019 〝大好きだよ〟
コウタはボヤく。「なるほど。神のお告げとやらは、この世界をゲームみたいにしちまうわけだ」彼は続けた。「それでも、懸ける価値はありそうだな。タカハシ・ミサキのことはちょっと知ってるが、アイツは創麗の中でも相当な過激派。武力をもって、新世界同盟を潰そうとしてる。やべェ女なのは間違いない」
タカハシ・ミサキは、『サイバーパンク・サムライ』の分岐のひとつで出てくるキャラである。新世界同盟を最短で攻略したい場合、彼女は有用になってくる。だからリタは、彼女を引き合いに出したのだ。
……もっとも、タカハシは新世界同盟との抗争で死ぬ。それに、本来の主人公コウタと関係性がよくなることもない。それ故、タカハシはコウタからの援助を得られず死に至る。
ただ、あえてその前提を覆せば、タカハシのような有能を生かせれば、完全攻略も夢ではない。
「けど、どうやって接触するんだ? 創麗の幹部ともなれば、街中でばったり会えるヤツでもねぇだろ」
「良い質問だよ、ユリ。カップス・バー、って知ってるよね?」
「あぁ。レズビアンが集うバーだろ。あたしも何回か行ったことあるけど」
「そこにタカハシ・ミサキがいるとしたら?」
「おいおい、マジか。あの女、同性愛者なの? つか、どこでその情報を──」
「神のお告げだよ」間髪を入れない。「あそこは誰でも入れる女性同性愛者用のバーで、タカハシは昔好きだった女の面影を未だに追ってる。その女を味方に引き入れても良いんだけど……いかんせん居場所が分からない」
ユリが冗談めかしく言う。「お告げはそこまで教えてくれんのか?」
「限度はあるさ」
タカハシ・ミサキが同性愛者で、学生のとき好きだった女性に執着している情報を持っていても、その女が誰なのかまでは明かされていない。そのため、接触は不可能に近いだろう。
「さて、私のお告げが正しければ、タカハシは日曜日だけあのバーに現れる。今は金曜日。あと2日あるね。だから、酒飲むのはもうやめたら?」
「あたしの肝臓は不沈空母だぞ?」
「おれの肝臓もな」
「なるほど。話にならない、ってこういうことだね」
コウタとユリが仲良しなのは良いことだが、肝心なときに酔いつぶれられていても困る。が、またもやテキーラショットを飲んでいる始末。もう放っておけば良いや、とリタは思う。
「んじゃ、私はお酒嫌いだから奥でユウの調子でも見てくるよ」
「あぁ。ユウも酒弱ぇからな~」
「テキーラ5杯で潰れるなんて、気合いが足らんべ」
(酒クズって、こういうヤツらのことなのかね? 昔の上司よりタチ悪いよ、これじゃあ)
そう心の中で呟き、リタは鉄火場みたいな部屋から出ていく。
クドウ・ユリのヤサは、窓がない。太陽光なんてものは入ってこないから、時間は時計を見なければ分からず仕舞い。ひとまず時計を見る限り、今は昼の12時02分。なにかをするにしては、充分な時間帯だが、なにかをするにしては安全な街ではない。
「ユウ、大丈夫?」
そんなわけで、リタは気分が悪くなっていそうなユウの様子を見に行く。声がけしても、「あー」とか「うー」しか返ってこないが、死んでいないだけ良いだろう。
「つか、床で寝てたら風邪引くよ」
さも当然のように床へ転がっていたユウを、リタはベッドまで抱っこして運ぶ。
その数センチの最中で、
「ん……」
ユウは、無意識のうちにリタの唇を奪った。小さく薄い唇から酒の匂いが垂れ込み、リタは思わず存在しないムスコが反応しかける。
「リタ、大好きだよ……」
そう小さく呟き、ユウは寝息を立て始める。




