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第26話 【人間界のリーゼ】秘密基地発見〜知ったかぶりをしたので、即バレして大ピンチです

「えっ……!? ここが隠れ家なの?」


リーゼは呆然と見上げた。アルノルトが応える。


「そうだが、何か問題でもあるか?」


「問題大アリでしょうが! 王宮じゃないの!」


つい最近、歩く魔法砲台に立て続けに襲われて、修繕の槌音が風に乗って聞こえてくる。


「これのどこが隠れ家なの!」


「何を興奮しているんだ? 我々にとって格好の隠れ家があるではないか」


アルノルトは、はてな顔である。


そこでハッとした。


もしや隠れ家とは、庭園の物置小屋ではないか?


しかし悪役令嬢を懲らしめにきた際、庭園ごと破壊してしまった。


「……あ、あの、親父。実は、庭園なんだけど……」


「そんなものは後だ。ヴァルデマールさまを早くお連れしたい」


「そ、そうね……」


ヴァルデマールは、エルガに付き添われて同じように王宮を見上げている。


毒殺未遂事件以来、アルノルトの手引きで離宮に引きこもっていたヴァルデマールである。


久しぶりに王宮に戻って、さぞ感慨深いのだろう。


と、秀麗な顔を見守っていると。


「さあ、それでは案内してもらおうか、リーゼ。とっておきの場所とやらを」


屈託のない笑顔を浮かべて、とんでもないことを言い出した。


(案内!? とっておきの場所!? 知らないわよっ! 私はリ(・)ー(・)ゼ(・)じ(・)ゃ(・)な(・)い(・)ん(・)だ(・)か(・)ら(・)!)


アルノルト曰く、リーゼなら知っていて当然の隠れ家があるらしい。


心当たりは、既にリーゼ自身が破壊してしまった。


「あ、あの…実は、庭園の物置小屋は、私が破壊してしまって……」


「物置小屋? 何を突然言い出すんだ?」


アルノルトのはてな顔がますます深まった。


「隠れ家とは何の関係もないだろう?」


(ええーっ!? そうなの!?)


心当たりが無残にも消し飛んでしまった。どうしよう。まったくわからない。


もしや今、人間界に転生して最大のピンチなのではないか?


三人の視線が集中する。ゴクリ、と喉が鳴った。


「――あ、あの……」


絶体絶命!


そのとき、神が舞い降りた。


「……ヴァルデマールさま、申し訳ありません。娘がとんちんかんなことを申し上げました」


頭を下げたアルノルトが、先頭に立つ。


「娘はあてになりません。俺が案内いたします」


(きゃあ〜っ! 助かったぁ〜。ありがとう、アルノルト。見た目と違って良い人だったのねっ!)


生きた心地がしなかったが、どうにか危機を脱したらしい。


「何をぼうっとしている。置いていくぞ」


エルガに言われて、いそいそと後に続いた。


どうやら庭園とは違う方角から敷地内に入ったらしい。惨状を目にすることなく、アルノルトは、すたすたと前を進む。


やがて藪だらけの場所へ出た。


放置されているらしく、荒れ果てている。


アルノルトは迷わずその藪へ分け入った。


何やら人が通った跡がある。すると、朽ちた小屋が現れた。


半分壊れた木製の扉を開ける。床に鉄製の丸い蓋が置かれていた。


アルノルトは、重そうな蓋を軽々とどけた。


ぽっかりと開いた穴に、階段があった。地下へと伸びているらしい。


アルノルトがその階段を降り始めた。


誰も一言も発しない。ヴァルデマール、エルガ、リーゼと続く。


階段を降りると、廊下が奥へと伸びていた。明らかに人工物である。


その先に、大きな鉄製のドアが立ち塞がっていた。


アルノルトが鍵を取り出しドアを開く。


たちまち喧騒に包まれた。


執務室らしく、広い部屋に何人もが働いていた。


「――お帰りなさい、隊長」


一人の中年男性が挨拶した。


「すまんな、テオドール。お前に全部任せてしまって」


「なあに、いつものことですから、お気になさらずに。それより、こちらの方はヴァルデマール殿下では?」


「そうだ。ようやくお連れすることができた」


「おいっ! みんな! 殿下がお越しになられたぞ!」


人々は手を休めて一斉に跪いた。


「殿下。お待ち申し上げておりました」


テオドールが代表して挨拶を述べた。


「これよりは『朧月庭』の忠誠のすべてをお捧げいたします」


(『朧月庭』……? 何かしら…部隊名……?)


「ありがとう。頼りにしている」


「ははっ!」


「そりにしても驚いたな。アルノルトから話は聞いていたけど、こんな立派な施設が王宮の地下にあったなんて」


「――ね、ねえ、親父。この施設が何なのか、ヴァルデマールさまのために説明して差し上げたら? 私は知ってるけど」


本当は、自分が一番知りたくて、うずうずしていたのだ。


「ん? 事前にお話しはしているが……」


「アルノルト。頼む。改めて聞いておきたい」


「ほら、ヴァルデマールさまも、こう仰ってるし。私はいいのよ、知ってるから」


「ここを見つけたお前が言うのだ。では、おさらいということでお話ししよう」


(リーゼが見つけた、ですって!?)


内心驚きを隠せないリーゼをおいて、アルノルトが語り始めた。


元は打ち捨てられた裏庭だったらしい。


リーゼが興味本位で侵入すると、巨大な岩がぽつんと置かれていたのだという。


剣の格好の修練になるといって、大岩を斬りつけていると、バックリと割れてしまった。


大岩の下には、人が入れるほどの穴が空いており、階段までついていた。


いかにも怪しげであるが、だからこそリーゼが降りないわけがない。


今辿ったとおりのルートを経て、この施設を発見したのだ。


「――おそらくは、古代遺跡なのでしょう。王宮の敷地内になぜ存在しているのか皆目見当もつきません。しかし、初めてリーゼから話を聞いたとき、ヴァルデマールさまの秘密基地にするにはもってこいと閃いた次第でして」


(秘密基地…って、いい年したオヤジが、子どもの発想じゃないの)


(それに、怪しげな穴に恐れ気もなく飛び込む、って、いかにもあの子らしくて、ウケるわ〜)


リーゼは密かに呆れたりほくそ笑んだりした。


「そして長い時間をかけて整備し、ここまで立派な施設に造り替えた、というわけだね」


「まさか王宮も、敷地内に我々の拠点があるとは考えつきもしないでしょう」


「灯台下暗しとは、このことだね」


「とてもいいわ!」


リーゼは、ぽんっ、と、手を叩いた。


「『朧月庭』の皆さまの働きぶりには、いつも感心していたのです。今後、王宮への侵入も楽になるし、心強いわ」


「……おい、リーゼ。さっきからおかしいぞ」


「えっ……!?」


アルノルトが不審の目を向けてきた。


「『朧月庭』のことは、お前に教えていない。なぜ知っているかのように振る舞う? 遺跡を改修したことも反王宮組織のことも知らないはずだろう。お前は、ここを見つけただけだ。さっきは見つけたこと自体忘れているようだったし」


その場にいた者すべてから、白い視線を受けた。


(ええーっ!? まずいわっ。疑われてる!?)


「……お前は、いったい誰なんだ?」


「……!」


危機はまだ、去ってはいなかった。

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