なに始まんの?」

「まぁ、しばし待て。そういや、お前ら、夏の大会がんばったんだって?」


 そう言って、世間話を始めるあっくん。知ってたんか。

 そういや智とは、同じ少年野球のボーイズチームだ。話がいくのも道理か。ちょっとぶすくれて言葉を返す。


「一回戦負けだったんだけど」

「録画みたけど、シーソーゲームのくっそ乱打戦だったじゃん。七回裏まで本気勝負わかんなかったし。リューはヒットの他に満塁ホームラン三本打っただろ。いっくんだって盗塁六本決めるなんてスゲーじゃん」


 智、しばらく興奮してうるさかったんだぜー俺も燃えたわー、と、ここでうれしげに笑うなよ。照れんだろーが。

 智たち小学生のチビどもは、応援に会場までバスで駆けつけてくれたんだもんな。リューも、見れば顔赤くなってる。(でも表情は変わんない)


「そういえばオレら二人、スカウト?きた。稲葉文花高校」

「マジで?スゲーじゃん!そこ、今年甲子園で準決までいったところだろ。惜敗だったけど」

「県勢初のベストフォーな。控えからエースに戻して崩れて。あれはくやしい」

「でも、渋かった」

「リューはずっと三年の継投投手に注目してたな」


 調べたらその選手は、二年エースが入学するまでの一年間をエースで投げてた人で、いわゆる引きずり落とされた形の控えだったらしい。

 だというのに、控えとして出た試合の仕事ぶりといったら、すごかった。

 打って捕らせるとか球威でねじ伏せるとかコントロールが絶妙とか球種が多彩とか、そういうんじゃくて、たしかにエースの力量には及ばないんだろうけど。

 リューのプレイに似てる。

 守備位置ちがうけど、最後の一瞬まで絶対諦めない。

 言葉じゃなくて態度で、プレイで、絶対勝つ、お前らを勝たせる、って感じ。うまく言えんな。

 とにかくチームに一人いると安心するタイプ。継投としての仕事っぷりは言わずもがな。全出場試合失点ゼロの戦略以外のフォアボールゼロって、信じられん成績だと思う。


「あの三年、お前らの先輩だぞ」

「マジ?」

「しょーもない嘘つかんわ。中三でクロと同じクラスだった。クロの罰プリント手伝ってくれたりとか、気のいい奴でなー」


 なんて語ってくれるあっくんに、リューが目を輝かせた。憧れの選手が意外と身近って、うれしいよな。


「じゃぁお前ら、スカウト受けるのか?」

「あー、でも、あれ、スカウトなんかな?わざわざ監督さんが出向いてくれたけど、『即戦力になるとは思えんが、来たければ来んさい』って」


 リューも同意でこっくりうなづく。正直、あれはどうなんだろーというな。本気にしていいのか、微妙だよな。


 それに、ベストメンバーだった次世代が、必ずしもいいチームを作るとは限らないわけで。

 設備投資がよくても、いろんな地区から集まる強い選手とか、周囲の過剰な期待とか、名門には名門の長所短所がある。

 オレら、地元の小さいボーイズで、わりと和気藹藹やってきた。真剣だったから今年全国大会もいけたけど、小さいころから知り尽くしてきた仲間同士で、いい理解者である監督やコーチがいて、つくづく周囲に恵まれてた。

