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IGNITION  作者: ムネディ


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67/69

Chapter 61 最初のチェッカー

51周目、信治は14位のデュランを追っていた。

 

22号車のソフトは、まだ十分なグリップを残している。対するデュランは低速コーナーの出口で加速が鈍り始めていた。

 

〈信治、デュランは立ち上がりで苦しんでいる。タイヤを滑らせず、出口を合わせよう〉

 

〈了解。次の直線で行く〉

 

信治は最終コーナーへの進入でわずかに距離を置き、前車の乱れた空気を避けながら出口へ向けてアクセルを開いた。

 

HELIOS V10が厚みのある音を高回転へ伸ばし、ヴァァァァァァーーンという澄んだ響きをウォールの間へ走らせる。22号車はデュランより速く立ち上がり、直線で外側へ並んだ。

 

デュランもブレーキングで抵抗する。

 

信治は内側へ寄せすぎず、相手の走行線を残したまま減速した。2台が並んでコーナーへ入り、次の切り返しで内側となった22号車が前へ出る。

 

デュランを抜き、信治は15位から14位へ上がった。デュランは15位へ下がる。

 

「中村さん、デュランを抜いて14位! 予選順位から5つ上げました!」

 

「最初のコーナーだけで決めようとせず、次の切り返しまで考えて走行線を残した。序盤とは違うオーバーテイクだったわね」

 

〈信治、現在14位。追い越し完了だ〉

 

〈了解。前は?〉

 

〈デュボワ。ただし、まず今のペースを守ろう〉

 

〈分かった。最後まで追う〉

 

 

*

 

 

12位の藤原は、前方のベルティーニへ近づいていた。

 

MR-01は最高速でFalcon Motorsportのマシンに及ばない。同じHELIOS V10を搭載していても、高速域へ入ればワークスのFalconに伸びがあり、直線だけで追い越せる差ではなかった。

 

それでも、スーパーソフトを履く7号車はコーナーへの進入と立ち上がりで距離を縮められる。

 

〈蒼真、前はベルティーニ。直線だけで並ぶのは難しい〉

 

〈分かっている。低速区間で崩す〉

 

52周目、藤原はベルティーニの背後へ入った。

 

最初の低速コーナーでは仕掛けない。ベルティーニが内側を警戒して浅い角度で進入すると、その出口で7号車との距離が縮まった。

 

次のコーナーでも藤原はブレーキングを遅らせることに固執せず、立ち上がりを優先する。

 

「藤原さん、ずっと後ろにいます。でも、なかなか横へ出ません!」

 

「抜く場所へ向けて、ベルティーニの走行線を少しずつ狭くしている。すぐに飛び込まないことで、相手に内側を守らせ続けているのよ」

 

「守らせるだけでも、相手のタイヤを使わせられるんですね」

 

「ええ。ただし、藤原のスーパーソフトにも時間の余裕はない。仕掛けるなら、そろそろね」

 

53周目、ベルティーニは低速区間で再び内側を守った。

 

藤原はその動きを見て外側からコーナーへ入り、7号車の速度を残したまま向きを変える。出口でベルティーニの横へ並ぶと、次のブレーキングでは藤原が内側だった。

 

ベルティーニを抜き、藤原は12位から11位へ上がった。ベルティーニは12位へ下がる。

 

〈蒼真、現在11位。前はグラントだ〉

 

〈見えている〉

 

〈残り5周〉

 

〈十分だ〉

 

 

*

 

 

先頭では、クロフォードがハートの追撃を受けていた。

 

ハートは周回を重ねても離れず、ブレーキング区間でApex GPのマシンへ近づく。鋭い高音を刻むAEGIS V8に対し、クロフォードのORION V12はグォオオオオオォーーンという重厚な咆哮を残しながら高速域でわずかに距離を戻し、首位を譲らない。

 

その後方ではウェーバーが3位を守り、ヴァレンティ、高城、シェードが得点圏を走っていた。

 

「先頭も最後まで終わっていません! ハートがクロフォードを追っています!」

 

「Titanはブレーキングで強い。でも、クロフォードは追いつかれても出口で加速できる走行線を外していない。ハートに決定的な機会を与えていないわね」

 

「そしてMUNE RACINGでは、藤原さんが10位のグラントを追っています!」

 

「こちらも重要な争いね。得点圏は6位までだから、10位になってもポイントはない。それでも新規参戦チームにとって、トップ10で最初のレースを終える意味は小さくないわ」

 

54周目、藤原はグラントの背後へ入った。

 

だが、Horizon GPのマシンはベルティーニほど立ち上がりで苦しんでいない。藤原が低速区間で距離を縮めても、高速区間へ入ると再びわずかに離される。

 

〈蒼真、エンジンモードは現在の設定を維持できる〉

 

