第31話 【人間界のリーゼ】作戦会議①〜まさかの疑惑が発覚したので、戦力外通告を受けます
月の貴公子は、今日も神々しく光輝いていた。
月白の髪は、月の恩寵を受けてキラキラと煌めき、神秘的な空色の瞳に見つめられたら、魂を奪われてしまいそうだ。
(……なんて素敵……今日も美形ねぇ……)
ぼうっとヴァルデマールの顔を眺めていたリーゼは、ハッと我に返った。
(違うっ! 違うっ! そうじゃないでしょ、私!)
アルノルトに偽物疑惑を追及され、必死におバカのフリで誤魔化していたとき。
ヴァルデマールは、意味ありげにリーゼを見つめていたのだ。
それはまるで、すべて見透かしているような、そんな視線だった。
(……もしかして、リーゼじゃない、ってバレたのかしら?)
ヴァルデマールは、身体は弱いが頭脳は明晰だ。短い付き合いだが、それくらいはわかる。
彼なら、見破っても少しも不思議ではない。
それなのに、彼は何も言わない。ほのめかすことさえしない。
(なぜなのかしら? 証拠がないから? それとも、私の勘違いで、本当はバレてない……?)
「……ーゼ! リーゼっ!」
「えっ……!?」
名前を呼ばれていたことに、ようやく気がついた。
目の前で、エルガが魔獣のような顔で睨みつけている。
「……な、なんだよ、エルガ?」
「なんだよ、じゃないよ。さっきからお前、ヴァルデマールさまの顔ばっかりぼうっと見つめやがって、人の話聞いてねえだろ?」
「えっ…話……?」
慌てて周囲を見回す。
アルノルトやテオドールが、呆れ果てた顔でこちらを見ていた。
「あ……!」
反撃のための重要な作戦会議中だったことを思い出した。
「ええっと……!?」
トドメに、ヴァルデマールの空色の瞳と正面から目が合った。
ふんわりと優しく微笑む超絶イケメンを目の当たりにして、思考回路が完全崩壊した。
「わ、私っ…別にそのっ…ヴァルデマールさまが綺麗だなあ、とか、月の貴公子みたいだなあ、とか、そんなこと少しも思ってなくてだな……」
「ふ〜ん……。そんなこと考えてたんだァ……」
エルガの若竹色の瞳が、物騒にギラッと光った。
(きゃあ〜っ!? 私、何を口走ってるのよーっ!)
これ以上ないというくらい、顔が真っ赤に染まる。
「ち、違う……! 今のは言葉の綾で――」
「図に乗るんじゃねえぞ!」
あたふたと言い訳をしようとすると、エルガが一刀両断に怒鳴りつけた。
「元シュナーベルのトップエースだか知らねえが、ヴァルデマールさまとは私のほうが付き合いが長いんだ! 後からのこのこやって来て、横から手ぇ出すなっ!」
カチン、と、胸の中で何かが弾けた。
付き合いの長さが何だというのだ。
そんなもの、恋に何の関係もない。
「勝手な言い草を――」
「――エルガ。やめなさい」
言い返そうとした、そのとき。ヴァルデマールが優しく静かな声で制した。
「今は、作戦会議中だよ。不規則発言は控えなさい」
「ごめんなさぁ〜い、ヴァルデマールさまぁ〜」
これ見よがしにエルガは、ヴァルデマールの腕にすがりついた。挑戦的な視線は、ずっとリーゼから動かない。
「もう邪魔しませぇ〜ん。私は誰かと違って、大事な会議中に叶わない妄想なんかしませんからぁ〜」
ムカッ!
(この女、腹立つわね……! 叶わない、って、どういう意味よ!?)
「――それじゃあ、アルノルト。もう一度、再確認しようか」
ヴァルデマールは、穏やかに促した。リーゼをひと言も責めず、尚且つ、話を聞いていなかったリーゼのために内容を繰り返すよう配慮してくれたのだ。
(ヴァルデマールさま、お優しいぃ〜)
うっとりとした視線は、エルガの魔獣のような顔で塞がれた。
(……クソ女っ。覚えておきなさいよ)
「――では、まず現状整理からですが――」
アルノルトが咳払いをして切り出した。
「生き返ったリーゼの存在を知ったローレンツ側は、シャテンアドラーの第二攻撃チーム・クラヴェを差し向けてきました」
アルノルトは、一度言葉を切ってから、再び話し始めた。
「それは、我々が完勝という形で撃退しましたが、離宮の放棄という代償を払うことになったのです」
「その代わり、ここ地下施設での『朧月庭』との合流を果たせたわけだから、必ずしもマイナスではないけどね」
ヴァルデマールが、にこにこと言った。
(この人が言うと、なんでこんなに安心するのかしら)
思わずほっこりするが、横にいるエルガの鋭い視線で全部台無しになった。
(クソ女がぁ〜!)
「しかし、クラヴェを壊滅させられて、オスヴァルトが黙っているとは思えません」
テオドールが発言した。
「次は、最強の第一攻撃チーム・シュナーベルを投入してくるのは必定ですよ」
「と、なると、元隊長だったリーゼが抜けた今、シュナーベルを率いるのは……」
「……ヴィンツェンツだね」
ヴァルデマールが告げると、室内にいた全員の視線が、一斉にリーゼに集中した。
「えっ……何なの……?」
(……もしかして、また本物のリーゼなら当然知ってること?)
皆の視線が痛い。発言を求められているのか……? 本物のリーゼなら、当然言及しそうなこと……?
(ま、まずいわ。何か言わなくちゃ……)
「あ、あの……」
言い淀んでいると、テオドールが断固とした口調で言った。
「対シュナーベル戦は、リーゼを外すべきだと思います!」
(どういうこと……? なんで私が戦力外にされるの?)
困惑して目を白黒させていると、テオドールが何やら勘違いしたように苦笑いを浮かべて、驚きの答えを教えてくれた。
「見てください。リーゼは今も、ヴィンツェンツの名前を聞いただけで言葉を失っています。無理もありません。元カレを相手に戦うなんて、やりづらいでしょうから」
(も、も…元カレぇぇぇ〜〜〜っ!?)
あまりの衝撃に、白目を剥きそうになりながら心の中で大絶叫した。
(嘘でしょ、ちょっと待ってよ〜っ! 本物のリーゼは、ローレンツから約束の薔薇のペンダントをもらったのよ! 話が違うわっ! 一途に初恋を捧げてたんじゃなかったの!? まさかの二股!? 二股かけてたのぉぉぉ〜〜〜っ!?)




