013 モブふたりと主人公だからこそ
警察の用意した隠れ家──ヤサにやってきた、サトウ・リタとミヤシタ・ユウ、そしてキョウゴク・コウタ。荷物らしい荷物もないので、ひとまずリビングの電気をつける。
「良い場所だね。まさかタワーマンションだとは」
「ね。ネオ・トーキョーを一望できる」
「相変わらず、汚ねェ街だ。至るところに、創麗の広告が貼られてやがる」
ヤサはタワーマンションの11階で、ネオンが光り輝くネオ・トーキョーを眺められる。コウタがいうように、創麗グループの広告がありとあらゆる場所に設置されていて、ドローンが街を監視している。とはいえ、ここはネオ・トーキョーにしては珍しく〝中立地点〟なので、やかましい広告以外は平穏的ではある。
「さて、飯でも食うか」
「冷蔵庫になにか入ってる? コウタ」
「あぁ。千切りされたキャベツと、油がある。こんな街にしちゃ、ごちそうじゃねェか」
「良いね。食べようか」
前世でいうところの〝無限キャベツ〟であろう。ネオ・トーキョーの住民は、富裕層を除けば、パサパサのクッキーと甘ったるいコーラくらいしか飲めないし食べられない。しかしさすがに、タワーマンションの一角ともあれば、それなりの食べ物は用意されているようだ。
「酒もあるぞ。ビールとハイボール。飲みてェヤツは?」
「私は良い」リタは断る。
「あ、じゃあ私は飲む。とりまビールで」ユウが乗った。
リタは元々、酒があまり好きではない。ブラック企業務めのとき、無理やり飲まされて連日二日酔いを味わったからである。そんなことを話しても意味がないので、ただ断るだけだが。
「へいへい。んじゃ、キャベツとビールで腹満たそう」
どうやらコウタが作ってくれるらしい。作るといっても、混ぜるだけだから誰でもできるが。
リタとユウは、ソファーに腰を下ろす。目の前には、創麗にとって都合の良いニュースを流すテレビ。当然、点けることもない。
だからリタはユウに向き直し、
「近いうちにさらえる、新世界同盟の幹部級の子どもか孫いるかな?」
と尋ねてみる。
「さぁ、ハル・チカヒロに聞けば良いんじゃない?」
「駄目だよ。カネさえ積まれれば、私らみたいな無法者でも、創麗や新世界同盟のトップでも情報を流すヤツは信用できない」
ハル・チカヒロは、徹底した拝金主義者である。彼は、カネさえ払えばなんでも教えるが、それはすなわち、リタたちの完全な味方ではないということだ。カネという分野では、そもそも2大勢力と同じ土俵には上がれない。
では、どうする? 答えは簡単だ。
「ユウ。別にハルほどの情報屋じゃなくて良い。こちらが信頼できる情報屋を探してほしい」
「無茶いうなぁ……」
「ユウにしかできないからね。私やコウタは、戦闘担当だからさ」
「……分かったよ。元〝カノ〟から探ってみる」
ユウは口を尖らせながら、スマホとにらめっこし始める。
(この子は作中に絡んでこない〝モブ〟で、おれもまた〝モブ〟なのは間違いない。本来の物語は、ハルの情報に翻弄されて闘う羽目になるけど、モブだからこそ持ってる情報網に懸けても良いかもしれない)
本来、話の本筋に関わらず、おそらくコウタにすら殺されず殺されているモブのユウだからこそ、なにか奇跡を起こせるかもしれない……という目論見。吉と出るか、凶と出るか。
「作り終えたぞー」
そんな中、コウタが山盛りのキャベツに油を浸したものと、缶ビールを2本持ってくる。甘ったるくてまずいコーラ……でなく、ちゃんとしたコーラもある。
「んじゃ、腹ごしらえしておくか」
「うん。ユウ」
「あ、うん」
3人は、飯を食べてエネルギーをつけていく。




