王都ビアラム
「おら!おい!ルーファ、そっちいったぞ!」
「わかってる!ああ、もお!数が多い!」
羊学校がある町へ向かう道中、俺たちは悪魔たちに襲われていた。
もうそろそろつくぞ、と言われ続けて三時間ほど歩いたころ、突然、魔力の起こりを感じとると、道中に急に真っ黒な’’窓’’が現れた。
そこから、上級悪魔二体と中級悪魔が三体、下級悪魔が十体わらわらと現れた。
そっちは頼んだと、上級悪魔二体はザムさんとアイリスさんが引き寄せていった。
下級悪魔は対処できるが、数が多い。
中級悪魔においては、なかなか攻撃が通らず、ラエルも苦戦していた。
上級相当のドムよりは断然マシだが、それでも簡単に倒せるわけではない。
中級の力の幅は広く、上級に近い強さをもつものや下級程度の力をもつものもいる。
基準は感じ取れる魔力量からおおよそ判断するため、正確には枠組みできない。
そのため、今対処している悪魔も上級並みの力を持っていたらしく、中々倒せずにいた。
「ああもういい!’’氷の時間’’!!」
ラエルがそう叫んだ瞬間目の前の悪魔は氷塊で貫かれ、消えていった。
「助かった、ラエル。だけどそれ最初っから使えば楽だったんじゃないか?」
「無茶言うな、これ使うとドッと疲れるんだよ……。ザムの時は気づかなかったけど、使えて三回くらいだ」
空間を凍らせて、対象範囲内の時間を止める’’氷の時間’’は魔力の消耗が異常らしく、そうポンポン使えるわけではないらしい。
加えてラエルは氷での攻撃にも相当魔力を消費している。
闘い終わった後でもラエルは息を切らしていた。
「お、終わったか。ずいぶん時間かかったな」
ザムさんとアイリスさんはとっくに片を付けていたらしく、俺たちの様子を見ていた。
「だが、中級なら二人でも対処できるな。上級でも下の方の奴らは倒せるだろ」
「まーた、お父様は。私はヒヤヒヤしてましたよ……」
「だーからいったろ、見といて大丈夫だって。こいつら見た目はベイビーでも中身はへヴィーだぜ」
「何言ってるかわかりません……、それにこの子達は身体はまだまだ子供なんですよ」
「だからそこも大丈夫だって。見たところ、基礎的な身体強化どころか、ルーファは応用的なとこまで。ラエルにおいてはもう能力が使えているんだ」
「でも……」
アイリスさんはやたらと俺たちのことを心配してくれている。
道中も少し歩いたところで休憩を促すなどしてくれていた。
対するザムさんはもう普通の扱い(雑)で、気にする気などないという感じだ。
「そりゃ、やばくなったらドムの時みたいに助けるんだから、お前ももうちょっとこいつらを大人扱いしてやれよ」
ザムさんはハイハイという感じにアイリスさんに言う。
あんたにも大人扱いなどしてもらった覚えはないが、と思いながらも、実際、そっちの方が俺たちの成長になるのだろう。
「心配しなくても、俺たちだってただのガキじゃないんだ。できることはできるさ」
そういってアイリスさんを安心させようとしたが、効果はあまりないらしい。
「あなたたち、まだまだ子供なんだから、力があるからって無茶はダメよ?」
と注意された。
※
「ほら、見えてきたぞ」
悪魔を撃退した後、一時間、さらに歩くと大きな門が見えてきた。
「ここが羊学校がある都市、王都ビアラムだ」
やっとついた。ここが村から一番近いとこなのか、ずいぶんと歩いたな……、て、え?
