第24話 【魔界のミラ】魔導卿の城〜敵か味方かわからないので、身構えます
「――ほえぇ〜。これは、なんというか……」
ミラは、ぽかんと口を開けて見上げた。
「……王宮よね!?」
「王宮ではありません」
シェリアックが、主を注意した。声を低めたつもりのようだったが、周りに丸聞こえだった。
「魔導卿たるアルファルド閣下の居城です!」
「王宮は、まずいな」
アルファルドは、金色の瞳をくしゃっと崩した。
「魔王さまへの不遜である。悪くすれば、王気取りかと、謀反の疑いさえかけられよう」
「も、申し訳ありません」
慌ててミラは頭を下げた。
「決して閣下を陥れようとしたわけではなくて――」
「わかっている」
金色の瞳を崩したまま、アルファルドは、吊り橋を渡った。
ミラが王宮と見紛うほど、アルファルドの城は、威容を誇っていた。
尖塔が幾つも建ち並び、中でも中央にそびえる塔は天高く延びている。
裾野が広く、全体的に上にいくほど細い。シルエットは山に近いかもしれない。勇壮さは見る者を圧倒する。
主の性格を反映しているのか、豪壮であるが決して華美ではない。いうなれば、質実剛健という言葉が相応しい。
(はっきり言って、人間界の王宮は、この城に比べたら鶏小屋だね)
ローレンツが聞いたら目を剥いて卒倒しそうな感想を、密かに抱いた。
実際のところ、この城が魔王に対して不遜にならないのであれば、いったい魔王宮はどれほどの威容なのだろう。
「……どうした、ミラ。何をぼうっとしている。早く来い」
「は、はい!」
アルファルドに促されて、急いで後を追った。
ミラの背丈の三倍はありそうな外門をくぐり抜けると、広大な前庭が広がった。
(いったい、いつになったら建物の中へ入れるんだよ)
呆れ返っていると、アルファルドが無造作に石畳の上へ乗った。
石畳は少しだけ宙に浮いて、アルファルドを運んでいく。
「ほえぇ〜! 何これっ!? 見たことないわ!」
「お嬢さま! 大きな声を出さないでください、恥ずかしい」
シェリアックが叱責する。
「ただの舞空石です。田舎のお上りさんではあるまいし。ヴェラティ家は身分が低いとはいえ、れっきとした貴族ですよ。もっと堂々としていてください」
「ごめんなさ〜い」
(こっちは、庭師の娘なんだよ。舞…何とかなんて、知らねえっつうの!)
表面は恐れ入るも、内心では舌を出した。
慣れているのかシェリアックやナシラまでもが、石畳に乗って城の建物へと運ばれていく。
ミラは、恐る恐る石の上に乗った。
身体が浮く感覚を覚えた途端、すぅっと前に移動した。
「わあっ! 動いた! 面白〜い!」
はしゃぐと、シェリアックが遠くからジロッと睨んできた。
苦笑いを浮かべて大人しく身を任せる。
石畳は、城の正門前で止まった。
地上へ降りると、ひゅんっ、と猛スピードで元の位置へと戻っていった。
待ち構えていたかのように、立派な扉が開いた。
「――お帰りなさいませ」
一人の若者が腰を折って挨拶した。
「思わぬ拾い物をしたよ」
アルファルドは、ミラを振り返った。
「かの有名なミラ・ヴェラティだ」
「ミラ・ヴェラティ?」
若者は、一瞬、瞠目した。しかしすぐに表情を消した。
「……ミラが生きているはずもありませんが?」
「しかしこの娘は、ミラだと言い張っている。面白いと思わないか?」
「……また悪い癖をお出しになりましたね」
若者は、ほうっ、と深いため息をついた。
「もし本物であれば、魔王さまを呪詛した大罪人。下手に関わってはあらぬ疑いをかけられます」
「大公にか? あんなやつ、放っておけばよい」
「そうは仰いますが、大公につけ入る隙を与えては――」
ふいに若者は、口を結んだ。じっと聞き耳を立てているミラに気づいたからだ。
「――ともかく、連れてきてしまったものは仕方がありません。賓客としておもてなしいたします」
「すまんな、苦労をかける」
アルファルドは、そう言うと、すたすたと歩き出した。
「……あ、あの、閣下」
背中を追いかけながら、ミラは尋ねた。
「今の方は……?」
「我が弟、ミンキルだ。頭は固いが、優秀な男だよ」
「弟さま……」
(あいつ、最後までガンを飛ばしてきやがって……)
口ではもてなすと言っていたが、歓迎していないのは明らかだった。
とにかく今は、アルファルドに従うしかない。本当に賓客扱いされるのか、それとも拘束されただけなのか、まったく読めないのだから。
アルファルドに導かれて、広い部屋へと足を踏み入れた。
客間なのだろう、大きなテーブルやソファが据えられていた。
調度品はどれも高級品だと一目でわかる。豪華なシャンデリアが天井からぶら下がっている。それでいて、派手派手しくはない。部屋全体の洗練された雰囲気は、ほっと心が落ち着く。
ミラは、一発で気に入った。
アルファルドに促されて、三人はテーブル席に座った。
自席に腰を落ち着けたアルファルドは、開口一番、ミラに尋ねてきた。
「ミラ・ヴェラティ。お前は、本当は何者だ?」
「えっ……!?」
金色の瞳は、真っ直ぐミラを射抜いていた。
威厳に満ちたその視線は、美しく澄んで、そして強烈な引力でミラを捉えて離さなかった。
「姿形で私を誤魔化せると思うな。カペラを倒したときのあの魔力の使い方、ミラならば決してしない。再度尋ねる。覚悟して答えよ。お前は誰だ? 返答次第では――この場で命を貰う!」