 周りに理解されにくい子どもだったオレとリューには、チームは大切な居場所だった。

 だから、そんな一種理想の場所を離れて、また一から居場所を作るって、結構な重労働だ。


 オレも、リューも、高校でも野球は続けたい。できれば一緒に。

 でもそれって、強豪校じゃなきゃいけないのかな。

 リューは知らんけど、オレはちょっと迷ってる。

 本気かもわからん監督の言葉に乗せられて、本当にいいんだろうか。


「でも、お前ら、甲子園いきたいんだろ?」

「球児なら夢はみるよ」

「なら、いいじゃん、そこで。強豪でも弱小でも、目指す場所とやることは、どうせ同じなんだから」


 なんでもないようにあっくんはそう言う。

 オレとリューは、ちょっと真顔であっくんを眺めて、ふいに目を合わせて、笑った。


 夏のくやしさを思い返す。

 あと一点、足りなかった。スライディングでホームベースに返ってきた仲間。迫真のタッチアウト。

 本当に、あとちょっと、足りなかった。みんなで泣いた。もっとあのチームで野球したかった。なにより。

 悔しかった。負けたのが。勝ちたかった。勝ちたかった。勝ちたかった。

 目指すなら、てっぺん。今度こそ。それなら。


「わかってんじゃん、あっくん」

「なに?上から目線だな」

「ヤル気に火がついたってこと。な、リュー」


 リューも力強くうなづく。

 環境が人を作るのを、オレは知ってる。全部じゃなくても、強い影響を残す。

 それなら、全員が真剣な方がいい。全員が、てっぺんを本気で狙ってるチームがいい。

 どこでだって変わらんなら、強い所で、強い奴らにもまれていくのが道理だ。


 と、ここでふとスマホを確認したあっくんが、一気に真剣モードに入った。


「いっくんは、そこでうずくまって。そう、亀になれ。頭気をつけろよ。リューは人馬な。俺の合図で、腕思いっきり上に振り上げろ。全身のバネをつかえ。大丈夫だ。奴は慣れてる。お前も奴も怪我はしない。完了後即座にその場を離脱。いいな?」


 指示通りに動く。が、なんだ。何をする気だ。奴って誰だ。

 するとすぐに表の方から足音が段々近づいてきて、ワーギャーうるさい声から、すぐにそれがクロとシノだと知れた。何やってんだ高校生。


「あーいっけないんだいけないんだ~勝手に入ってちゃってクロちゃん杉元のじいちゃんに怒られちゃうんだからサッサと止まってオレに捕まっちゃいなよ~!」

「ばっか諦めたらそこで試合終了なんですよつかこわいこわいこわい、ばっか笑顔でその速度はこわい!」

「こわくないよ~優しくするってば~!」

「なにを!?」

「クロ、三段跳び!」


 シノと距離を保ちながら、猛烈に走って突っ込んできたクロに、あっくんが鋭く声をかけた。あ、そーゆう作戦。

 察知したオレらは体制を整えて待つ。

 踏み切った足音を耳にしてすぐ、丸めた背中に軽い衝撃。すかさず横に転がる。

 体勢立てて仰いでみれば、両手を組んだ手のひらを足掛かりにしたクロを、リューが全身のばねを使って跳ね上げたのが見えた。

 ぽーんと、ありえない跳躍で目いっぱい跳んだクロは、高さ十メートルはあろう杉の木の枝の一本に軽々着地。

 そして、その勢いのまま、枝から枝へ飛び移り、林の奥へ消えていった。「いっくんリューちゃんありがとねえええぇぇぇ……」というドップラー効果と、置いてきぼりのオレら、スライディングで滑り込んできた荒ぶるシノを残して。マジか。え、マジでなのか。


「あいつ……サルか……」

「いっくんリューちゃんひどい!邪魔立てするなんて!覚えてろよ~!!」

「年下にあたんな馬鹿シノ!!文句なら俺に言え!」

「あっくんの、ばかぁ~!」


 口達者にクロの逃げた方向を見定めたと思ったら、キレのいいダッシュで引き返してまた猛然と走り去ってった。先回りするんだろうか。あの速度じゃ五分五分か?にしたって、これは。


 こわい。確かに、これはこわい。シノの行動と口調が一致してないうえ、顔が、この上なく、その、ヤバい。

 青褪めた顔でシノを見送ったリューと顔を見合わせる。

 最初あっくんが、いわく言い難い反応してたのは、これか。


「いっくん、リュー、協力感謝。指とか背中痛めてないか?大丈夫か?」


 あっくんが立ち上がったオレらの体を確認する。

 自分でも屈伸したり手首や腕を回したりしたけど、特に問題はない。てか、クロ軽すぎ。猫が飛び乗ったくらいの感触しかなかったわ。

 リューがオレの学ランの背中についたであろう足跡を、パタパタ叩いて落としてくれた。


「協力しといてなんだけど、何やってんの、あの人ら……」

「えーと、人生をかけた鬼ごっこ?」

「この年で人生かけちゃうの……。あっくんはクロの味方なん?」

「いや、どっちの味方でもない。あえて言えば、時間稼ぎ。必要だからどっちにも」


 深ぁぁぁぁぁぁいため息をついて、あっくんは「俺も受験生なんだけど……」疲れたようにつぶやいた。

 それ言うなら、あの人らもそうだと思うんだけど。肩を落とすあっくんに、リューがおろおろして背中をさする。


「受験、ガンバローな、その、お互い」

「今その気遣いは、胸に痛いわ……」


 人んちの庭先で何とも言えない空気になっってしまったところで、杉元のじーちゃんが縁側から顔を出した。

 ブドウとナシをもってけと言う。やったね。杉元のじーちゃんの親戚は、ブランド果実を扱う、果樹農家だ。

 いつもはしかめっ面でおっかねーじーちゃんが、なんだか不憫そうな顔であれもこれも持たせるもんだから、あっくんは変な顔をしてたけど。

 あっくんちからもリンゴのおすそ分けをもらっちゃったけど、ナシとかリンゴとかが合わせて二十個以上ってさ、普通に重いよね!