「お前、ここ王都じゃねーか!」
「お前って呼ぶな!ガキが!」
思わずラエルが叫んだ。ラエルが驚く顔はもう見慣れてきた。こいつ意外と感情的な顔するな。
アイリスさんはやれやれと呆れた顔をしている。
「一番近い町の道を外れたところから怪しいと思ってたのよ……。でも、悪魔と戦い終わった後に聞いてみたら、心配ないっていうからそのままにしておいたのに……」
「なんだよ。文句はないだろ?ここなら面倒も見やすいし、羊学校だってちゃんとある。なんも問題ないだろ」
「ここは本来、能力適正も可能性が最もありと判断された子だけしか来ない、魔境最前線ですよ?ラエル君はまだしも、ルーファ君はまだ能力はもってません!それにルミアちゃんはどうするんですか?まだ正真正銘の赤ん坊なんですよ?」
「だから、ここなら俺も面倒見れるんだから大丈夫だって言ってるだろ!変なとこで預けるよりも俺が面倒見るのが一番安全だ!いいから、入場審査の手続きしてきてくれよ!」
アイリスさんはもう、と不満げに顔を膨らませながら門の前の警備の人の方へ行った。
ずいぶんと自分に自信を持っているようだな。いくらザムさんが強いからと言って、こんな最前線の都市だと危険も多いだろうに。
「そういえば王都は魔境に一番近いところにあるんだな。王様を危険にさらしていいのか?」
「ああ、それは国王様の意向でだ。なんとも王が動かねば人々はついてこない、というらしくな。羊会ができた時、わざわざ遷都したんだ」
その国王様、絶対転生者だろ……。前世で同じことを言っていた漫画のキャラを俺見たぞ。
「それに、今羊会を取り仕切っているのも国王様だからな。五大羊会の一人でもあるし、めちゃくちゃ強い人だぞ」
なんとも勇ましい国王様だことだ。
「手続きできましたよー」
門番と入場の手続きをやっていたアイリスさんが帰ってきた。
「んじゃ、入るぞ」
そういいずかずかと歩くザムさんの後俺たちはついて行った。
※
「おお……!」
王都ビアラムの街並みは、いつか見たアニメの異世界の街並みそのもので、西洋風なレンガの建物、道には出店がでており、向こうには噴水も見える。
俺たちがいた村とは違い、いかにも王都という感じに栄えていた。
「ここが……!王都か!全然戦場最前線の魔境近くとは思えないな!」
「そりゃ、この都市で戦うことは滅多にないからな。魔境に一番近いといっても、この都市からはまだ離れたところに魔境があるし、ここまで悪魔が到達することは滅多にない。羊会の本拠地でもあるから、人魔たちも好き好んでこの都市では暴れられない」
「なるほどな」
「まあ、今んとこだけどな」
「???それってどういう……」
アイリスさんは気まずそうに目をそらした。
ザムさんは答えずドカドカと歩いていく。
「そういえば、羊会って対悪魔戦闘隊のことをいうんだよな。でもザムさんたちの呼び名も五代‘’羊会’’だろ、なんでだ?団体名と個人を指すのが同じ呼び方でわかりにくくないか?」
俺は違うことを聞くことにした。
「それは俺もややこしく思う、が一個体で団体並みの力って意味があるらしい」
「??なる……ほど??」
「んでもって、羊会に所属する隊員は羊人っていうぞ」
「なら、’’五代羊人’’でもよかったんじゃないか」
「そうだな、そう思う」
「ちなみにその名前を決めたのは?」
「この都市をここに遷都した時の国王、初代羊会社長だ」
そこは会長じゃないのか。多分、その国王様、結構テキトーに名前決めたな……。
「俺もそう思う」
なんだか国王様のイメージがいかにもアホッぽくなってきたな。
「だが、今の社長はめっちゃ怖いぞ」
「ザムさんが言うほど!?」
うおっ!突然ラエルが叫んでびっくりした。お前も怖いとか思ってたのか。
「俺の顔はそんなに怖いか……?」
ザムさんの顔が引きつっている。その顔だよ、怖いのは。
「まあこの後会うことになるから、わかるだろ」
そう言ってザムさんは羊学校の寮へと俺たちを連れて行った。
※
羊学校の寮は木造の大きな家で、大きさは俺たちがいた家よりも少し大きい、いかにも寮という見た目だった。
「はい、ルミアちゃんを返すわね」
「ここまで預かっててくれて、ありがとうございました」
ルミアはアイリスさんがずっとおぶりながら、歩いてくれていた。
ルミアはすやすやと眠っている。道中もあまり泣くことはなく、悪魔との戦いもルミアを起こすことなくやり遂げたらしい。化け物だなこの人。
「この寮は俺が管理している寮だ。だから、ルミアは俺が面倒みれるし、俺たちがいなくても俺の後輩はずっとここに引きこもっている。安心して羊学校に通えるぞ」
「寮ってことは他にも住んでるやつもいるのか」
