015 闘う女は死んだ男のために
「な、なにが……っ!!」
ユウは現状を把握しきれていなかった。
ガラスの破片が飛び散り、そこには毒マスクのような被り物をした者が立っている。彼はライトマシンガンをユウに向けた。
が、
「女から狙うとァ、情けねェヤツだなァ!!」
即座にコウタが日本刀──カタナを取り出し、ライトマシンガンを真二つに斬る。彼は犬歯が見えるほどの笑みを浮かべ、その勢いでガスマスクの者へ突っ込んでいく。
その刹那、
毒用のマスクをつけた者は、薙刀を取り出してコウタと刃をぶつけ合う。
カキンッ!! と甲高い音が鳴り響く。そして、家電等が台風のごとく吹っ飛び、コウタはユウへ告げる。
「オメェも〝サムライ・スピリット〟持ってるんだろ!? 応戦しろ!! 殺すか殺されるかくれェ、自分で選びやがれ!!」
ユウは、その言葉に腹積もりを決める。未だ〝カタナ〟も持っていない彼女だが、同時にカタナは窮地のときに現れるものだ。この状況より追い詰められている場面はない。ならばきっと、覚醒してくれる!!
「さっきから、毒ガス用のマスクなんざつけやがって……。オメェ、毒ガスでもばらまくつもりか?」
「答える義理はない」
機械音声で返され、コウタは鼻を鳴らす。
「そりゃそうだな。全くもって、その通りだ。だがよォ……!!」
刃がぶつかり合う中、コウタは一瞬の隙をついて敵のマスクを斬り裂いた。
「もしガスをばらまくつもりなら、コイツを斬っちまえばそれはできねェよなァ!?」
顔があらわになる。褐色肌で金髪の女だ。コウタは、首を横に振って溜め息をつく。
「オメェ、新世界同盟の掃除屋だろ? コードネームは〝マムシ〟で、ミジマに匹敵する実力者だとか」
「ミジマ・マサトシは、良い掃除屋だった」マムシはハスキーな声で続ける。「我々に歯向かう愚か者を次々始末していき、その名前を聞いただけで震え上がる無法者だらけだった」
「あぁ。ミジマ・マサトシは本名だもんな。で? オメェはアイツに惚れていたの? わざわざ仕返しに来るとァ」
「……好きに想像すると良い。だが、仇は取らせてもらうぞ」
そもそも、奥のベッドで悶えているリタとユウは、新世界同盟が賞金を懸けている。ミジマという有能な〝掃除屋〟を殺したからだ。ふたりは各々、1億円で生死問わず。だから、ミジマに並べるほどの存在が挑んできてもおかしな話ではない。
「あぁ、そうかよ……!!」
コウタは日本刀を握り直し、薙刀とそれをぶつかり合わせる。一発、一発ごとに波動が走り、タワーマンション11階はおろか、このヤサ自体が倒壊しかねないほどの揺れが起こる。
「おいおい。このままじゃ、マンションが倒壊してオメェ諸共死ぬぞ?」
「良いことを教えてやろう。キョウゴク・コウタ。天空の女王とは、この私だ」
「答えになってねェよ……!!」コウタは口角を上げる。
「分からないのか? 私は空を飛べる。貴様らは飛べない。奥に潜んでいるサトウ・リタも、その点では同様であろう」
「なるほど……成り金が死んでも心は傷まねェってか!!」
コウタは案外冷静だった。
対して、ユウの心には確実な焦りが生じている。カタナが現れる気配を感じ取れない。コウタとマムシは互角に見えるが、このままではマンションが倒壊して彼女以外死ぬだろう。
「……この街で死に方を選べるのは、強いヤツだけだもんね」
ユウはそう呟き、必死にカタナを発現させようとするも、
結果は無惨。カタナは現れず、焦げ臭さが鼻につく。そう遠くないうちに、マンションごと倒壊する。なおもユウは、発現し切れない。
その最中、
「ユウ……。一旦落ち着いて、冷静に、自分を信じて」
寝込んでいたはずのリタが、壁を支えに、ユウの近くに立っていた。