 結局得したんだか損したんだかわからん。ありがたくおいしくいただきますがね。


 一応逃げ切れたかクロんちに確認に向かうというあっくんと別れて、帰り道をたどる。

 普通に下校してただけなのに、なんだかやけに疲れた。てか進行形で疲れてる。

 教科書に加えて増えた土産の重量を両手に下げて、いつもと変わらん顔でヒイヒイ言ってるリューを横目に、オレは心を新たに決意した。



 もうぜっっっっっっってー、リューのおねだりはきかん!(憤怒)





 * * *


 そんなこんなでシノから逃げ回ることしばらく。


 以前ばったり会った駅で、またしてもユイちゃんにばったり遭遇したのは、畑仕事を手伝ってもらった九月からひと月半ほどたった休日の午後だった。


 偶然に喜ぶアタシ。挙動不審のユイちゃん。おっと、覚えのある反応ですね!

 でっかい青いビニル袋を抱え込みながら「ち、違うんだ!メ○ト特典が欲しかったとか、○なに薄い本店舗受け取りに行ったとか、これはそういうんじゃないんだ!」と焦った風に早口で言うところのほとんどを理解できてないんだけど、ヤマシイものであるということはわかっちゃったよ!墓穴だね!

 指摘すると、しゃがみこんで頭を抱え込んでしまった。う~ん、ユイちゃんのこういう迂闊なところ、けっこう好きだぜ。


 予備校帰りという正しく受験生なユイちゃんと、友人にドタキャンされて一人ふらついてたアタシ。


 シノとアタシの追いかけっこにも、一応暗黙のルールみたいなのが発生して、フィールドは地元駅から黒江家までの町中限定ということになっていた。前はフリーパスだったけど、今じゃうちの敷地にシノは入ってこない。そこまでが毎日ガチのリアル鬼ごっこだけども!

 ちゅーわけで、この駅は一応安全圏。それでもシノにみつかったら避けられないので、気は抜けないのだけど。


 すぐに別れるのもあれだし、どっか寄ってく?と、どちらからともなく誘いあった結果、ユイちゃんちに行くことになった。不思議だね!アタシはスタバでも寄ってく?くらいの気持ちだったんだけども!


 そんなわけで、電車でとことこ数駅離れた、ユイちゃんちに来とりますなう。




 突然の訪問にもかかわらず、ユイちゃんのお母さんはなぜか、熱烈歓迎してくれた。

 ちょっとビビるくらい愛想のいいお母さんにあいさつして、ユイちゃんの部屋に引っこむと、アタシはちょっと呆けてしまった。


「どうかした?」

「なんか、意外だった」

「何が?」

「アタシこんな髪だしいつもがアレだからさ、親ウケよくないんだよ。こんな初対面から歓迎されるとか、初めてで」

「そりゃ、積み上げた過程があるからね」


 ユイちゃんはこともなげにそう返事して、お茶の入ったグラスを置くと、空のお皿に行きがけに買ってきたお菓子をざらざらあけた。

 戸惑うアタシはクッションをわたされて、抱えたままテーブルの前に座る。


「髪が地毛なのは話してあったし、夏にお野菜たくさんいただいて助かってたし、友達付き合いの少ない私が話題に乗せてる時点で仲いいのはわかるし」


 ひとつひとつあげていかれる要素にふむふむうなづく。


「それに私もあんな趣味だからさ、中学からこっち、家に友達なんか呼んだことないんだよ。インドア派でこもりがちだし、交友関係なんか心配されてて。だから、今日のこれはうちの母も嬉しいみたい」


 なるほど。母の愛と、ユイちゃん自身の信頼、知らんうち積み重ねた信用の問題だったのか。

 ちょっと困ったように、照れくさそうに笑うユイちゃんは、それに、とつづけた。


「外でもよかったんだけど、聞かれたくないこともあるかと思って」


 気遣いの人だよねぇ。こういうところがあっくんと合うんだと思う。あっくんもあれでいて気にしぃだし。

 連絡は取ってたし、あっくんから詳細状況は聞いてるみたいだし、どこからどう話したものかと考えあぐねてたら、ユイちゃんの方から切り出してくれた。

 ら、爆弾だった。


「『好きとか独占欲とか幼なじみの親愛の延長で婚姻届だってあの時一回きりの悪ふざけじゃなかったのお前つかアタシ安易に流してたのこれって傷つけてたのでもこれまでだって下世話な実態とかあれだけ開けっ広げにしといてそれで意識しろとか無理でしょ完全対象外だったでしょふっざけんなていうかシノってやっぱアップに耐え得る顔してんだな今までオスの顔とか見せてこなかったくせにこういう時だけ自分の面自覚して迫ってくるなんてそれなんて卑怯真剣な懇願とか普通にトキメクわ馬鹿野郎――っ!』…てところ?」

