012 革命前夜
「………………!!」
指揮官の男の喉が、枯れ上がった。目の前にいるギャルみたいな女は、大真面目に自分を殺そうとしている。この世界の死はほとんどの場合、不本意なのは分かっている。だが、同時に生き残るチャンスも与えられている。ならば、
「……総軍撤退だ。おれたちじゃ、コイツらには敵わない」
力なく、そう宣言した。ヒットマンたちも重々承知なのか、武器をおろす。彼らは意気消沈しながら、それぞれ車に乗っていく。
「おーい、忘れ物だぞ~」
その最中、コウタは先ほど斬り裂いたロケット・ランチャーの弾丸を車へ放り投げる。空気が淀むほどの大爆発を起こし、車の1台が粉砕された。
「おい! そんなマネするな!!」
「大丈夫だよ、大丈夫。どうせ死んだところで、誰も悲しまねェから、ヒットマンなんてやってるんだろ」
コウタは味方にこそ優しいが、敵には辛辣そのものだ。ここも原作通りといえば、原作通りである。
車と乗り込んだ者が数名死んだようだが、コウタは気にする素振りも見せず、リタへ語りかける。
「オメェ、行く宛あるの?」
「あるよ。ハル・チカヒロを仲介に、サツがヤサを用意してくれた」
「ハルが絡んでいるんなら、盗聴されることもねェか。SHA切れる前に、そっちへ行こう。あの黒髪メガネも一緒に」
「うん」
ヒトの命など、今やジンバブエ・ドルよりも安くなってしまった〝ネオ・トーキョー〟。この街で生き残り、成功を収められるのか。……いや、成功しなくてはならない。新世界同盟も、創麗も、すべてなぎ倒し、平和な日本で大金持ちになれば、それが成功に違いない。
*
適当に盗んだ車をコウタが運転し、リタとユウはハルが渡してきた位置情報を頼りに隠れ家──ヤサへと向かっていく。
「これからの計画とか、考えてるの? オマエらだって、なーンも考えずにラセツ・カンパニーを襲ったわけじゃあるめェ」
リタが答える。「考えてるよ。すべて計画通りに行くのなら、まず新世界同盟のボスの子どもをさらう。それと交換で、新世界同盟の解散を迫る。せめて、日本支部だけでもね。そうしたら大パニックになるだろうけど、そうなれば創麗が新世界同盟のシマをぶんどるはず。創麗との闘いは、文字通り総力戦だね。新世界同盟から離脱した連中を使い、最終決戦する」
コウタでなく、ユウが目を見開く。「リタ、貴方そこまで考えてたの? 私はてっきり、あしたを生き残るために色々したのかと」
コウタはハンドルを握りつつ高笑いする。「良いねェ!! 面白れェじゃん! 子どもの存在は親にとって弱点だもんな!! しかしよォ、新世界同盟の日本支部長ともあろう者が、子どもの身柄と引き換えにあの大組織を解散するとは思えねェな」
リタは鼻を鳴らす。「新世界同盟も、創麗も、肥大化し過ぎたのは否めないでしょ? もう限界なんだよ。新世界同盟は元々、創麗グループという超巨大企業に対する反抗組織として出来上がったわけだけど、今じゃ創麗と同じようなことをしている。そして、新世界同盟のボスはもう高齢だ。側近たちがなんとかまとめてるけど、その側近も高齢者たち。新しい時代には、ふさわしくないよね」
新世界同盟はかろうじて一枚岩だが、それは重大な弱点になってしまう。80歳弱の最高指導者に、果たして子どもや孫を見捨てる覚悟を持てるか。それに加えて、側近たちの身近な連中もさらってしまえば、いよいよ老人たちは引退の二文字がよぎるだろう。その後は解散させても良いし、新世界同盟そのものを実質的に支配することで、創麗との最終対決に備えても良い。
「というわけで、革命前夜だね。この国から始まった、世界のサイバーパンク化。なら、この国が……いや、私たちが終わらせるべきなんだよ」
リタは、力強く宣言するのだった。
第一章お終いです。
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