↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

6/32

第6話 【魔界のミラ】禍福は糾える鎖?のごとし①〜魔力ジャンプを覚えたので、城内にダイブします

「ほいっ、ほいっ、ほいっ」


ミラ(中身はリーゼ)は、テンポ良くじゃがいものの茎を引っ張り上げる。


それをセギヌスが泥を落とし、綺麗に籠に詰めていく。


初めて組んだにしては、名コンビだった。ただし、ミラは手を使っているが、セギヌスは魔法を使っているのが大きな違いだった。


「――リ(・)ー(・)ゼ(・)さんは、変わってるねえ」


手を休めたセギヌスが感心したように言う。ちなみにリーゼとは、身分を隠すため咄嗟に名乗った偽(・)名(・)である。


(でも、あたしの本名だし、ミラのほうが偽名だし…ああ、もうっ! ややこしい!)


「……何が変わってる?」


内心を押し隠して、問い返した。


「だって、魔法を使わずに身体を使って作業するなんて、まず誰もやらないからね」


「……」


ミラは土まみれの手に視線を落とした。


魔界の人々は、すべからく魔法が使えるようだ。


セギヌスには妻と生まれたばかりの赤子がいるが、その赤子すら魔力がある。魔法の使い方がわからないから使えないだけなのだ。今のミラのように。


「……身体を動かすのが好きなんだ。それに、食事を恵んでもらった。そのお礼も兼ねてるし」


「気にすることはないのに。困ったときはお互いさまだ」


「そういうわけには、いかないよ。恩義はちゃんと返さなきゃ」


(ほんと、良かったぁ〜。悪魔の食べ物は、人間とほとんど同じだったよ〜)


ミラは、にこにこと微笑んだ。


セギヌスは、ぽうっと見惚れる。


ふいに、『アストロ・チャート』が光った。ミラは注視した。白と黄の光だった。


「お! メルガが来るぞ」


ミラに言われて、セギヌスは、手をかざした。


「――あなたぁ〜っ! リーゼさぁ〜ん!」


メルガが赤子を抱えながら近づいてくる。


「ひと休みして、お茶に…って、なんだ。もう休んでるんじゃないの」


「メルガが来るのがわかったから、待っていたんだ」


セギヌスがアストロ・チャートを指し示した。


「いや、マジでこれは便利」


ミラは、片方だけの眼鏡を手に取った。


「魔力を感知して居場所を教えてくれるんだもんな。おかげでセギヌスたちと出会えた」


「……やっぱり、リーゼは変わってるよ。アストロ・チャートが何かを知らなかった、なんて」


セギヌスは、頭を振った。


「高位魔族しか持てない超高級魔導具なんだぞ」


「ミ(・)ラ(・)さまから預かった品なんだ。あたしは奴隷だったから、よく知らなくて」


「魔王さまを呪詛して処刑された大罪人、ミラ・ヴェラティか」


「ミラさまの遺言で、ご領地のボレアリスのご家族に、お返しに行くんだよ」


ボレアリスというのは、夢のお茶会で得た情報の一つである。


「律儀なやつだなぁ。大罪人の遺言なんて、守らなくてもいいだろうに」


「お世話になった方だから。ボレアリスというのは、ここから遠いのか?」


「そうだな……。飛翔速度にもよるけど、2〜3時間てとこか」


「えっ!? 飛翔……?」


「何驚いているんだ? 当然、飛んでいくんだろ?」


「あっ……! も、もちろん。ほら、奴隷の間は空を飛ぶのを禁止されてたから、久し振りだなぁ、と思ってさ」


「そっか。奴隷って大変なんだな。子どもでも許される飛翔魔法を禁止されるなんて」


「ははっ……」


(――我ながら、よくまあ、次から次へとウソが出るもんだ)


内心、悦に入る。外からは、女神のような笑みを浮かべる絶世の美少女である。またしても、セギヌスは頬を赤らめて見惚れた。


「――ちょっと、あなた。こっちへ来なさい。いいから、こっちへ!」


「な、なんだよー!?」


セギヌスは、頬を膨らませたメルガに離れたところへ連れていかれた。


ミラは、無意識に聞き耳を立てた。耳が魔力に包まれる。


「――なによっ! 鼻の下伸ばしちゃって!」


「は、鼻の下なんか、伸ばしてないよ〜」


「嘘おっしゃいっ! いくらリーゼが美人だからって、あからさまに見惚れちゃってさ! わたしのことなんか、全然見てくれないじゃないの!」


ミラには聞こえないと思って、痴話喧嘩が始まってしまった。


確かに、普通なら会話は聞こえない距離だ。


(へぇ。物理強化って、いろいろ応用が利くんだな)


そのとき、天啓が降りた。


(ちょっと待てよ……。もしかして、魔力で脚を強化すれば、遠くへジャンプできるんじゃね?)


場合によっては、走るより速いかもしれない。すぐにでも試したい。


「――おーい! セギヌス、メルガ!」


足(・)取(・)り(・)軽(・)く(・)スキップしながら、ミラは仲良し夫婦に大きく手を振った。


「今から、ボレアリスに出発することにしたよ! 世話になったな!」


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


「――あっという間だったな」


上空からボレアリスの街並みを見下ろしながら、独りごちた。


思ったとおりだった。


魔力で物理強化した一蹴りのジャンプで、ほぼ飛翔しているに等しい距離を飛ぶことができた。凄まじい魔力量である。


「街に城壁はないんだ?」


人間界では当然のように街を囲む城壁が、一切ない。


開けた平野にだだっ広く家々が建ち並んでいるだけだ。


魔族は、子どもでも空を飛べる。壁など建てたところで無意味だからだろう。今も、街の上空を魔族が飛び回っている。


街の北側に、一際高い建物がある。あれがこの街の城に違いない。シェリアックも、そこにいるだろう。


アストロ・チャートには、黒、白、黄といった無数の光がうごめいている。


ミラは、城を目指して降下した。


その途端。


「――きさま、何者だ?」


上空を飛んでいた魔族が見咎めて、誰何してきた。


しかし空中での静止の仕方がわからない。


そのまま通り過ぎた。結果、魔族を無視する形になった。


「待て! なぜ逃げる!? 怪しい奴めっ!」


「違うっ! 止まり方がわからないんだよ!」


ほぼ落下状態となった。ぐんぐん城が迫ってくる。


「――天に座する暗黒の星々よ、罪深き咎人の頭(こうべ)を囚えよ」


魔族は詠唱を始めた。殴りにいきたいが、空中では勝手が違い過ぎて、思うように身体が動かない。


「――逃げ場なき漆黒の檻となりて、その四肢を繋ぎ、動脈を断て。『星籠竜鎖(ステラレグルス)』!」


ミラの周りに星々の魔法陣が出現した。無数の鎖が伸びてがんじがらめに縛り付けた。


「こんなもの、引きちぎってやるっ―」


腕に魔力を練った。拍子に身体のバランスを崩した。


城の屋根から天に伸びた煙突に激突した。


木っ端微塵に破壊しながら突き抜ける。弾みでくるくると回転しながら、屋根に頭を思い切りぶつけた。


気を失ったミラの身体は、鎖に縛り付けられたまま、屋根をも破って城内へと転落していった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。