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俺が主人公になる話  作者: あんぷ
第二章:魔境最前線
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魔境訓練n回目

 ※

 ノエルに連れられながら、ラエルはルーファとルミアの事を考えていた。

 共に暮らして一年少し。だが、ラエルには二人に本当兄弟のような愛情をもっていた。

 あの寮には俺はもう帰らないのだろう。ルミアは大丈夫だろうか。

 アイリスがいるのなら大丈夫だろうが、それでも不安は残る。

 ルーファは……、あいつは中々、人を信じやすい。

 ドムのことも、ノエルのところ行くまでザムの言ったことも疑わず信じ切っていた。

 ルーファは強い。きっと俺と同じかそれ以上、才能もある。

 だが、この世界の脅威は悪魔だけじゃない。

 同じ人である、人魔も脅威であるのだ。

 あいつにはそっちの方が危険かもな。 

 そう考えているうちに、前を歩いていたノエルが止まった。

 「今日から君には僕たちのグループと行動を共にしてもらう」

 開いた扉の向こうの部屋は広く、数十人の羊人が見える。

 ごつい人。剣をふるっている人。はたまた、能力の鍛錬をしている人。

 その一斉の視線が集まる。

 「みんな!紹介するよ、今日からウチに入るラエル・スカイロット君だ!仲良くするように」

 そうノエルが言うと、全員が手を止め、握手を求めてきた

 「よろしくな!俺はドーザ、歓迎するよ。まだ若いのにすごいんだな」

 「ああ、よろしく頼みます。さっき紹介されたように、俺はラエルと言います」

 そう、一人一人と自己紹介をしていった。

 カーム、トッツ、ガルト……一度に覚えるには多すぎるほどの人がラエルのグループにはいた。

 みんな気さくに接し、ラエルの入会を拒むものは誰一人としていなかった。

 そしてその一人一人が上級悪魔と単独でやりあっても勝てるほどの実力者達。

 (すげえ、さすがトップが率いるグループだ……!)

 ラエルは人知れず興奮していた。

 「それじゃあ早速だが、魔境に行く!新人君に、羊会がどういうものかを体験させてあげよう!」

 イエッサー、と全員図太く力強い声で返事をする。

 「そんな急に行くものなのか、魔境は」

 「ああ、魔境は悪魔がポンポン出てくる。特訓にはもってこいさ。僕たちの目的は、およそ二年後に再びこの街に開かれた時、それに勝てる力をつけることだからね。文字通り、’’死ぬ気’’でやらないと」

 「それは知っているが、その目的。悪魔は壊滅できないのか」

 「……結論からいうと、無理だ。悪魔は魔力がある限り生まれてくる。そしてこの世界は魔力であふれている。たとえ今、悪魔が全滅したとしてもまたすぐ現れる」

 魔力は悪魔の世界に溢れかえっている。そこからただれ出た魔力を使い、俺たちはこの世界で能力を使っている。 

 悪魔の世界と人間界では、”魔境”を境に魔力の濃度が薄まる。 

 ”窓”を開ける何倍もの魔力が悪魔の誕生には必要となるため、人間界に悪魔が突然生まれることはないが、向こうの世界では容易に生まれるほどの魔力が漂っているとの事である。

 「だが、”三皇魔”と呼ばれる悪魔……その中の一人ディルフィニウムを倒せれば、希望はある」

 「ディルフィニウム?そいつはどういう奴だ?」

 「僕たち人類と”誓い”をした悪魔がディルフィニウムだ。そいつはある時期までこの都市内では戦わないという”誓い”をした」

 「それは知っている。だが、そいつを倒しても、二年後には元通りになるんだろ?」

 「そこなんだよ。そいつは”誓い”を交わすとき、俺たちはある時期までこの都市では戦わない、窓もあけない。だがある時期が過ぎれば、俺は再び窓を開ける」

 「……!そういうことか」

 「ああ、彼は”誓い”である時期まで”この都市で戦わない、窓を開けない”そしてその時期が過ぎれば俺、つまり”ディルフィニウムが窓を開ける”ことを条件としている」

 「ディルフィニウムを倒せば、二年後、そいつは窓を開けられず、”誓い”は不成立。そしてこの”誓い”の影響は”全悪魔”に及んでいる」

 「そいつを倒せば、二年後、悪魔という存在そのものがお陀仏だ」

 ラエルは驚き、そして耐えがたい屈辱を感じた。

 なんてなめ腐った”誓い”を交わしてきたのだろう。もちろん、これはある時期までに俺を殺して見せろという挑発であろう。

 「なら、なんでだ。なんで、そいつを倒すことが目的じゃないんだ」

 話は簡単だ。そのディルフィニウムを倒せば、悪魔という脅威を消し去れる。

 「それはね、現時点で僕達には不可能だからだ」

 「は?」

 不可能?まだ二年あるのに?

