第11話 夢のお茶会〜仲良し報告会を開催します
リーゼ(見た目ミラ)は、白い空間を歩いていた。
以前にも訪れたことがある。
そこには、リーゼの顔をした少女がテーブルで優雅にお茶を楽しんでいた。
「――来たわね、リーゼ」
彼女は、唐突に現れた。前回とまったく同じだった。
彼女に手招きされて、同じテーブルを囲んだ。目の前に紅茶が現出した。
「……夢の中のお茶会か、ミラ?」
「そうよ。せっかく二人で会える場所ですもの。ティーパーティーくらい楽しみたいわ」
「シェリアックに会えたぞ」
「あら!? それは良かったわ。どう? 協力してくれるって?」
「一発殴ったら、納得してくれた」
「えっ!? 殴ったですって!? なんてことを……! 本当にあなたって、ゴリラね!」
「おい! 言うに事欠いて、ゴリラはないだろ!?」
「脳筋のあなたでは、ゴリラに失礼なくらいよ!」
「うるせえ! 脳筋脳筋言うな!」
一瞬睨み合った。しかし、ふいにミラが笑い出した。
「……ふふっ! ふふふっ……!」
「――なんだよ?」
「ふふふっ! ――ごめんなさい。あのシェリアックが…殴られて…ふふっ! 想像したら、可笑しくなってしまった。私も見たかったわ」
「よくわかんねえけど…あいつ、うるせえんだよ」
「えっ…どういうこと?」
「喋れば口の利き方がなってないだの、メシを食ったら食器の音を立てるなだの、口うるさいったらありゃしねえ!」
今度こそ、ミラはお腹を抱えて笑い転げた。そうやって無邪気に笑う自分自身を目の前で眺めるのは、実に不思議な気分だった。
「――ああ! 可っ笑しい! 笑い死にしそうだわ」
「一回、死んだろが」
「そうね。――冤罪でね」
ようやくミラは、笑いを収めて言った。
「その復讐のためには、シェリアックは欠かせないわ。上手く付き合いなさいな」
「まあな。確かに頭は切れる。あたしは考え事が苦手だから、助かるよ」
リーゼは、研究所でドラコに襲われてからの経緯を、かいつまんで報告した。
「――なるほど。魔導具か。一理あるわ。ハダルから告発されたとき、魔導具から私の残留魔力が検出されたから、すっかり私のものだと思い込んでしまったけど、偽物の可能性だってあるのね」
「次は、王宮に忍び込もうと思う。魔導具を探しに」
「だったら、ハダルの私室を探りなさい」
「私室…?」
「ハダルは、真に大事なものは身近な所に置いておく性分なの。重要証拠は必ずそこにあるはずよ」
リーゼは、ニタァ、と笑った。
「……ふ〜ん。さすがは元カノ、好きな男の生態はよくご存じで」
「べ、別に元カノじゃ、ないわ。付き合ってたわけじゃないし」
「そういうことにしておいてやるよ」
「ちょっと! 信じてないわね。私は、彼の裏切りで処刑されたのよ。未練なんか、これっぽちもないんだから!」
「あたしは、何も言ってないぞ」
「……!」
いきなり、夜の森での映像がフラッシュバックした。
子どものころの遠くて…せつない記憶。
『魔力が…暴走して…抑えられない!』
『ミラっ! 私に委ねろ! 心を開放するんだ!』
『ああ! ハダルさま! 消える…私の身体が…魔力に呑み込まれて…』
『最後まで諦めるなっ! お前は、高位魔族をも凌駕する天才魔法使いだろう!』
『ハダル…さまーっ!』
「――ラ!? ミラっ!」
ハッとして、意識が戻った。
ミラの顔をしたリーゼが、不思議そうに見つめている。
「どうした? 急にぼうっとして」
ミラは、真赤になってリーゼを睨んだ。
「余計なお世話よ。あなたには関係ないわ」
「……」
リーゼは、肩をすくめた。
「そんなことより、そっちはどうなんだ? 親父には会えたんだろ?」
「そんなこと、って……。無邪気そうな顔して憎らしい。自分の顔だから、余計腹立つわ。魔法で消し飛ばしてやろうかしら」
「ぶつぶつ言うな。ほれ、報告しろ」
「……会えたわよ。偶然、王宮でね」
ミラも、ヴァルデマールと出会うまでを要領よく伝えた。
「親父が元近衛騎士団長? マジか……」
新事実に、リーゼは呆然とした。
「覚えてないの?」
「言われてみれば、小さかったころ、宿舎みたいなところに住んでたような気がする。親父の仕事までは覚えちゃいないけど」
「あなたのお父さまも、冤罪をかけられて殺されかけたらしいわ。あなたを連れて逃げたと仰っていた」
「う〜ん……。よく覚えてないなあ」
「脳筋だから、記憶力がないんでしょうよ」
「……なんか言ったか?」
「いえ、何も」
リーゼは、ジロリと横目で睨んだ。ミラは、澄まし顔で紅茶の香りを楽しんでいる。
「――道理で、剣の達人なわけだ」
賢明にも、リーゼは何も言及せず話を戻した。
「あたしの剣術は、親父にすべて教わったんだよ」
「あなたも言外に、剣の達人と言っているようなものね。ね? シュナーベルのトップエースさん?」
「悪いかよ。単なる事実だ」
「悪いなんて言ってないわ。むしろ頼もしい。私の相棒なんだから、そのくらいでなくちゃね」
「相棒……」
リーゼは、こそばゆそうな表情を浮かべた。
「なによ? 違うとでも言うの?」
「……なんか、すごく嬉しい。相棒と言ってくれて」
「な、なんなの、あなた。急に素直にならないでよ、気持ち悪い」
リーゼは、にこっと微笑んだ。あまりの愛らしさに、ミラは違う意味で頬を赤らめた。
「――で、そっちはこれから、どうするんだ?」
はにかみながら、リーゼが尋ねた。
「……そ、そうね」
なぜかどぎまぎしながら、ミラは答えた。
「まずは――公爵令嬢、アストリットを締め上げてあげるわ!」




