身勝手な願い
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おじさんが去ってからしばらくすると、優しそうな小太りのおじさんが俺を目に着け、
かわいそうに……私が拾って育てよう、と俺を預かってくれた。
家は俺がいた場所よりも少し離れた村にあり、おじさんは村の村長さんだった。
名前はトール・スカイロットさん。
村で一番大きな家に住んでおり、お金に余裕があるため、スカイロット家を継いだものは、代々、近くから孤児、捨て子を何人か預かり、養い続けているらしい。
ちなみにトールさんも親を無くしたところを拾われた、養子だったとのこと。
俺にはルーファ・スカイロットという、新しいこの世界での名前を付けてくれた。
俺のほかにも二人、子供を養っており、一人はラエル・スカイロット。俺の2つ上の黒髪の男で、兄として慕うようにトールさんに言われた。
俺がいた、転者の道と呼ばれていた場所とは違う場所から拾われた、この世界の生まれなのだが、もう基本的な言語は読めるとのことで、神力の鍛錬の本、神力書を読んでいた。
普通、この世界出身の子供は、5歳までに、基本的な学習を終え、そこから神力書を読んで、慣らしてく、という流れらしい。神力書は、この世界の言葉とはまた違う言語のため、俺のような転生者でも、3歳から読むのが普通とのことで、ラエルはかなり早いペースだ。トールさんも今まで見たことが無い子だ、と驚いており、早いとこいうと天才らしい。
転者の道出身のものは、他の世界からの転生者ほため、基本、言語が通じるということは広く知られてるらしく、トールさんはこの世界のことを俺に毎日少しずつ教えてくれていた。
気になったのは、ラエルは転生者でないのに、どうして神力が使えるのかということだが、どうやら、親のどちらかが転生者である子供は、転生者と同じように、神力が使える身体で生まれるようだ。
女神様が、必死に転生してくれるものを探しているというのは、ここに転生したものがいれば、この世界にどんどん神力が使えるものが、指数関数的な伸びで、増えていくからでもあるという。
この世界の人間もいずれ、このままいけば人類の半分は、神力を使えるもの達で占めるようになりそうだと言っている。
二人目は、ルミア・スカイロット。先日、拾われたばかりで、俺と同い年の赤髪の女の子。こっちも転者の道とは違うところから拾われた、この世界出身の女の子だが、親がこの子は神力が使えないただの女の子とのことだ。トールさんはこの世界出身だが、親が転生者だった、神力が使える人だ、が能力はないため、家を継ぎ、比較的安全なこの村に住んでいる。能力がつかなくても、神力だけで、少しの身体能力強化や、相手が神力を使えるのか、そしてその量をおおよそくらいは視えるのだという。
俺とラエルに能力持ち濃厚とされ、戦地の方へ飛ばされたら、この子に家は継いでもらうと言っていた。
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「……のためこの神力書が示すのは……」
これから、俺はこの世界のことを学びながら、神力書の言語を学習していくとのことだ。
1年の月日が過ぎ、俺もやっと言葉を声に出せるようになった時に、俺はおじさんとお姉さんの会話を思い出し、少し気になっていたことを聞いた。
「トールさんはなんで、俺を拾ったの?」
あの白髪のおじさんは、転生者を育てることは二度、その者に望んでない死を与えることだと言っていた。
俺は考え直してみると、確かに、転生者の素性が広く知られているこの世界で、おじさんと同じように思う人も少なくはないとも感じてきていた。
「俺、トールさんに拾われたことにすごく感謝しているし、今聞いていることはすごく失礼なことだっていうのはわかっているけど、聞いてみたいんだ」
トールさんは、今日の料理を作りながら、優しく聞いてくれていた。
「でも、俺、トールさんに拾われる前に会ったおじさんに言われたんだ、もし誰かに拾われても、すぐに楽に死ねって、そうしなきゃ二度望んでない死を味わうことになるぞ、って」
そう言い終えると、トールさんは今日の料理のシチューを運び、椅子に腰かけ、話してくれた。
「確かにその人の言うこともわからなくはない。この世界の者は能力があるなしに関わらず、悪魔か悪意ある神力者に無残な死に方をするものが多い。」
この世界には神力を使え、能力が身についたが、それを悪魔と戦うためでなく、私利私欲のために使い人々に危害を加える者もいる。
女神様には説明されていなかったが、それもそうだ。俺たちは人間、人類につくそうと思う者もいれば、望まない戦いよりもこの世界で楽に生きることを選ぶやつも多くいるのに、なんの疑問もない。
女神様も人類の世界がどうなっているかは詳しくは知っていないのだろう。
「だが、それでもこの世界に生まれたのなら、できるだけ長生きしてほしいと私は思うんだ。たとえもっと苦しいことが待ち受けているにしても、それでも、私は皆に生きてほしい」
トールさんは優しく微笑みながら話した。
「君を拾ったのは、何も君のためではなく、この家が理由でもなく、私の身勝手な願いなんだよ」
トールさんをそう、少し申し訳なさそうな弱々しい表情をし、俺の頭を優しく撫で、ルミアに食事を食べさせてくる、と部屋から出ていった。
おじさんは望んでない死を与えないようにと言って、俺に早く死ぬようにいった。
この世界では自分の死にたいときに選んで死んでおけと。
だが、トールさんは、その望んでない死を与えてしまう責任も取りたいということなのだ。
なんて優しい人なんだろう。
この人とは前の世界はもちろん、この世界でも血は繋がっていないが、本当の親のように尊敬する。
俺はこの人に拾われて本当に幸せだと、心の底から思った。
気がつくと、傍らにはラエルが神力書を開いたまま、じっとこちらを見つめていた。
いたのか、ずっと静かにしていたから、気が付かなかった。ラエルもこの話を聞いていて、嬉しかったのだろうか、しばらくその顔は少し震えていた。
基本的に、ラエルとはあまり話したことがない。
ラエルは口数が少なく、1日中、神力書を読んでいるか、鍛錬をしているかで、いつも一人で淡々と過ごしている。
彼の声を聞くのは、食事の時か、たまに、トールさんに食材の調達を頼まれた時にする返事くらいだ。
まるで、機械のような人だ。
そんな彼が、感情的になったのは初めて見たため、少し驚いて、俺も思わず、ラエルをじっと見ていてしまっていた。
すると突然、神力書をバッと閉じ、こちらに近ずいてきた。目を恐ろしくギラギラさせながら。怖い。
「ごめん、つい……、」
「明日から、俺がお前に稽古をつける」
「えっ……?」
見つめられるのは嫌いだったかと、俺はサッと目線を逸らし、謝罪をしたが、予想とは違った答えがかえってきた。
稽古?なんで突然?
突然すぎる話に俺は困惑しっぱなしだった。
この世界での初めてした、兄弟の会話は、あまりにも唐突で、一方的な形だった。