 「諦めたってことか?羊会は」

 「羊会だけじゃない。他の国々も、奴を倒すことは不可能だと判断している」

 「なんでだ!不可能だってなんで決めつけて諦めるんだ」

 「それはだな、僕達には自分達の限界がわかるんだ」

 「限界が、、分かる?」

 「そう。あの僕の隣にいた老人、ダフトさん。彼の年齢はいくつかわかるかい?」

 「それを答えて何になるんだよ」

 「僕が不可能といった理由がわかる」

 全く意図が見えないが、とりあえず考えてみる。

 「七十か八十はいっているか?」

 「いい線行くねー。彼は齢七十九だよ。身体はね」

 「身体は?どういう訳だ?」

 準備ができました!と勇ましくカームがノエルに敬礼する。

 ああ、先、門のほう行っといて、と仲間たちを先に行かせ、驚きの内容を口にする。

 「彼、実年齢は二百をこえているよ」

 「は?どういうことだ」

 人の寿命などとうに超えている。そんな人間がありえるのか。

 「神力を究極まで極めた者はね、”不老”になるんだ。最高の実力、最高の高み。限界究極まで上がれたもののみ与えられる”祝福ギフテッド”」

 ノエルはそう言い唇をかみしめている。

 「ダフトさんは今、間違いなく人類最大の戦力だ。そんなダフトさんは一度、奴ディルフィニウムと戦っている」

 「結果は、、?」

 「ダフトさんは惨敗。手も足も出ず、一瞬でカタがついた……」

 ダフトさんは、お前は後世の育成に尽くせとディルフィニウムに見逃されたらしい。

 それほどの高みでも。それほどまでの才能でも届かない。

 だが、それでもラエルは疑問に思う。

 「だからって。最高が通用しなかったからって、諦めるのか」

 「……」

 「まだ二年、死ぬ気で強くなるんじゃなく、死ぬ気で勝ちに行くんのが、あるべき姿じゃねえのか?社長さんよ?」

 「私とレイラ、すでに現羊会最高位の二人が”不老”与えられている」

 「は!?それはおかしいだろ?”不老”は神力を究極まで極めた奴しか与えられないんだろ!?」

 「そうだ。だが、見た目の年齢は関係なく、その者の限界まで極めたものに与えられる。つまり、それを与えられたからには、そこがその者の限界なのだ!」

 ノエルの見た目は二十代前半ほどの青少年、レイラさんとやらもそのくらいの見た目らしい。

 若くより功績を上げ続け、羊学校時代から、”天児二堂”とも二人は呼ばれていたらしい。

 その才能も若くして限界を迎えたということだ。

 「私は実年齢四十二だ。”不老”はその限界年齢が老いていれば老いているほどその力は強い証拠になる」

 若くして限界を迎えてしまう。

 並大抵の実力でなく、それも天才がなす業なのだろうが、ダフトほどではないということなのか。

 「今、五代羊会の中で”不老”を得ていない、つまりまだ伸びしろがあれるのはザムとアイリスの二人だ」

  五代羊会の残り一人は先の闘いにて殉職。

 つまり、五代羊会の半分は限界に来てしまっているということだ。

 「だから、僕たちの目標はその二年後までに、できるだけ羊会の力をつけること、つけさせること」

 限界を迎え、これ以上強くなれないノエル達は後世の育成という手段をとったのだ。

 「だが、これはあくまでも”僕”達の目標だ。なにもディルフィニウムを倒すことをあきらめたわけじゃないよ」

 ラエルはノエルが言わんとすることがようやくわかった。

 「”僕”たちには不可能だ。だが、まだ”不老”を得ていない君たちは伸びしろづくしだ」

 「だからこその期待ってわけですか」

 「そう。もう強くなれない僕たちには無理だ。だが、君とルーファはまだ神力を使い始めたばかりなのにここまでこれた。ザムやアイリスもまだまだ強くなれる。だから君たちは、”不老”を得ていないもの全員が、人類の期待だ」

 「話が単純で分かりやすい。ルーファも喜ぶでしょうよ」

 話し終え、ノエルは門を開け外へ行くと、仲間たち全員に言い放った。

 

 「君たちは人類の希望だ!道半ばで息途絶え、自身が生を全うできずに、今日死んでしまうかもしれない!」

 ノエルは勇ましく、これまでとは違った、最初に会った時のような威圧的な、だが鼓舞するような面構えで叫ぶ。

 「だが、ここにて”命令”を与える!全員、この戦いで自身の限界を!今の力を超え、強くなって!一人残らず還っていけ!」

 社長。その社、グループを統率し、導く者。


 自身が頭に立ち、その道を切り開き、後世に”託す”。それが私の選んだ生だ。

 

 羊会社長ノエルは外へ出るまでの道でそうラエルに語った。

 ”魔境訓練”。最も過酷で最も効果的とされる訓練。

 これまでの死者、数知れず。その数は”窓”が都市に開いていた時の何倍にも及ぶという。

 だが、この戦いで死ぬなど思っているものは誰一人いなかった。

 「道は僕が開ける!全員ついてこい!!」

 何度この地を踏んだのか、何度仲間を死なせてきたか。ノエルは毎度思う。

 

 ノエル:能力”命令”・・・自身の神力を下回るものに拒否できない命令を与えることができる。

 

 何度この能力ちからに裏切られたことか。

 もう自身を信じることはやめた。

 信じるは仲間のみ。

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