大国出身
***
「遅かったわね」
羊会本部に着くと、レイラさんが手に”タロちゃん”を持ち、待ち構えていた。
「結果はどうだったかしら」
「いかにも何もない感じで、怪しさ満点だったっす。なので、これ、持って帰ってきたっす」
フルトさんがそういい、”イチゴ”をレイラさんに手渡す。
「あら、上出来ね。これで多分乗りこめるわ」
「乗りこむって……、レイラさんの方は結果どうだったんですか」
「アルスに診てもらったところ、やっぱり”呪い”がかかってたわ」
「”呪い”……、ですか」
ええ、とレイラさんが頷く。
「”呪い”、ある特殊な神力源によってこの効果をもったものが生まれるわ。魔道具の能力に似たようなものね」
「能力とは、どう違うんですか」
「能力はその効果は神力を入れないと発動しない。だけど、一度入ると、呪いは神力がなくても常時発動され続けるわ」
「つまり、レイラさんはずっと呪いにかかった状態ってことですか?」
「そうね。でも解く方法は能力よりもずっと簡単よ。能力は神力を入れると何度でもその効果が発動できるけど、呪いは一度解かれると消えてしまうの」
なるほど。能力は繰り返し、呪いは一回限りの効果ってことか。
「解き方も比較的簡単で、聖系統の神力が入れば一発よ」
神力にも人によって特性があると言っていたな。
「聖系統の神力って」
「特に、ふつーの神力よ」
ずっこけた。
「どんな特性を持っていても9割方はこの系統を帯びているわ。ルーファが同じもの食べても何ともなかったのはそのおかげね」
言われてみればそうだ。
俺はレイラさんが食べているものと同じシュークリームを食べていた。
「なら、なんでレイラさんは呪いにかかってるんですか」
「私の神力が普通じゃないからに決まってるじゃない」
さも当然というようにレイラさんが答える。
「どんな特性なんですか」
「とげとげ、痛々しい、毒っす」
フルトさんが代わりに答えてきた。
フルトさんがドカッと殴られる。
「な、なんで殴られたんすか!」
「この神力はどちらかというと、魔、よりらしいわ」
レイラさんが無視して答える。
考えてみればそうか、この人は聖とは真逆の性格してるもんな。
口悪いし、魔道具訓練の時も、喜んで痛めつけてくるし。
「そういうわけで、私は見事に呪いにかけられていたってわけね」
「普通の神力で解けるなら、なんで解いてもらってないんですか」
「そんなの、あなたたちが何か持って帰ってきたら照らし合わせるために決まってるじゃない」
レイラさんはこの呪いが本当にこのイチゴが原因なのか確かめるために、そのままにしておいたそうだ。
「アルスに見てもらったところ呪いであることは確かだわ。でも、何が原因かまでは確かじゃない。証拠なしに動くわけにはいかないでしょう」
人々に神力や能力で害を与える者たちは”人魔”とされる。
だが、推定ではそうは扱えないようだ。
「証拠がそろって始めて動ける。でも向こうも違和感に気づいてるかもしれない。急ぐわよ」
そういって俺たちはアルスさんのところに向かった。
アルスさんは医薬品などが揃っている、医務室のような場所にいた。
姿は魔女のような帽子に杖、見た目は……、小さな男の子だった。
「初めまして、私がアルスだ。ヨロシク」
目はたれ目で、クマができている、気だるげな様子で話しかけてきた。
「持ってきたわよ、アルス。これはどうかしら」
そうして、フルトさんがアルスさんに”イチゴ”を手渡す、までもなく。
「あーあー、これだこれ。これが原因だよ」
と見ただけでアルスさんは言ってきた。
「これはそうだね……、向こうの大国で最近見たっけな。金儲けに使われてた。中毒性が強く、一度体内に入ると、定期的に欲しくなってしまう。過剰摂取しちまうと、さすがに死んじまう」
まぁそんなに一度に取れる金を持っているものはどこにもいないがね、とアルスさんが言う。
「しかし、これは麻薬の中でも、特に人々に害を与えるものとして”魔薬”に認定されているものだ」
「よし、決まりね」
そう話を聞くと、レイラさんが立ち上がる。
「証拠が揃ったわ。急いで捕まえに行くわよ」
そうして、俺とフルトさんとレイラさんは再びあの店へと向かった。
***
日は沈み、街灯も少なく薄暗い道。
いつもならまだ明るいその店は、暗くCLOSEDという看板が立てらていた。
そしてその道の前に一人、大男が立っていた。
「ジャームさん、あなたは麻薬を使用し、民衆に多大なる被害を与えた疑いがあります。羊会までご同行、お願いできますね?」