「君はエスパーかっ?!!」

「腐女子は想像力豊かなんだよ、莉子ちゃん」


 イイ笑顔で「で、どこまで当たってたかな?」なんて爽やかに訊ねてくるもんだから、イイ性格してますよね……腐女子の想像力、コワイ。渋々ほぼ肯定すれば驚かれたけど。腐女子コワイ。


「というか、本気で気がついてなかったんだねぇ。私でも初対面の時で察したよ」

「うそ!?」

「あれだけあからさまで、なんであれだけ流せるんだと、逆に不思議ではあったけどね。そこは春に聞いた話があったから」


 「長船くん、莉子ちゃんが恋愛感情に肯定的になるまで待つのかなーって思ってたよ」なんて返す。そんな話もしたねそういや。

 つかマジか……本気でアタシが鈍かった話なのか……。あっくんの言葉だけじゃ半信半疑だったんだけど……。

 打ちのめされてると、ユイちゃんがまぁお食べよとお菓子を盛ったお皿を差し出してくれる。うつろなままポッキーをぽりぽりかじった。


「で、莉子ちゃんが引っ掛かってるのはどこかな?ずっと気がつかなかったこと?長船くんを傷つけてたかもしれないこと?恋愛感情を向けられてること?自分の気持ち?」


 ユイちゃんは怒るでも笑うでもなく簡潔にきいてきた。


 そのどれでもあるし、そのどれでもないとも言える。

 この漠然とした感情で、アタシはシノから逃げ回ってる。


「――ユイちゃんはさ」

「うん?」

「これからのこととか、あっくんと、不安じゃない?」

「不安だよ」


 即答で返されて、飲み込むのに時間がいった。

 そんなアタシにちょっと苦笑して、ユイちゃんはざっくばらん本音を語ってくれた。


「いくら今、心がつながってたって、未来なんて不確定なモノ誰にもわかんないよ。積み重ねた時間も過去も今も、担保にも保障にもなりやしない。ただ心持ち一つっていう、こんな不安定な感情で、今の状況、私達がある。でも、これが現実だよ」

「です、ね。なんか、ユイちゃんぽい」


 人間関係に関しては、結構さばけた感性を持ってるなとは思ってたよ。


「でもね、維持でも打破でも、それが現実を見ない理由にはならない」


 「努力しない理由にもならないよ」と、つまんだクッキーをアタシの口に押しつけて、優しくそう言った。

 されるまま口に入れて、もぐもぐ咀嚼する間、ユイちゃんは待ってくれた。


「努力」

「一緒にいるなら、どんな関係でも、その人にかける労力は努力じゃない?」

「保証もないのに?」

「そうだね」

「怖くない?」

「怖いよ」

「辛くない?」

「ときどきね」

「だって」

「莉子ちゃん」


 さとす声色に、自然うつむいてしまってた顔をそろりとあげれば、ユイちゃんは真面目にアタシを見ていた。


「完璧な人間関係なんて、ないんだよ、きっと。言ってしまえば、変わらないものなんてのも、壊れないものなんてのも、ない」

「断言しちゃうの?」

「嘘が欲しい?」

「いらない」


 首を振ってきっぱり言い切ると、ユイちゃんはうれしそうに笑った。

 そしてふっと遠くを見つめたかと思うと、優しげに口元をほころばせる。


「私、歩くんと一緒にいるとさ」

「うん」

「すごく、気持ちが楽になる。歩くんは、世間一般の料簡で、人を枠組みに組みこまない人だから。声を大にして言えない趣味があっても、変態でも、卑屈でも、否定しないから。私が私でいていいんだって思えてくる。そういう風に、思えるようになった。歩くんの隣で、私はとても私らしくあれる」

「うん」

「莉子ちゃんのその正直さもまっすぐさも行動力も、うらやましい。長船くんの突き抜けた一途さも、私にはないもので、ないと気付けたもので、それは歩くんと付き合わなければ気付かなかった」

