↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

5/32

第5話 【人間界のリーゼ】王宮への侵入〜筋肉バカなので、派手に突撃します

「――あら!? あらららっ!?」


リーゼ(中身はミラ)は、空中でバランスを崩した。


「あらぁーっ!?」


そのまま壁に激突した。


轟音ともに壁が崩落し、地面に投げ出された。


「……何なの!? この筋肉バカ身体は!?」


尻もちをつきながら、毒づいた。


壁に激突する寸前、咄嗟に魔法障壁を張ったので、身体は無傷だった。しかしそれがなくても、このマッチョなら擦り傷程度で済んだかもしれない。


服の埃を払いながら立ち上がる。


大きな穴が空いた壁を見て、深いため息をついた。


「あ〜あ……。静かに侵入するつもりだったのに、派手になっちゃったわ」


飛翔魔法で墓地から王宮まで飛んできたのだ。だが、魔力出力が上手くコントロールできずに、城壁を乗り越えるつもりが失速してしまった。


「この筋肉が悪いのよ! バカみたいにモリモリしてるから、思った以上に出力が――」


「――今の激しい音は何だ!?」


こちらに近づく複数の足音が耳を刺した。


「……もう、勘づかれてしまったわ」


リーゼは、肩をすくめた。


たちまち兵に囲まれた。王宮の守備兵であろう。


「お前、何者だ? ここで何をしている?」


「正直に言うと思うの?」


リーゼは不敵に笑った。


「……何だとぉ!?」


「でも、私は言ってしまうのよ。だって私、天才剣士のリ(・)ー(・)ゼ(・)・(・)ア(・)メ(・)ル(・)ハ(・)ウ(・)ザ(・)ー(・)ですもの!」


「嘘つけ! リーゼは、先日処刑された。生きているはずがない」


「……いや、こいつは、確かにリーゼだ」


一人の兵が、震える手でリーゼを指差した。


「俺は、断頭台に立つリーゼをこの目で見た。唐紅色の髪、浅葱色の瞳、間違いない!」


「な…に!?」


兵たちの間に動揺が走った。皆、目を見開いてリーゼを見つめる。


「そんな…バカな……。生き返ったとでも言うのか……?」


「ねぇ、あなたたちに聞きたいのだけど」


茫然自失の空気などお構いなしに、堂々と尋ねた。


「王宮庭師のアルノルト・アメルハウザーがどこにいるか知らない? 私の父親らしいんだけど、至急会いたいのよ」


用向きは娘として真っ当な内容ではあったが、尋ね方は尋常ではない。しかし当人はどこ吹く風で……


「私の親友がね、アルノルトに会いなさい、というの。力になってくれるらしいわ。ロ(・)ー(・)レ(・)ン(・)ツ(・)王(・)子(・)へ(・)の(・)復(・)讐(・)の(・)た(・)め(・)、ならね」


