016 闘う女はかつての恋人のために
「リタ!!」
ユウは思わず、声を荒げる。だが、彼女もヨタヨタと立っているのも精一杯。そんな〝仇〟がいるのを視認したマムシは、コウタを乗り越えリタを薙刀で斬り裂こうとする。
「おい! おれとの決着がついてねェぞ!?」
「貴様など、端からターゲットではない!!」
このままだとリタが刺し殺される。ほぼ確実に。
そのとき、
ユウの脳裏に、奇妙な現象が走る。生まれたときから、今に至るまでの走馬灯のような、なにかが。
スラムに生まれ、酒浸りの親に8歳のとき捨てられ、常に庇護者を求め、たどり着いた先がリタという相棒。その相棒が、今まさに殺されかけている。怒りや焦りよりも先に、不思議と〝誰かを守る〟という感情が湧き出てきた。
すると、
「……っ!!」マムシは、息を呑む。
ポンッ、と小気味良い音とともに、薙刀が明後日の方向へ飛ばされた。理由は単純。ユウが、火縄銃でそれを撃ったからである。
「それで良いんだ……。あと、頼んだ」
リタはそえだけ言い残し、その場にへたり込む。火縄銃に銃弾を再装填し、ユウはマムシの頭にそれを向ける。
冷徹にユウは言い放つ。「遺言は?」
「……悪いな。悪あがきは私の専売特許でね」
マムシは、その重武装からスイッチを取り出し、押した。
そうすれば、
隣接するビルから、なにか異臭が漂い始める。
「そういうことか……。ガスマスクつけてたのは」
コウタが奥歯を噛み締め、悔しさを顕にした。
ユウもまた、その作戦の意味を理解する。マムシは、こうなることも想定していたのだ。〝毒ガス〟をマンションへ散布し、そのまま自分は飛行能力で逃げおおせれば良い。極限で闘っていたコウタにも、ユウにも気付く通りは、ない。
だが同時に、マムシが生き残れるわけがないのも事実だった。最終手段を切らなければならない状況なのに、器用に飛行なんてできるわけがない
「自爆上等で来やがって……。どの道勝ちなら、諸共連れて行くぞ」
「そうしろ……」
その証拠に、コウタがベルトから取り出した拳銃の鉛玉で、マムシは撃たれた。
ガスが少しずつまん延していく。現在、コウタもユウもまともには動ける。今から全力で非常階段を使えば、なんとか逃げられるだろう。
しかし、リタはどうする? 気絶した160センチの女を運ぶ余裕はない。サムライ・スピリットの怪力で余裕だと思われるかもしれないが、ふたりは大分サムライ・スピリットを消耗している。もはや、腕力強化も使えないであろう。
「クソッ……。あと2分もすれば、全員死ぬな」
コウタは苛立ちを顕にしながらも、なんとか逃げる方法を探す。窓ガラスが割れている以上、自殺覚悟で飛び降りればガスからも逃げられる。ただ、それをやってなにになる? 2分の寿命が、10秒足らずに変わるだけだ。
「コウタ。このマムシって女は、どうやって飛行するつもりだったの?」
「〝バックパック〟だろうな……背中を見てみろ。クラスターがついてるだろ? それで逃げるつもりだったみてェだ。ただ、ひとりしか使えない」
絶体絶命。コウタとユウは、花粉のごとく飛んでくる毒ガスに、すでに咳き込み始めている。
こうなれば、自殺覚悟で飛び降りるか? コウタはそう考え、窓ガラスと空の間に立つ。
すると、
「死に方を選べるなんて、幸せじゃあねェか……!!」
ぶぉおおん……と重たい音が聞こえた。ヘリコプターの羽の音であろう。随分近くまで接近してきている。コウタは怪訝に思うも、ユウはそのヘリの主を知っていた。
「ユリ!! 助けに来てくれたの!?」
ベリーショートヘアで赤と金の混じった髪色の、男っぽい姿の女はいう。
「当たり前だろ! 元〝カノ〟が死にかけてるんだぜ!?」