レイラさんがジャームさんに話しかける。
「ああ、俺一人なら構わんよ」
ジャームさんはどっしりとした様子で答える。
「いえ、レインさんも同じ疑いがかけられているため、同行をお願いします」
レイラさんが答える。
周りは静かで、ジャームさんの他に人がいる気配はない。
「レインさんはどこへ?」
「さぁ?今日は珍しく早上がりでね。行先なんかはさっぱり」
手を挙げてジャームさんは答える。
「逃げたわね」
レイラさんがチッと舌を打つ。
「逃げたとしたら?どうしますか」
「もちろん追いかけるわ」
そういい踏み出すレイラさんの前に、ジャームさは立ちふさがる。
「あなた、わかってる?邪魔をするなら、人魔として駆除できるのよ?」
「もちろん、そちらこそ覚悟したほうがいい」
そうしてジャームさんはにやりと笑う。
「俺は本気であんたらをここで止める」
瞬間、放たれた拳をレイラさんが受け止める。
「はっや!」
フルトさんは横で驚いている。
「この速さ、重み、……あなた、ただのお菓子屋じゃないのね」
「向こうの大国から来たっていえば十分かい、”技巧匠”?」
「なんですって」
レイラさんがひどく驚いている。
「レイラさんはなんであんなに驚いているんです?」
「向こうの大国といや一つしかないっす……!大国ドルムント!あそこの国は強者絶対主義で国の中でもトップのものほど自由が許されるっす。それが国をまたぐことができるなんて、ドルムントのTOP5くらいじゃないと……」
つまり、別国の化け物がジャームさんの正体というわけか。
「あんた、なんでシュークリーム屋さんなんてやってるんだよ!」
「そりゃもちろん好きだからさ!向こうの国では甘いものなんかよりも麻薬が流行っててな!全く売れん!だからこっちで売ろうって魂胆だ!」
「じゃあなんでこっちでも麻薬を売ってるのよ」
「それは事情があってな。金が必要になったんだ」
ジャームはレイラさんと戦いながら答える。
レイラさんは”タロちゃん”を匠にふるいながらジャームさんを切りつける。
だが、それらをよけ、ジャームはレイラさんに殴りかかる。
あのレイラさんが防戦気味だ。
「こっちに麻薬を流せば向こうで売るよりも何倍も金が入る。向こうの売り手の感謝賃と競争相手がこっちがいないのとがっぽりだ」
ジャームは得意げに話す。
レイラさんは話す余裕もなく、ジャームの攻撃に耐えている。
「ちっ、やりづらい相手ね」
訓練で気づいたが、レイラさんは超高速なシンプルな乱打と技を躱された後のカウンターに少し弱い傾向がある。
そのどちらもなしているジャームはレイラさんにとって不利な相手だ。
助けに入りたいが、俺はまだレイラさんと共闘しておらず、リズムがまだつかめない。
あの”タロちゃん”に間違って切られでもしたらとぞっとする。
「ええい!ファイアーっす」
代わりにフルトさんが入っていった。
フルトさんの能力はシンプルな炎、らしい。
手から火玉をジャームに投げつける。
「ちょ、バカ!」
慌ててレイラさんは後退する。
「なんだ?こんな小っちゃな火なんざかゆくも……」
そういって弾き返そうとしたジャームさんの目の前で、火玉は爆発した。
「やりぃっす!」
威力はすさまじく、あたり一帯が煙で覆われた。
それを見て思わず俺は口にした。
「フルトさんって、戦えるんですね」
「何それ!チョー失礼っすね!」
フルトさんがツッコんでくる。
「フルトは腐っても私のところに配属されたエリートよ」
レイラさんからエリートと言われ、気分を良くしたのかドヤ顔してくる。うざい。
「ただ、威力はすさまじいけれど調整は苦手なの。いつも私も巻き込まれるわ」
とレイラさんに睨まれ、フルトさんは下を向く。
なるほど、その調整を上手くするためにレイラさんのもとでフルトさんも訓練しているのか。
「全く上達せずにいてうんざりするわ。ルーファの方が上手く神力を調整してるわよ」
と言われ、フルトさんがガーンとショックを受けている。
「い、今は無理でもそのうちっす……!それに今回は俺の手柄で……」
そうフルトさんが煙の方を指さした時、その指が曲がった。
「ッ!」
咄嗟にフルトさんは後退する。悲鳴を上げないところフルトさんは本当に強いらしい。
それよりも。
「こんなちっさな火、かゆくもねぇって言ってんだろうが」
無傷のジャームさんが煙から姿を現した。
「うぇあえええ!?」
