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俺が主人公になる話  作者: あんぷ
第二章:王都ビアラム
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雇用主

 ***

 

 

 フルト達の見学を終え、見送った後、レインはジャームに詰め寄った。

 「どうして、店の中に入れたりしたんですか。もし、”あれ”がバレでもしたら……」

 「仕方がないさ。既に怪しまれている感じだった。あそこで断るのは、肯定を意味することになってしまう」

 ジャームは焦るレインに冷静に伝える。

 日に三度も来店してきた客。

 さすがに違和感を覚える。

 フルトは何も怪しい素振りはなく、ただ単純に見学を楽しんでいるようだった。

 あの新人も少し固い表情だったが、見学の緊張と捉えることができない訳でもなかった。

 様子を見ていた。

 ただ見学をして終わりならば、考えすぎならば、それでいい。

 だが、最後、帰り際にイチゴを一つ欲しいと言われた。

 それで確信した。

 このフルトという羊人は、もう俺たちをクロと、ほとんど確信しているということを。

 なぜ、イチゴを?

 確かに、イチゴは滅多に手に入らない。

 味を再現したいなら、イチゴは必須だ。

 だが、手に入らない訳でもない。

 羊会ともあろう者ならば、わざわざこの場所に来てまで手に入れずとも、どうとでも楽に入手できる。

 この男は、最初から、”これ”を……、麻薬に分類される”証拠(これ)”を手に入れ、本部に持ち帰るために来たのだ。

 このイチゴはただのイチゴではない。 

 見た目は普通だが、咀嚼され、体内に入ることで麻薬の効果を発揮させ、食べたものに、軽い依存症状が現れる。

 それはとても軽度なもので、ストレスがたまった日に、無性に辛いものが食べたくなるような、そんな感覚だ。

 無くても大丈夫だが、無性に脳内に飛び回って来る。

 イチゴよりもはるかに安価な値段で手に入れることができる。

 

 レインと出会ってしばらくした時、これを用いたいと言われた。

 確かに売り上げは上がるだろう。

 しかし、いつかはバレるだろう。

 ジャームは理解していた。

 だが、目の前のレインの縋るような目。

 断れなかった。

 そして、日に何人か、通り過ぎる人が食べるくらいだった店は、いつしかこの王都内で一と言われるまでになった。

 その噂は羊会のほうでも耳に入ったのだろう。

 「お一つくださいっす!」

 ある羊人が定期的に買うようになった。

 大丈夫。まだ大丈夫。 

 だが、時間の問題だろう。

 予感のようなものがずっとジャームの頭の中にあった

 よしてその予感が今日、的中したというわけだ。

 ならば覚悟はできている。 

 この娘を雇うと決めた日から。

 この娘の願いを聞いたあの日から、決めていたこと。

 

 「今日は店をもう上げる。そして、君だけ逃げなさい。レイン」

 焦って中々、製造に手が付かずでいたレインにジャームが告げた。

 「え?」

 「すぐにはバレはしないが、時間の問題だろう。今日中には羊会の連中がとっ捕まえにくるだろう。俺がここに残って時間を稼ぐから、君だけでも逃げてくれ」

 「で、でも……」

 「大丈夫。君ならどこへ行ってもやっていけるさ」

 「そうじゃなくて……」

 「ああ、麻薬でまだお金稼がなきゃなんだっけ。これからは別の方法で売らなきゃだな。悪いが手伝えないけどね」

 「そうでもなくて!」

 自分のことばかり心配してくれるジャームさんにレインは問う。

 「ジャームさんは……?逃げないの……?」

 「だから言ったろ。俺は時間を稼ぐって」

 「それって……」

 「死ぬんじゃない?人魔認定されて、処刑対象だろうね」

 ジャームはさも当たり前のように答える。

 「そう簡単には死なないさ。君が王都を出るくらいの時間は稼ぐ」

 「なんで?一緒に逃げようよ。私だって戦えるし……、私の方がずっとずっと強いんだよ?」

 「だとしてもだ。二人で組んだところで、たかが知れている。きっとあのレイラさんが来るだろう。さすがに”技巧者”相手だと分が悪い」

 レインは理解できずにいた。

 「どうして?そこまでするの?」

 「それが、あの日言った面倒を見てあげるということだから」

 雇う。面倒を見る。

 それは主となった自分の当然の義務だ。

 それ以前に。

 「それに、大人が子供を守るのは当たり前だろう?」

 目の前のこの娘は、まだ子供だ。

 ならば、自分が、守ってあげるのが当たり前だ。

 「だから、ほら、逃げてくれ」

 そういって、店じまいの支度を始めた。

 少しかっこつけすぎかな。

 だが、あの時決めたのだ。

 この娘だけでも、俺は守ると。

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