8話.メチャクチャな授業
あれから10分後……
「へー!レノールこんな難しい問題やってんの!すげーじゃん!俺なんか簡単すぎる問題出されてるのに!頭いいんだね。」
久しぶりにレノールに向けた言葉に対してレノールは一瞬固まる。頭がいい?わたしに向けて?でももしかしたら他に人が…いや、ここにいるのはアルソー先生と婚約者の彼だけだ。レノールは自分に向けられた言葉を上手く受け止めることが難しかったのだ…
「……いいえ…これぐらい当然のことですわ。」
「謙虚するなよ…あれ?健康だっけ?」
「謙遜ですわよ。」
「そうだった。」
すると2人に割り込むようにアルソーは再び授業に集中させる為声をかけた。
「はいはい、私語は慎んでください。いいですか?ベルリアン公子様、レノール様が解いているこの問題は解けて当然ですから!」
「じゃあ解けない俺は?」
「えっと…」
自業自得だが、突かれたくないところを突かれる。
「俺はどうなの?」
「それは…………」
言語化できずに沈黙が続く…
だがレノールは案外この空気が悪いと思っていない。むしろ少しだけ胸がスカッとした。
だが、この沈黙に耐えられないアルソーは会話話題を逸らす。
「そんな事より!」
「え?今の話“そんな事”で終わらせんの?ねぇ納得する答えちょうだいよ。」
「わかりましたから!ベルリアン公子様!!少々お静かに。」
やっと授業を再開させたアルソーは笑顔の仮面をつけるも、怒りと羞恥心でこめかみに血管が浮き出ていた。
笑ってはいけない、いつも怒ってレノールに八つ当たりしてくる先生のこんな姿を笑ってはいけないのに肩だけではなく肺とみぞおちがプルプル震え、レノールはこの程度の人間だと実感した。だが、笑ったら体罰を受けてしまう、耐えないと…
だが、その次も…
「レノール様!!何度言えばわかりますか!!この問題の解き方が間違って…」
「そんなに怒ったら顔にシワが増えるよ?アルソー先生。」
その次も…
「レノール様は本当に要領が悪いですね!!」
「うっわ汚ったな、レノール、いまの見た?めっちゃ唾飛んでる、品がないよなぁ?」
フランツによって授業は台無しにされていた。が、こんなメチャクチャな授業はレノールの中にねじ込まれたように教育された気に入らない価値観をちょっと変な婚約者が覆してくれた。この気持ちは久しぶりだ。
そしてあっという間に1時間後、家庭教師がフランツによって言い負かされる姿をずっと見ていたため、気がつけば授業は終わっていた。
「では、本日の授業はここまでですっ!」
アルソーが不機嫌のまま居間から出ていく所を見届けると、レノールは感謝の言葉をフランツに放つかのように声をかける。
「ねぇフランツ様、まだお暇していますか?」
「これからずーっと予定ないよ。」
「それではよければお茶でもしませんか?」
「ほんと?!いいの?」
アルソーから見たフランツは悪魔そのものだ、確かにレノールも婚約者の“第一印象は”素敵だったがそれは顔が整っているからであって、その他は本当に変な子でこわかったが、その変なところは彼の長所なのだろう。
「あ、フランツ様、次遊びに来る時は事前にご連絡くださいね?」
「わかった、じゃあまた明日遊びに来ていい?」
「ええ、明日もお待ちしておりますわ。」