「ふ、ふざけるな!」


兵は剣を構えた。


「仮に生き返ったとしても、大罪人に変わりはない! ここで成敗する!」


ほかの兵たちも、一斉に剣を構えた。


「あら、そう。仕方ないわね。大人しく教えてくれるなら、命は助けないこともなかったのに。―それでは、ごきげんよう」


リーゼは、指を軽く弾いた。


大爆風が巻き起こった。


リーゼを囲んでいた兵は、衝撃波をまともに喰らい、骨も残さず消滅した。


爆風は兵だけではなく、城壁や王宮の壁をも破壊した。


突如、未曾有の災害に襲われて、王宮内が騒然とするのが伝わってきた。


「……あら〜。またやり過ぎてしまったわ」


両手を口に当てて、そびえ建つ王宮を仰ぎ見た。


豪奢な建物は、昼日中だというのに暗くうずくまっていた。見かけだけは立派だが、土台は腐り切っている。


「――いっそのこと、今すぐ滅してしまおうかしら」


浅葱色の瞳の奥では、隠し切れない陰火が揺れていた。


「裏切り者の王子もろとも、極大魔法で王宮を消してしまえば、後腐れがないわ」


リーゼは、手を挙げた。しかし、すぐに頭を横に振った。


「……駄目、駄目! そんな程度であの子の恨みは晴れないわ。証拠を揃えて冤罪を晴らし、同じ苦しみを与えてやらなくては意味がない」


ガチャガチャと鎧の擦れる音が遠く伝わってきた。


軍のお出ましかもしれない。


「作戦失敗ね。今日のところは出直しましょう」


リーゼが飛翔魔法で宙に飛び立とうとした、そのとき。


「――おい、リーゼ!」


ふいに名を呼ばれた。


驚いて、声のした方へ振り返った。


フードを深く頭に被った男が、いた。


「俺について来い!」


男に手招きされた。鎧の音が近づく。


直感だった。指示に従った。


男は、無言で走り出した。


その背中を追いかけた。


(――足を使って走るなんて、生まれて初めてだわ)


リーゼは、そんなことを考えながら、広くて大きな背中を見つめていた。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


フードの男は、王宮の敷地の奥深く、庭園内に入ってようやく足を止めた。小さな作業小屋の中である。


「――リーゼ」


男はフードを跳ね除けると、いきなり抱きついてきた。


「生きていたのか!」


「え…ちょ、ちょっと――」


戸惑うリーゼに気づかず、男は更に腕に力を加えた。


「よく無事で…どうやって逃れた? 確かに断頭台で首を切られたのに」


(ど、どうしよう……。これって、絶対あの子の知り合いパターンよね? 場合によっては、アルノルト本人の可能性もあるわ。迷わず庭園に引き込んだし)


とはいえ、娘が父に向かって「あなたは、私のお父さんですか?」とは聞けない。


リーゼの脳内は、フル高速で回転した。


(背格好はがっしりしているわね。年齢は、40前後かしら。顔は…似てるかわからない。大きな傷があるし。髪は鉄紺だけど、瞳は浅葱色だわ。ここは一か八か――!)


「わ、私も会えて嬉しいわ、お父さま」


「えっ…!?」


男は、バネ仕掛けのように身体を離した。


「お、お父さまだと……!?」


男は、まじまじとリーゼの顔を穴の空くほど見つめている。


(まずぅーいっ! アルノルトでは、なかったのかしら!?)


「あ、あの…私…」


焦るリーゼに、男が呆れたように言った。


「――お前、首を切られておかしくなったか? いつも親父(おやじ)と呼び捨てのクセに、お父さまなどと……」


(そっちかぁーいっ!)


ホッとするのと同時に、密かに毒づいた。


(あの子ったら、一言もそんなこと説明してくれなかったじゃない! まったく、これだから下品なのよ、庶民はっ!)


「――ほほっ…ほほほほっ。ごめんなさい、親父。うっかりしていたわ。目覚めてから、ちょっといつもの調子が出ないのよ」


「それに、なんだ、そのしゃべり方は? まるでどこかのお姫さまのようだな」


「……そ、そうなの…じゃ、なかった。そうなんだよ。しゃべり方まで変になっちゃって、私も困ってるんだ」


アルノルトは、納得していないようだ。未だジロジロと娘の顔を見回している。


「――まあ、その…詳しい話は、後だ。今は時が惜しい。きっとローレンツは、『シャテンアドラー』を送り込んでくるぞ。その前にここを脱出しよう」


「シャテンアドラー……」


はてな顔のリーゼに、アルノルトは、また不審の目を向けた。


「おいおい! まさか、それまで忘れたなんて言わないだろな」


「も、もちろん…だよ。忘れるわけないじゃないか」


「だよな。びっくりしたぞ」


アルノルトは、ようやくほっとした表情を見せた。


しかしリーゼは、次のアルノルトの台詞に魂を宙に飛ばした。


「お前が所属していた部隊を忘れるわけないよな。しかも最強チーム『シュナーベル』のトップエースだったんだからな!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。