7話.悪役令嬢のあの子は
ベルリアン公爵邸___
フランツは家庭教師と居間で算数を学んでいた。
フランツは椅子に座り机の上に置かれた問題を頭をひねらせながら次々解いていた。
「そういえばなんか邸の中静かじゃね?おれの乳母急にいなくなったし。」
「左様ですか。」
あえて何も言わない、いやそれしか言えなかった。原因は目の前にいる子どもだという事は絶対に言うべきではない。
まぁ、あのメイド達は殆ど仕事をサボっていたから居てもいなくてもいいだろう。
フランツは教科書に書かれた最終問題をじっくり見てノートに式を書き、脳内で計算しながら答えを出す。
「終わった!先生!答え合わせして!」
「はい、では…」
フランツは自信満々にノートを見せると家庭教師は容赦なく答え合わせをする。
間違いの数はは20問中8問だった。
「おや、頑張りましたねフランツ様、前回と比べて間違いが2問減りましたね。」
教え子の顔は『どうだ!凄いだろう!』と言いたげの顔をしている。
そして家庭教師はその可愛い教え子の分厚い教科書をゆっくりと閉じ…
「さて、本日の授業はここまでです。お疲れ様でした。」
「ありがとうございました。」
フランツはぺこりと頭を下げ、椅子から立ち居間から出ようとする。
と思ったら引き返して机の上の教材を片付けてから今度こそ出る。
彼は廊下を歩く…
「レノール、来れたら来るって言ってたくせに全然来ないじゃん。」
そう、彼女は可愛い女の子であり婚約者であり、そして物語の中心にいる悪役令嬢だ。自分がこの小説の主人公だと自覚しているフランツにとってはサングラスをかけて背後にキラキラが目立つ大スターのような存在だった。
「そうだ。」
彼女が来ないなら自分が向かえばいいのではないか?自分はレノールの婚約者なのだから。
そうと決まれば馬車に乗ってレノールの家に向かおう、こうしてフランツは御者に頼み込みグリット伯爵邸宅に向かう。
______グリット伯爵邸にて
その頃、レノールは算数の授業を受けていた。
細かい文字が書かれている教科書を開き問題を解く、確かにこの歳で習う式なんだろうが、この問題の難易度は高い。一問を解くのに時間がかかり、その度にレノールの女家庭教師、アルソーが小さい教え子の綺麗な手を鞭で叩く。
「痛いっ…」
「レノール様!!問題を解くのが遅すぎます、私が若い頃はこんな簡単な計算なんてすぐに解けてしまいますわ!要領も頭も出来が悪い娘を持ってっ!あーあ!伯爵様もほんっとうに不憫です事っ!」
ああ、こう言う時はどう返すべきだろうか…レノールはゆっくりと口を出した。
「あのっ…ごめんなさい…」
「謝って済む話じゃないでしょう?!」
「きゃあっ!!」
アルソーの金切り声のような怒号がレノールの鼓膜を刺激し、肩に力が入ると同時にアルソーは教え子の髪の毛を両手で掴み強めに引っ張る。
「先生っ!やめてくださいっ!!」
「うるさいわね!!教師に口答えするつもりなの?!」
アルソーが怒鳴るたびに顔と髪に唾が飛んでくる。
「全てはあなたが公爵夫人になる為に私がわざわざ時間を割いて指導しているのですよ!ごめんなさいじゃなくてありがとうございますでしょう!頭を使いなさいよ!!」
いいや、嘘だ、グリット伯爵が家族として認めない者は家族ではない…実際にグリット伯爵一家には子宝に恵まれずレノールと歳の離れた弟しか子供がいなかった。
伯爵家の夫妻は後を継げる息子が欲しかったのだが、生まれたのはレノールという女。彼女が生まれてから子宝に恵まれなくなったと伯爵夫妻は理不尽に自分の娘にその怒りを当てているのだ。
そしてそれは使用人もそうだった。家族として認められていないのなら何をしてもいいと、アルソーもそのうちの1人だった。レノールは伯爵家のボロ玩具の様な孤独な娘だった。
先生の怒りを、いや納得する言葉を出さないと。恐怖に苛まれたレノールは咄嗟に声に出す。
「ごめんなさい先生!…ありがとうございます!わざわざ私の為に指導をしてもらっている身で……要領が悪くて申し訳ございません。」
するとアルソーは掴んでいたレノールの髪を離す。
「全く、次からは気をつけなさいよ!」
「はい…以後気をつけます…アルソー先生…」
その時だった、居間の扉を慌ててメイドが開けると…
「失礼しますアルソー様、客人が見えまして…」
「はぁ?客人?!なんなのよこんな時間に!」
レノールはその客人の方を見た、ああ最悪だ、そしてその客人とは…
「やっほーレノール、遊びに来た。」
フランツ・ベルリアンだった。
「あれ?レノール何してんの?」
レノールって…せめてグリット伯爵令嬢と呼ぶのが常識でしょう、確かにこのフランツっていう人の顔は整っている、一目見た時は第一印象は素敵な方で恋に落ちそうだったがその後の彼の様子はとても変だ。実際に変な目で彼女を見てくる。
あー…困ったな、事前の連絡もなしに来られたし…レノールは彼への対応に困っていたがくしゃくしゃになった髪を軽く整えて作り笑顔を見せ遠回しに帰らせようとする。
「フランツ様、申し訳ございませんがただいま授業中でして…」
「そうなの?」
「ええ…ですのでまた日を…」
だが、返ってきた言葉は…
「じゃあ俺も受ける。」
「………は?」
思わず声が出てしまった、公爵令息様が?授業を?いやいやいや…邪魔なんですから帰ってくださいな、なんて…公爵家の次男である彼に言えるわけない。
彼女はアルソーの顔をチラッと見る、アルソーも嫌そうにしていた。公爵となると大きくは出れないのかそれともレノールにしか強く出れないのか…
「…アルソー先生…フランツ様も一緒に構いませんか?」
「…………ええ、いいでしょう。」
フランツは嬉しそうに微笑むとこう言い始める。
「んじゃあ諸君、そこに座りたまえ。」
フランツは客人の身でありながら、自分が家の主人かの様に態度をデカく振る舞う。彼は何様のつもりなのだろうか。
アルソーはどうせ暇そうにするだけだ、いままで通りに授業をすれば暇になったら帰ってくるだろう…