フルトさんは指を抑え、変な声を出して驚いている。
「やられたとは思えなかったけど、無傷はさすがに驚くわ。私もあれ、結構来るのよ」
レイラさんも驚きを隠せずにいる。
「俺の能力はシンプルな身体強化。神力の鎧を身体に纏わせることができる」
だから、あれを喰らって無傷だ、というのは無理がある話だ。
火力の問題だろうか。
レイラさんも妙に思ったのか、じっと考えている。
「んで、ルーキー君は仕掛けてこないのかい?とんだへっぴり腰だな」
ムカッ。ジャームはずっと様子を伺っている俺を見て、挑発してきた。
「なんだとお前ー!」
そういって神力を込め、拳を振りかざす。
魔道具訓練の成果か、体中に神力がいきわたっていくのを感覚でなく、実感として感じる。
そしてジャームに思いっきりぶつける。
しかし、フルトさんのあの攻撃を無傷でいたジャームだ。
とうぜん、効かずにそのまま立っている……、と思ったが、
ごしゃっと鈍い手ごたえを感じたと思ったら、ジャームが吹っ飛んだ。
「「「えっ?」」」
俺たちは三人とも間の抜けた声をだし、驚いた。
「どういうことだ?」
ジャームも困惑した表情で起き上がる。
「そうか!」
突然レイラさんが声を上げた。
「ルーファあなた、今、また外へ纏わせる神力を忘れたわね?」
あっ忘れていた。
俺は今、身体の中に流す神力だけ使っていた。
「多分、ジャームの能力は、神力からの攻撃を流す能力なのよ。だから、私の攻撃も全て流されたし、フルトの攻撃が直撃しても、無傷でいたのよ」
そういう訳か。俺の悪い癖が逆に功を奏したわけだ。
「「そ、外へ纏わせる神力を、忘れるぅ!?」」
ジャームとフルトさんが同時に驚く。
そんなに驚くほど、初歩的なことなのか!?なんだかキマッたのに恥ずかしくなってきた。
しかし、呆れて驚いたような様子ではない。
「そ、そんなこと、可能なんすか?」
フルトさんがレイラさんに向かっていう。
「ええ。どうやらルーファは完全に分離して考えているようね」
「な、なんでそんな驚いてるんですか?」
俺はフルトさんに聞く。
単に俺が、まだまだ未熟という話ではなさそうだ。
「そりゃそうっすよ。普通、神力で肉体強化するとき、別々になんて使えないっすよ」
フルトさんが声を震わせて言う。
「ルーファ、あなたに言ってなかったけど、あなたの癖は異常なのよ。魔道具訓練は中と外の神力のバランスが悪いものを1:1にするために行うものなの。普通、どうしても両方の力を使ってしまう者なのよ」
レイラさんが説明する。
「内側で強化しても外が脆ければ、身体は傷つく。外が硬くても中が脆ければ崩れる。だから、普通両方の力を使う、使わずにはいられない」
なるほど。どの魔導書にも書かれてなかったのは、当たり前すぎたことだったからか。
「でも、あなたは内側の力だけ使い、しかも身体は崩れず、ドムともやり合った……異常よ」
そんなに異常異常と連呼されると、何だか悲しくなってくる……。
「そんなこと言われても……、俺にはこれが普通な訳でして……」
外に纏わせる神力を、今は使えない訳ではないが、ジャームには使わないほうが有効らしい。
「でも、そうね。こいつにはあなたの方が相性よさそうね。ここは任せてもいいかしら」
大国出身?とやらの化け物に、この人はまた無茶なことを……。
しかし、逃げたレインも捕まえることが重要なのは確かだ。
「わかりました!」
「お、俺は足が遅いんで、ルーファのサポートをするっす」
「そうね。効かない足手纏いにしても、肉壁くらいにはなるでしょう。頼むわ」
「相変わらずひどい!」
そういってレイラさんはこの場を去っていった。
***
ジャームは起き上がりながら、考えていた。
(まずいな。能力がバレたのもそうだが、まさか外側の神力を0で内側の神力を扱えるものがいたとは……。意外な天敵だ)
未だ痛む腹を抑え、考える。
(一番相性がいいと思ったレイラは逃してしまったか……、まぁいい。この化け物をこの場に残しておけるなら……)
そうして立ち上がる。
そうだ、初めから自分はこいつさえ足止めできればどうとでもなると考えていた。
そいつはこの場に残ると自ら言ってくれた。
レイラくらいなら、頼んだあいつが足止めしてくれるだろう……。
レインは向こうに逃げられればどうとでもなる。
今、やるべきことは。
こいつが本気をださない内に、できるだけ時間を稼ぐことだ。
そう、こいつだけは。
そう思い、新たに表れた天敵の隣にいる者へと目を向ける。