「うん」

「これから学校も別々になって、一緒にいる時間が減って、いつか歩くんとお別れして、恋人っていう関係がなくなってしまっても、たとえこの先歩くんがどんなクズで最低な下衆になっても、たぶんずっと、歩くんは大切な人。歩くんと関わってから知り合った人も時間も全部、私の一生の宝物になると思う」

「う、うん……」


 一部極論入ったけど、ここまで言わせるなんて、あっくんは本当に果報者だよ。

 ユイちゃん割と客観的で傍観者気質だけど、身内に組み込んだ人はずっと大事にするタイプなんだ。ちょっとあっくんと似てる。似た者同志なのかもしれない。あっくんの目の高さに思わず土下座だね。心ん中でだけど!

 そんなことしみじみ思ってたら、むすくれられた。やだ、上目使いカワイイね!


「ちょっと、莉子ちゃんも入ってるんだからね?」

「うぇっ!?」


 仰天したら、呆れた目でねめつけられる。


「どうして入ってないって思うのかな。

 ねぇ、人間て結局、一緒にいたい人とじゃなきゃ、ずっとはおろかちょっとだって一緒になんかいられないよ。歩くんだって、長船くんだって、莉子ちゃんだって、そうでしょ?」


 「私、莉子ちゃんたちに、これまでだって無難な関係をしてきたつもり、ないんだけど?」と、小首を傾げて微笑まれた。

 ワ、ワー、怒ッテマスネ。


「ごめんなさい」

「よろしい」


 一瞬の間のあと、二人で笑い出してしまった。

 こんな茶番ができるのも、女の子ではユイちゃんくらいだよ。こんな、言葉を尽くして向かい合ってくれる友達も。あっくんもシノも言葉と言うより感覚で生きてるしな。


「女の子とこういう友達になれるなんて、思ってもなかったよ」

「男女は別れたらそれでおしまいかもしれないけど、女同士の友情は、恋愛絡まない限りずっとなんだよ、莉子ちゃん」

「ずっと?」

「ずっと」


 それは、この先もアタシと友達でいる意思があるということでFA?

 なんだかどうにも照れてしまって、ガラじゃないがはにかんでしまう。


「……ありがと、ユイちゃん」

「どういたしまして」


 はい、とさしだされたクッキーを、少しだけヤケ気味に食らいついたら、楽しげに笑われた。くそう。もてあそばれてるぜ。


「で、いつ話つけるの?」

「うぅ~……もう少し」

「考えてのこと?」

「うん。あっくんにも、そう頼んである」

「そう。長船くんには悪いけど、私は莉子ちゃんの味方だから」

「うへへ。……あっくん、防波堤にしちゃって、ごめんね」

「それは本人に言ってあげて。私は気にしてないから。それはそうと、莉子ちゃん。今うちの学校で、こんなうわさが流れてるんだけど……」


 それからあっくんの愉快なうわさをきいたり、ユイちゃんの相談を受けたり、進路の話をしたり、作付けした野菜の話をしたり、ひとしきりおしゃべりに花が咲いた。


「春になったらお花見しよーよ。いっばいごちそう作るから」

「いいね、ついでに私にお料理教えてよ。歩くんに飲み物用意してもらって、長船くんは場所取りね」

「心強い。そんでユイちゃんもシノの扱いわかってきたね」

「ふふ、でしょう?コンロ持ってって、その場で調理も楽しそうだけど、危険度があがるよね。やっぱりお弁当かな?」

「重箱総動員しよう。あー、今から楽しみ」

「ね、毎年できたら素敵だよね」

「いいね!集まってさ。そう言えば、ちゃんと示し合せてあいつらと集まるなんて、したことないかも」

「そうなの?じゃあ、初めての約束だね」

「そうかも。やばい、なんかすごく楽しみになってきた!」

「ふふふ、約束ね」

「うん!約束だね!」


 二人で笑いあう。



 いつかの未来に思いを馳せて、直近の将来を決めるべく、アタシは腹をくくった。






遭遇は未知だったり、道だったり。


いっくんとリューちゃんはシノクロあっくんの三つ下。智と一緒の少年野球チーム所属。


いっくんこと須田生馬すだいくま。二番ファーストで、動体視力と機動力高。柔軟性ヤバイ。股割できる。

リューちゃんこと佐藤竜之介。レフト四番で体格に恵まれた号砲バッター。肩も強い。


二人とも田舎ヤンキーな見た目の割に素朴でいい子。スカウトは受けて高校野球がんばります。



2015.12.18 改稿。



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