020 3代目関東七王会貸元頭〝コガ・ユウダイ〟
「…………さすが、魔性の女」
リタはそうボヤくしかない。あのクドウ・ユリすらも惚れさせた女のキスの力は、それこそ原作知識ごときでは計り知れないものがある。なにせ、リタ自身も思わずユウに惚れそうになったからだ。
そうして自身の唇を軽く触っていると、
なにかが、近づいてくる気配を感じた。これは何者の〝闘志〟だろうか……いや、そもそも闘志を感じ取れるようになったのか? リタは疑問符を頭に浮かべながら、コウタたちのいる部屋へと戻っていく。
そこには、葉巻をくわえている男がいた。黒髪のオールバックで、鋭い眼光を飛ばしている。黒いスーツに身をまとい、余裕たっぷりの笑みを見せている。
(コガ・ユウダイ……? なぜここへ)
彼の名はコガ・ユウダイ。分岐が多い『サイバーパンク・サムライ』というゲームの中でも珍しい、必ず闘うことになる中ボスだ。独立組織のヤクザ〝関東七王会〟のカシラ──ナンバー2にして、七王会が独立できている最大の要因。そんな男が、なぜユリのヤサへ?
「なんだ、オメェ。ヒトが楽しく飲んでるときに」コウタは一瞬で戦闘態勢に入る。「どこの馬の骨か知らねェけど、ケンカならあしたにしてくれ。どうせ二日酔いになるが、ちょうど良いハンデだろ──」
コガは、そう言い放ったコウタの腹部に拳を捩じ込ませる。コウタが唾液を垂らし、その場にへたり込む頃、ユリも危険性に気が付く。彼女は〝サムライ・スピリット〟で迎撃しようと集中力を高めるが、
「テメェら小物に、興味はねェ。おれはそこの金髪に用があるんだ」
コガは、リタを指差す。指名を受けたリタは、鼻を鳴らして余裕そうな態度を取る。
「七王会のカシラともあろう者が、小物たちの集いになんの用? アンタの眼中に、私が殺したチンピラの命はないよね?」
「その通り。チンピラなど、いくらでも替えが効く。だが、オマエは代用が効かない」
「そりゃどうも。で? 要点から話すべきでしょ」
「仕事を依頼したい。オマエにとっても悪い話ではないはずだ」
「へェ……。互いにウィンウィンになれる話なんてあるの?」
「トーキョー銀行のシブヤ支店を襲えば、新世界同盟の資金源を断てる……とは思わんか?」
(シブヤ支店……。そうか。新世界同盟は、あそこに相当な金塊を隠してる。七王会はそれに1枚噛みたいのか)
「どうした? 黙り込んで」
「いいや。ちょうど良いと思っただけさ。新世界同盟にケンカを売ろうとしてる私らからすれば、ね」
どの道、コガはリタの行動を追っているはずだ。ミジマ・マサトシを倒し、新世界同盟から1億円の懸賞金を懸けられていることくらい、彼の情報網を使えば一瞬で分かる。
「お、おい。リタ──」
リタは人差し指を口元に当てる。「黙っていたほうが良いよ。今の私らで敵う相手じゃないし、この男は話を遮られるのを嫌うからね」
レベリングなんて単語があるように、ここがゲーム内世界だとしても、そうでないとしても、経験を積んでおかないとコガ・ユウダイには敵わない。結局対峙する可能性が高いのなら、余計に。
そして、ユリは押し黙る。あのコウタを一撃で落とした男。真っ向から敵うわけないと理解したのであろう。
「では、簡潔にまとめよう。我が七王会が強盗への準備を整える。それで、オマエが首班になってシブヤ支店を襲え。報酬はそちらが7割持っていて良い。ただ、ひとつだけ忠告するならば──」
「シブヤ支店は、このネオ・トーキョー屈指のセキュリティを誇ってる。警報を鳴らされれば最後。特殊警察と新世界同盟の強化兵、更にサムライ・スピリットを持ったエリート兵が雲霞のごとく湧いてくる。まぁ、連中の資金源なんだから当然ではあるけどね」
リタは不敵に笑うが、内心コガの威圧感に圧されていた。コガはそれを見透かしているのか、苦笑いを見せる。




