第25話 【魔界のミラ】命をかけた駆け引き〜正体がバレたので、パトロンになってもらいます
「――お前は誰だ? 返答次第では――この場で命を貰う!」
(ほえぇ〜。速攻でバレたっ! どうしよう……)
金色の瞳が真っ直ぐ射抜いてくる。下手な嘘をつけばすぐ見抜かれて、本当に殺されかねない。
(……ここで魔王の右腕とかいう大物と闘ってみるのも面白そうだけど――)
この男と闘うには、鉄棒ではなく、剣がほしい。ただの鉄くずでは、おそらく肉は斬れても骨までは無理だ。
よくて相討ち、下手をしたら、敗北する。
だからと言って、真実を話して信じてもらえる保証もない。妄想と断じられて、結局殺されるかもしれない。
(――しゃあない。どのみち考えるのは不得手だし、ここは本能の赴くままに……)
「――バレたのは、二人目ですわ」
「お嬢さま!?」
シェリアックが目を剥いた。ミラは構わなかった。
「一人目は、ここにいるシェリアックですが」
「ミラの偽物である、と、認めるのだな」
「正確には少々違いますが…そうです。あたしはミラではありません」
「では、何者だ? ミラになりすまし、何を企んでいる?」
「何もかも、正直に申し上げます」
ミラは、これまでの経緯を包み隠さず話した。
アルファルドは、身動ぎもせず、じっと耳を傾けていた。
シェリアックは、身を固くしているし、ナシラに至っては、敬愛する主が別人だったと知ってショックを受けて泣き出した。
「ごめんね、ナシラ。結果的に騙してしまって」
「よよよ……」
ナシラは、言葉にならない。シェリアックにすがりついて、顔を胸に埋めてしまった。
申し訳なさで、胸が塞がれた。
(本当にごめんね……)
「――お前は人間族で、ミラは人間界に転生したと言うのか」
アルファルドは、ギロッとミラを睨んだ。
「戯言であろう! 私を謀るつもりか、許さんぞ!」
「閣下!?」
顔色を変えたのは、シェリアックだった。ミラは、無表情のままだ。
「戯言ではありません。ミラさまは、誠、転生者で――」
「――と、言ったら、どうする?」
「は……?」
気色ばんでいたシェリアックの『眼』が点になった。
金色の瞳が、悪戯を企むようにキラキラと輝いていた。
「お戯れになっていらっしゃるのは、閣下のほうですわ」
ミラは、静かに金色の瞳を見つめ返した。
「ははっ。ミラは、お見通しのようだ」
「えっ…えっ!?」
シェリアック一人、わけもわからず二人を見比べている。
「面白い! 魔族と人間族が入れ替わったとは!」
アルファルドは、膝をぽんっと叩いた。
「やはりミラ・ヴェラティだ。異世界の入れ替わりなど古の大魔導の領域だが、なるほど。今の『お前』を見れば合点がいく。それならあの不思議な魔力の動きも納得だ」
「信じてくださって感謝いたします、閣下」
一人悦に入るアルファルドに、ミラは丁寧に頭を下げた。
「もしご納得いただけなかったら、命は無いものと覚悟しておりました」
「嘘をつけ。その鉄くずで私と一戦交えるつもりだったくせに」
(うわっ。それもバレてたか。なんだ、こいつ? なんで何もかもわかるんだ?)
「それで、リーゼといったか、ミラと『双界の黒薔薇同盟』なるものを結び、陥れた者共に復讐するため証拠を集めている、と、こういうのだな」
「仰るとおりですわ」
「相手は、あのハダルか。状況から大公が裏で糸を引いているのは明白であると……?」
「そのように存じます。実際、『死星の四重奏』というメンカルの手下連中に襲われておりますし」
「手を貸してやろうか?」
「えっ!?」
またしても驚愕したのは、シェリアックだけだった。
(どういうつもりだ? 大貴族の気まぐれか?)
ミラは、真意を探るように、アルファルドの整った顔を見つめた。
イケメンとすらいえる非常に秀麗な顔をしていた。魔族にイケメンと評していいものかわからないが。
(そういや弟は、メンカルに含むところがあるような物言いをしていたな)
アルファルドとメンカルは、仲が悪いのか?
であれば、協力を仰ぐことは可能かもしれない。
「――冤罪であると信じてくださったと、受け止めてよろしいでしょうか?」
「そう取ってくれて構わない。というか、初めからおかしいと思っていたのだ」
アルファルドは、脚を組み変えた。仕草の一つひとつが非常にさまになる男だ。相変わらず金色の瞳はキラキラ輝いている。
「ミラが魔王さまを呪詛する理由がない。ハダルが告白者だというのも気に入らなかった。傍目にはミラと仲が良かっただけに、奴の心変わりが解せぬ。背後に大公がいるとなれば、二人は手を組んだのだろうが……」
「それを証明したいのです。証拠を揃え、二人の陰謀でミラは処刑されたのだ、と」
「非常に興味深い。――ミラ。我が城にしばらく留まれ。望むものがあればなんでも言うがいい」
「……ミラ、と、お呼びくださるのですか?」
「魔界では、お前はミラだ。それで押し通せ」
「ありがとうございます」
(嬉しい……!)
認められたような気がした。
ふうぅ、と、大きく息を吐いた。知らない間に肩に力が入っていたらしい。
「お前たちに部屋を与えよう」
それを面白そうに見やりながら、アルファルドが言った。
「好きに使え。細々としたことは、ミンキルに尋ねよ」
「ご配慮、痛み入ります」
「今宵は、歓迎の宴を催すゆえ、そのつもりでいろ」
そう言うと、アルファルドはマントを翻して部屋を出て行った。
「――ふう……。一時はどうなるかと肝を冷やしましたよ」
シェリアックがふにゃふにゃになった。
「意外と話がわかる人で良かったわ」
ミラも、ため息を一つついた。そのとき。
「――あのう……」
シェリアックにしがみついていたナシラが、悲壮感を漂わせてミラを見つめた。
「……ナシラは、お暇をいただきたく、お願い申し上げます!」
「ええぇぇーっ!?」
ミラは思わず悲鳴を上げた。
「嫌よ! ナシラのスープが食べられなくなるなんて耐えられないわ!」




