第3話 夢のお茶会〜はじめまして! わたしはあなたです
「――ここは、何処かしら?」
ついさっきまで、墓地にいたはずだ。それが今は、白い光に包まれた空間にいる。
ミラは、ふわふわとした床を進んだ。
白い光以外、何もない。
壁もなければ天井もない。
屋内なのか、自然の中なのかもわからない。
――ここは、夢の中なのだ。
根拠もなく、なぜかそう確信した。
「――少し疲れたわね。休むところはないかしら」
小さく呟いた。
すると、ふわりと白い椅子が目の前に現れた。
「あら、まあ……」
ミラは、椅子をジロジロと見回していたが、パチン、と指を鳴らした。
「テーブルも欲しいわ」
白いテーブルが同じように現出した。
「……ふ〜ん。望むものが具現化できるのね」
早速、椅子に座る。
「紅茶を出して」
テーブルの上に、白いティーカップが現れた。湯気が立ち昇っている。甘い香りが鼻腔を刺激した。
「――あら、美味しい」
夢の中でも、味覚は感じるらしい。
ついでにケーキを頼もうか、と思った、そのとき。
唐突に、一人の少女が現れた。視線が合うと、少女は瞠目した。
「あっ!? お前は……!」
ミラの顔をした少女が、息を弾ませて駆け寄ってきた。
「なんで、あたしがここにいる!?」
その瞬間、すべてを理解した。
「あなたね? クロスロードですれ違ったのは!」
「クロスロード……?」
勢い込んできた少女は、はてな顔をした。
「白い光のトンネルを通ったでしょ? そこで何かとすれ違わなかった?」
「ああ……! あのときの……」
少女は納得したように頷いた。
「じゃあ、あれは、あんただったのか」
「立ち話も何だから、座りなさいよ」
椅子を現出すると、少女は慄然として後ろに飛び跳ねた。
「なんだっ!? この怪しげな術は!?」
「そんなに驚かなくても……!」
ミラは、お腹を抱えて笑い転げた。
「……ここは、夢空間よ。望むものは、何でも出せるのよ」
「そ、そうなのか……」
それでも少女は、恐る恐る椅子に座った。
その様子を温かく見守りながら、話しかけた。
「――自己紹介するわね。私は、ミラ。ミラ・ヴェラティよ」
「あたしは、リーゼ・アメルハウザーという」
「リーゼ、ね。このゴツい身体の持ち主にしては、可愛い名前だわ」
「言ってろ。……ということは、ミラがこの身体の持ち主なんだな?」
「どうやら私たち、魂が入れ替わったらしいわ」
「俄には信じられないけど…そう思うしかなさそうだな」
「クロスロードで魂が触れ合ったとき、たぶん一部がリンクしたんだわ」
「リンク…?」
「この夢の中よ。リンクのおかげで、こうして会えるようになったのよ」
「ふ〜ん……。この不可思議な状況は、ミラの方が詳しそうだな」
「多少はね。これでも魔界では、天才少女と呼ばれていたのよ」
「……魔界だと?」
「あなたが、今いる世界のことよ。私がいるのは、人間界なんでしょ? いわゆる異世界転生、というやつね」
「……すると、お前は例の悪魔の仲間か?」
「例の……? それじゃあ、リーゼも、魔界で人と接触したのね」
「ああ。変な研究所で目覚めたら、角を生やした悪魔が襲ってきたから、グーパンチで伸してやった」
「えっ!? パンチで伸したですって!?」
思わず頭を抱えた。
「野蛮な……! 私の可憐な身体で、なんてことしてくれるのよっ!」
「知るか! そもそも何だよ、この貧弱な身体はっ! 不思議な力がなかったら、あたしは悪魔に殺されてたんだぞ!」
「それ、魔力よ! あなた、魔力が使えるのね?」
「魔力だぁ? 知らないよ。腕がヒョロヒョロだから、力を込めて念じただけだ」
「そうか! なるほど。魔法のやり方がわからないから、魔力を物理的な強化に全フリしたのね」
「……難しいことは、よくわからない。とにかく、この身体は弱過ぎる。鍛え直すからな」
「ちょっと! やめてよね。私の身体、綺麗なままで返してもらうつもりなんだから!」
「えっ!? 元に戻れるのか?」
リーゼは、紫水晶のような瞳をキラキラと輝かせた。
自分の顔と会話をするのは、何とも不思議な気分だ。
そう! まるで鏡に向かって話しているような……
「……いえ、残念ながら、私にも方法はわからないの」
「なんだ……」
リーゼは、肩を落とした。
「……でも、きっと方法はあるはずよ」
ミラは、励ますように言った。それは、自分自身に向けた言葉でもあった。
「方法を探しましょうよ。二人で力を合わせれば、何とかなるわ。それに――」
浅葱色の瞳がくるめいた。
「あなたが死んだのは、訳アリなんでしょ? 私にはわかる。だって、クロスロードで感じた怒りや絶望は、私と同じだもの」
「あっ! それ、あたしも感じた。不思議な共感だった」
「……私ね、信じていた王太子に裏切られたの。身に覚えのない冤罪で、処刑されたのよ」
「あたしもだ。断頭台に立っても、王子は助けてくれなかった。いくら恋敵の公爵令嬢だからって、暗殺しようなんて、これっぽっちも思ったことないのに」
「私たち、似たもの同士だと思わない?」
「うん。すごく思う」
「共闘しようよ」
「共闘…?」
「私たちを陥れた愚か者たちに、極上の絶望をプレゼントしてやるのよ!」
「同意! もとより、そのつもりだった」
「気が合うわね」
ミラは、手を差し出した。リーゼも応えてガッチリと握手した。
「それじゃ、同盟成立ね。――せっかくだから、同盟に名前をつけましょうよ」
「名前か…だったら、『双界の黒薔薇同盟』、というのは、どうだ?」
「『双界の黒薔薇同盟』……。いいわね! 気に入ったわ。それにしましょう」
ミラは、優雅にティーカップを掲げてみせた。
「私たち『双界の黒薔薇同盟』に、乾杯!」