「ああ、まあ挨拶は学校の手続きすんでからでいいだろ」
ということで寮についたのもつかの間、俺たちは羊学校へと向かった(ルミアはまたアイリスさんに預かってもらった)
※
「ほら、ここがこの都市の羊学校、メリノ羊学校だ」
「で……、でっけーーー……!」
ザムさんに連れてこられた場所は、学校というより一つの宮殿のような、大きな大学のようなものだった。
「まあここは羊会の本拠地でもあるからな、なんならそっちがメイン」
そういうことか。確かにここは第一線の能力者認定された奴らが集められる場所だからな。すぐに戦場に俺たちも出ることになるのだろう。
「そういうことだから、挨拶に校長先生と、社長のところへと行くぞ」
さっき言っていたどうせ会うというのはそういうことか。
ラエルはあちらこちらに目を映らせ興奮している。こういうところは子供っぽいな。
かくいう俺もきょろきょろとしたいのを我慢しているのだが。
ザムさんについていき校内を歩いていると、色んな人たちの視線を集めていた。
こんな赤ん坊二人はやはり珍しいのだろうか。ちらちらと視線を感じる。
だが……、
「みんな、表情が暗い人が多いな」
ラエルが周りを見渡しながら、気にしていた。
街の雰囲気は晴れ華やかなもので、人々には笑顔があふれていた。
そんな中、羊会の証である。羊のブローチをした人の表情は暗いことが多かった。
校内に入った時も、学生らしい人達の表情は明るかったが、奥の方へ進むと羊会の人が増え、暗いものが多くなった。
「まぁ、ちょっとでっかくやった後だからな。それにその戦いには俺たちは行かなかったから俺にも視線を当ててんだろ」
嘘だ。明らかに、視線は俺たちに集められており、それは羨望や物珍しさ、恨みのものでなく、哀れみの眼であった。
こんな子も……。容赦ないな……。可哀そうに……。そんな声も遠くから聞こえる。
「でっかくやったって?」
社長室と校長室は上の方にあるらしくと、俺は階段を上がりながらザムさんに聞いた。
「この前、悪ま魔貴族級が出たらしくな、それで大勢死んだ。100か200?くらいのエリート羊学生、羊会300と’’五代羊会’’の一人」
「は?」
ラエルが思わずつぶやいた。俺は声も出なかった。
「嘘みたいに聞こえるだろ。さっき街の様子を見たからな。だが、あの様子もここ数年でやっとああなったものだ」
校内の階段はあまり日が当たらず、たいまつの光のみでザムさんの表情はあまり見えない。
「数十年前は、ここらに’’窓’’がボコスカ開いてな、街中、しょっちゅう戦場になっていた。だが、人が減りすぎたってことで悪魔がこの都市内ではしばらく戦わないっていう’’誓い’’を結んできてな。ここ数十年はこうして人々は平和に暮らせてますとさ」
「だったら、この都市にずっといればいいんじゃ」
「その’’しばらく”っていうのが後二年くらいだ」
「……!?」
「後二年後、この都市は再び戦場になる」
「そんなの……、この都市の人たちを逃がさないのか?」
「……」
俺はザムさんにそう問い詰めた。だが、ザムさんは答えない。
「話せない理由があるんだな」
ラエルがそうザムさんに言った。
「そういう”誓い”だ。一人に話せば、二日その”しばらく”は短くなる。今、この町の人中に知られると今すぐにでもこの都市は戦場になる」
「え、それ俺たちに話してよかったのか……?」
今、四日短くなったということか。たかがといえど、されどだ。
「いいんだ、お前らは。この’’誓い’’は羊会の羊人には関係ない。羊学生には適用されるから、話せないがな」
「は?俺たちはまだ羊学生だろ?話しちゃまずいんじゃ……」
「違うルーファ、そうじゃないってことだろ」
ラエルがそうザムさんを睨みつける。
「アイリスが意地張って聞かないから少し無理やりになっちまったが」
そういうと大きな扉の前でザムさんが止まり、振り返っていった
「お前らは今日から羊人になってもらう、特別飛び級だ」
扉が開くと、奥に険しい表情の男と、表情が読めない老人が座っていた。
「ようこそ、ラエル・スカイロット、ルーファ・スカイロット」
「歓迎するよぉ」
そう男は淡々と、老人はゆったりと言った。
「俺、最初に言ったよな」
ザムさんが語りかけてくる。そうだ、この世界で初めてあった時に言われた、こいつからの初めての忠告。
「この世界のヤツの言うことは全部疑えって。お前らを羊学校に入れるっていうのは嘘だ」
ザムさんはそういうと奥に並んだ椅子にドカッと座った。
「お前たちには今日から命を懸けて戦ってもらう。もちろん拒否権はない」
険しい男はそう冷淡に俺たちに’’命令’’した