〈タイヤもまだ使える〉

 

〈了解。残り4周だ〉

 

藤原はグラントの挙動を見ながら、仕掛ける場所を探した。

 

55周目は動かない。

 

56周目、グラントが高速区間の出口でわずかに姿勢を乱す。藤原はすぐに距離を詰めたものの、直線で横へ並ぶところまでは届かなかった。

 

残り2周。

 

「近い! でも、まだグラントが10位を守っています!」

 

「藤原も無理に飛び込まない。接触すれば、ここまで積み上げた56周を失うことになる。それでも諦めず、次の立ち上がりへ向けて距離を作っているわね」

 

 

*

 

 

57周目、藤原は低速コーナーへの進入で、グラントの内側へ7号車を向けた。

 

グラントが反応し、走行線を内側へ寄せる。

 

藤原はそこで競らず、外側へ戻った。内側を守ったグラントは出口で加速が遅れ、藤原は速度を残したまま立ち上がると、次のコーナーへ向けて並んだ。

 

2台が並んだままブレーキングへ入る。

 

グラントは外側から粘ったが、次の切り返しでは藤原が前だった。

 

グラントを抜き、藤原は11位から10位へ上がった。グラントは11位へ下がる。

 

「藤原さん、10位! 残り2周でトップ10へ入りました!」

 

「一つ目のコーナーで抜こうとせず、グラントに内側を守らせて出口を取った。藤原らしい組み立てだったわね」

 

〈蒼真、現在10位。残り1周だ〉

 

〈了解。最後まで持って帰る〉

 

信治も14位を守り、ファイナルラップへ入った。

 

〈信治、ファイナルラップ。後ろのデュランには抜かせない〉

 

〈了解。最後まで集中する〉

 

 

*

 

 

58周目。

 

最初にコントロールラインへ戻ってきたのは、クロフォードだった。

 

「アレクサンダー・クロフォード、Season 1開幕戦オーストラリアGPを制しました!」

 

続いてハートが2位、ウェーバーが3位でチェッカーを受ける。

 

4位ヴァレンティ、5位高城、6位シェードまでが開幕戦のポイントを獲得し、その後も各車が次々とフィニッシュラインを通過していった。

 

藤原の7号車が、10位でチェッカーを受けた。

 

〈蒼真、チェッカー。10位だ〉

 

〈了解。みんな、ありがとう。よく最後まで走ってくれた〉

 

〈こちらこそ、ありがとう。車を戻してくれ〉

 

少し遅れて、信治の22号車も最終コーナーを立ち上がった。

 

〈信治、そのままチェッカー。14位、完走だ〉

 

〈了解。ありがとう。初めての58周、終わった〉

 

〈ああ。よく持って帰ってくれた〉

 

22号車がフィニッシュラインを越える。

 

MUNE RACINGは、初めてのIGP決勝で2台を完走させた。

 

藤原は15番グリッドから10位、信治は19番グリッドから14位。

 

ポイントには届かなかった。

 

それでも58周を走り切った2台には、次のレースへ持っていける経験と、MUNE RACINGが世界選手権を戦った最初の正式結果が残った。

 

宗村はガレージのモニターに表示された順位を見つめ、ようやく息を吐いた。

 

「終わったね」

 

桐生美咲が隣で答える。

 

「いいえ、宗村さん。始まったところです」

 

コース上では、蒼、オレンジ、シルバーの2台が速度を落とし、最初のチェッカーを見届けた観客へ手を上げていた。

 

 

【58周目終了時点・レース状況】

 

・藤原蒼真/7号車:10位完走。前はモロー、後ろはグラント。44周目にスーパーハードからスーパーソフトへ交換し、交換後15周使用。ピット1回。車両異常なし。主要無線担当はラスタス。

 

・中村信治/22号車:14位完走。前はデュボワ、後ろはデュラン。42周目にミディアムからソフトへ交換し、交換後17周使用。ピット2回。車両異常なし。主要無線担当は結城。

 

・順位変動:51周目、中村信治がデュランをコース上で抜き、15位から14位。53周目、藤原蒼真がベルティーニをコース上で抜き、12位から11位。57周目、藤原蒼真がグラントをコース上で抜き、11位から10位。

 

・ピット:当Chapter内のピットなし。藤原は44周目の1回、信治は13周目と42周目の2回で全交換を完了。

 

・天候/路面:ドライ。51周目から58周目まで黄旗なし。SC、VSCなし。

 

・リタイア:当Chapter内の新規リタイアなし。ノヴァーク(7周目/接触事故/RET)、チェン(18周目/サスペンション/RET)、フェレイラ(31周目/エンジン/RET)、ベルク(42周目/ブレーキ/RET)。完走18台。

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