018 神にも等しい身分
「まぁ、可愛いギャルの頼みなら断りたくねぇけど……」
ユリは、テキーラショットを飲み干す。
「少し、考える時間をくれ。新世界同盟に宣戦布告するのは、並大抵の覚悟じゃできねぇ」
いくら酒で酔おうとも、新世界同盟という巨大組織にケンカを売るのは躊躇するものだ。いや、ここで変に躊躇されないほうが困ったりする。冷静に、冷徹に、慎重に、ことを運ばねば、一瞬でリタたちは全滅してしまうからだ。
「それもそうだね。無鉄砲で敵う相手じゃない」
コウタもテキーラを飲み言う。「世界中の正規構成員は30万人超え。創麗の正規に比べれば大した数じゃねェが、それでも30万人VS4人じゃ、たとえおれらが像でアイツらがアリでも、まず敵わねェ」
じわじわ削っていくか、それとも一気に詰めていくか。30万人の正規構成員に、数百万人の準構成員。
それでも今の新世界同盟の上層部に不満を持つ者は多く、それが崩壊の理由になるわけだが、まだ正面切って勝負を仕掛ける段階ではない。原作通りなら、新世界同盟の内紛は、もう1年くらい経たないと発生しない。
ただ、こうも考えられないか? どのみち内部崩壊を起こすことが決まっているのなら、それを少し早めてしまえば良い、と。
「ねぇ、ユリ」
「なんだね?」
「驕る平家は久しからず、って言葉知ってる?」
「あぁ? そりゃ知ってるよ。驕りを持ったヤツらは、長く栄えられず滅びてく、って意味だろ?」有利は酒が回っているのか、まぶたを何度も落としかけている。「要するにオマエは、今の新世界同盟を平家にたとえてるわけだ。上層部の老人どもは、オムツをつけながら会議してるって噂だしな。けど、そう簡単に御せる相手じゃねぇから創麗が妥協したんだろうよ」
「でもさ、創麗にとって新世界同盟は目障りでしかないよね。自分たちの一極支配を唯一妨害できるヤツらだから。そこで……近いうちに創麗から協力を取り付けられる、と言ったらどうする?」
「……!」ユリは目が覚めたように見開く。
「リタ、オマエなにを言ってるんだ? オメェは確かに創麗と敵対してねェけど、そんなのは今だけだろ。だいたい、創麗の兵隊を引っ張ってこられるほどの野郎とのコネクトを持ってるのか?」
「持ってる」一言だけだった。
リタは、端から見ればイカれていて、なおかつ計算高い金髪ギャルだ。イカれていなければ、ネオ・トーキョーの裏社会の支配者〝関東七王会〟を襲わない。計算高くなければ、その武器を使って新世界同盟の傘下企業から〝サムライ・スピリット〟を奪わない。
そんなリタには、もうひとつ強みがある。それは、この場にいる誰よりも、いやこの世界の誰よりも恐ろしい力である。
「おま、マジか……」
「オメェ、すげェな……。けど、うまく行く確証があるのか?」
呆気にとられ、酒をこぼしてしまったコウタとユリへ、リタは力強く宣言する。
「大丈夫。私は〝神のお告げ〟を得た者だから」
この世界が〝サイバーパンク・サムライ〟の世界ならば、リタは神にも等しい役割を担っている。ありとあらゆるエンディングを迎えてきた。その知識は、必勝への道しるべだ。
静まり返る現場で、リタは淡々と語る。
「まぁ、コウタは創麗を抜け出してきた人間だから、この作戦へは関わらないほうが良いかな。けど、自分の身くらい守れるでしょ? だから創麗の幹部との接触は、私とユウとユリで行う。そんな複雑な作戦でもないから、安心して」
ユリが怪訝な面持ちになる。「ど、どういう作戦だよ?」
「創麗の軍事部門幹部のひとり、〝タカハシ・ミサキ〟と接触する。彼女は有能だけど、上に睨まれて出世が遅れてる。そこをうまく口説き、新世界同盟と闘えるだけの兵力を捻出させるのさ」
リタは、それこそゲームの攻略方法を教えるような口調で言い放つのだった。




